« ガラパコスパコス | トップページ | トスカ »

いつぞやは

シス・カンパニー公演「いつぞやは」  2023年9月

今年、岸田國士戯曲賞をとって俊英、劇団「た組」の加藤拓也作・演出。スタイリッシュな空間で、ごく日常の会話から死にゆく友との関わりを描く秀作だ。病いとか大麻とか、きわどい設定もあるけれど、あくまで普通、淡々とリアル。全くふりかぶっていなくて、ほんのり温かい。橋本淳ら俳優陣も高水準です。2日連続の三茶で今度はシアタートラム、なんと前から2列目中央のいい席で9000円。休憩無しの1時間45分。

劇作家の松坂(橋本)がかつての演劇仲間、一戸(ハイバイの平原テツ)の思い出を語るストーリー。一戸はある日ふらりと訪ねてきて、実はステージ4のがんで故郷の青森に帰ると打ち明ける。それを機に、当時のメンバー(夏帆、今井隆文、豊田エリー)で呑み、2日間だけ居酒屋で作品を上演することに。そして故郷に帰った一戸は、やんちゃ時代の同級生で、バツ2のシングルマザー真奈美(鈴木杏)と再会する…

セットはニトリで売っていそうな、生成のテーブルと椅子だけ(美術は山本貴愛)。導入でアンサンブルの劇団員が15人ほど体育座りしていて、客席後方から松坂が、客に飴を配りながら入ってくる。現実からシームレスに劇空間へ移って、引き込まれる。
三方の壁際にある同色のベンチは、収納ユニットになっていて、物語が進むにつれ壁やベンチからどんどん小道具を取り出す。後半、一戸の妄想が暴走し、ビニール人形やら惑星のボールやらゴミ袋やらが散乱。それを綺麗に収納へと戻して、再び静かに、一戸のことを戯曲に書き続ける松坂のシーンに収斂していく。
お互い決して立派な人間じゃないし、思い出すのはくだらないやりとりばかり。苦い後悔もある。でも、そこにいた、ひとりの男のことを書き続けずにはいられないのだ。

楽しみにしていた窪田正孝が怪我で降板。でも、交代した平原の、格好悪くて恥ずかしい、でも肩の力が抜けた造形が見事にはまっていた。終始テンション低く、傍観者めいた橋本の確かさが、また魅力的。なんといっても大好きな鈴木は、軸がしっかりしていて、透明感が一段と増した感じ。ちょっと身勝手な今井と豊田が、それぞれの現実を語ってナチュラルで、そんな仲間達に挟まれる夏帆もいいバランスだ。

これまで加藤を観たのは、安部公房「友達」の演出ぐらいだけど、実に鮮烈だったし、そういえばドラマ「俺のスカート、どこ行った?」の脚本も良かった。遅ればせながら、要チェックです。

Img_3723_20230918230801

« ガラパコスパコス | トップページ | トスカ »

演劇」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« ガラパコスパコス | トップページ | トスカ »