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トスカ

2023年日本公演 ローマ歌劇場 プッチーニ「トスカ」  2023年9月

4年ぶりローマ歌劇場の引っ越し公演で、ご当地を舞台とし、ご当地で初演された定番「トスカ」。ドラマティックなプッチーニの名作を、音楽監督ミケーレ・マリオッティの明晰な指揮で。現代の世界最高峰とも言われるスター、ソニア・ヨンチョヴァとヴィットリオ・グリゴーロが歌いまくって、大満足。劇場らしいイタリアオペラというべきか。東京文化会館大ホール、上手端、前の方で贅沢に5万2000円。休憩2回を挟み3時間弱を長く感じない。

演出・美術は生誕100年で15年ぶりの復活という、ゼッフィレリのもので、スケール大きい正統派。巨大な聖母像があるバロック調の聖アンドレア・デッラ・ヴァッレ教会、天井から肖像画が下がる重厚な警視総監室、そして剣を鞘に収めようとする大天使聖ミカエル像が見上げるばかりの聖アンジェロ城と、すべてが格好良い。古風な衣装、そして人数たっぷりの「デ・デウム」!
主役2人がまた文句なしで、オペラでは日本デビューとなったブルガリアのヨンチェヴァが、子供っぽい我が儘ぶり、プリマの華とプライド、ピュアな信仰心まで、複雑なタイトロールを美しく造形。お待ちかね「歌に生き、愛に生き」は、歌い出しからぐっとひきつける。難しいスカルピア殺しでの、こんなところにナイフが、といった心の揺れも迫真だ。
対するマリオ・カヴァラドッシのテノール、グリゴーロは、ちとやり過ぎとも言われつつ、冒頭の「妙なる調和」から終盤の「星は光ぬ」まで、生粋のローマっ子らしく、輝かしい声で熱く押しまくる。スカルピア男爵、ロシア出身のバリトン、ロマン・ブルデンコは威厳がある一方で、この役にしてはちょっと上品だったかな。なにせもしかしたらオペラ史上最大の嫌らしい役だものね。

カーテンコールではグリゴーロが客席から花束をもらったり、前評判通りのはじけまくり~ 幕間に経営者、国際政治学者やエコノミストの知人と、たくさんお話できて、楽しかったです!

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いつぞやは

シス・カンパニー公演「いつぞやは」  2023年9月

今年、岸田國士戯曲賞をとって俊英、劇団「た組」の加藤拓也作・演出。スタイリッシュな空間で、ごく日常の会話から死にゆく友との関わりを描く秀作だ。病いとか大麻とか、きわどい設定もあるけれど、あくまで普通、淡々とリアル。全くふりかぶっていなくて、ほんのり温かい。橋本淳ら俳優陣も高水準です。2日連続の三茶で今度はシアタートラム、なんと前から2列目中央のいい席で9000円。休憩無しの1時間45分。

劇作家の松坂(橋本)がかつての演劇仲間、一戸(ハイバイの平原テツ)の思い出を語るストーリー。一戸はある日ふらりと訪ねてきて、実はステージ4のがんで故郷の青森に帰ると打ち明ける。それを機に、当時のメンバー(夏帆、今井隆文、豊田エリー)で呑み、2日間だけ居酒屋で作品を上演することに。そして故郷に帰った一戸は、やんちゃ時代の同級生で、バツ2のシングルマザー真奈美(鈴木杏)と再会する…

セットはニトリで売っていそうな、生成のテーブルと椅子だけ(美術は山本貴愛)。導入でアンサンブルの劇団員が15人ほど体育座りしていて、客席後方から松坂が、客に飴を配りながら入ってくる。現実からシームレスに劇空間へ移って、引き込まれる。
三方の壁際にある同色のベンチは、収納ユニットになっていて、物語が進むにつれ壁やベンチからどんどん小道具を取り出す。後半、一戸の妄想が暴走し、ビニール人形やら惑星のボールやらゴミ袋やらが散乱。それを綺麗に収納へと戻して、再び静かに、一戸のことを戯曲に書き続ける松坂のシーンに収斂していく。
お互い決して立派な人間じゃないし、思い出すのはくだらないやりとりばかり。苦い後悔もある。でも、そこにいた、ひとりの男のことを書き続けずにはいられないのだ。

楽しみにしていた窪田正孝が怪我で降板。でも、交代した平原の、格好悪くて恥ずかしい、でも肩の力が抜けた造形が見事にはまっていた。終始テンション低く、傍観者めいた橋本の確かさが、また魅力的。なんといっても大好きな鈴木は、軸がしっかりしていて、透明感が一段と増した感じ。ちょっと身勝手な今井と豊田が、それぞれの現実を語ってナチュラルで、そんな仲間達に挟まれる夏帆もいいバランスだ。

これまで加藤を観たのは、安部公房「友達」の演出ぐらいだけど、実に鮮烈だったし、そういえばドラマ「俺のスカート、どこ行った?」の脚本も良かった。遅ればせながら、要チェックです。

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ガラパコスパコス

COCOON PRODUCTION2023「ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~」  2023年9月

ちょっと久々の観劇は、気になっていた「劇団はえぎわ」のノゾエ征爾作・演出。2010年初演、30代で書いた代表作だそうで、「ハイバイ」っぽい欠陥だらけの群像を、どこかキッチュに。世田谷パブリックシアターの、なんと最前列上手端で1万500円。休憩無しの2時間。

物語はコミュニケーション不全で、派遣ピエロで食いつなぐ太郎(竜星涼)が、特養を迷い出た認知症のまっちゃん(高橋恵子)とはずみのように共同生活を始めちゃうところから始まるドタバタ。2人を取り巻く人々と言えば、実は関係が崩壊している兄夫婦(藤井隆、山田真歩)とつきまとう不気味な後輩(ノゾエ)、下心ありありの派遣会社の上司(青柳翔)と太郎を気遣うチャーミングな部下(芋生悠)、向かいに住む壊れかけた同級生(瀬戸さおり)と不倫の末に結婚した担任教師(菅原永二)、まっちゃん失踪のせいでクビになって、なぜかジェットコースターに乗りにいく施設職員(山本圭祐、山口航太)… ひとり残らず、どうしてこうも不器用なんだろう。

セットなシンプルな黒い壁と床。そこに登場人物が、チョークでどんどんいたずら書きしていくスタイルは、街頭芸っぽくて面白い(美術は乗峯雅寛)。初演以来の演出らしく、無造作に見えて緻密。観客の視点を固定しない、ライブの演劇ならではだ。
まっちゃんの認知症がどんどん悪化して、目が離せない太郎は欠勤続きで追い詰められていく。状況はけっこうリアルで悲惨。なのに終盤のベタな展開に、思わず苦笑しちゃう。「いつくしみ深き」から、人間の進化を唄う「ボレロ」の行進、壁が倒れて、みな一台のバスに乗っての「We Are The World」だもんなあ。無駄に明るい隣の外国人(駒木根隆介が日本語ゼロで)とか、なぜかいつもバスに乗れない女(中井千聖)とか、ちょっと不条理な笑いのスパイスも効果的。その分、老いって退化なのか?といった、テーマのヒリヒリ感は薄めかな。

俳優陣では髙橋が、ほとんどまともに話さないのに、一貫してさすがの上品さを見せつける。長身が映える竜星くんも健闘していて、髙橋とデュエットしたり、仮面のようなピエロの化粧を落としてもらったりするシーンで切なさを表現。そんな太郎を見守る芋生が可愛くて、これから楽しみな女優さんです。小柄な山田がキレキレで存在感があり、ボレロのシーンでひときわノッているのが可笑しかった。ドラマ「ブラッシュアップライフ」の研究所の先輩なんですねえ。藤井、菅原も安定し、中井、青柳、そしてもちろん駒木根も曲者ぶりを発揮。

開幕前、ロビーでの飲食が復活していて、ビールもありました~

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文楽「三番叟」「菅原伝授手習鑑」

第225回文楽公演 第一部 第二部 2023年9月

初代国立劇場での掉尾を飾る文楽公演は、極め付け「菅原伝授」。お馴染みの演目だけど、50年ぶりの珍しい段もあって、変化に富んでいる。

第一部は三段目、様式美溢れる車曳の段から。京・吉田神社前で、主君の政変に巻き込まれた三つ子が再会する。梅王丸の小住太夫らや宗助が牽引し、中盤でお待ちかね松王丸が登場。藤太夫が上手の舞台袖から「待てらう」と大音声で呼ばわって床にあがる演出、初めて観ました! もちろん人形は玉助が、偉丈夫ぶりを見せつける。記念の公演での大役、めでたい限りだ。牛車を破壊しちゃう時平の超人ぶりもまた楽しい。梅王丸は玉佳、桜丸は勘彌、時平は玉志。
短い休憩後、佐太村に移って茶筅酒の段、喧嘩の段、訴訟の段は芳穂太夫、錦糸らが安定し、桜丸切腹の段で千歳太夫、富助が奮闘。白太夫の勘十郎が鎮魂の鉦まで、さすがのきめ細かさ。桜丸妻の八重ちゃんが可愛い!一輔、グレードアップしてます。
休憩を挟んで四段目、珍しい天拝山の段。筑紫に流された人間国宝・玉男の丞相が、安楽寺に詣でる。牛や飛び梅の天神伝説を語ったり、「梅は飛び…」と詠んだり、すっかりうらぶれた雰囲気なんだけど、刺客の自白で時平の謀反がわかると形相一変。憤怒の形相は、陰陽師かと見まごう気迫だ。特殊かしら「丞相」だそうです。ここから人形ならではのド派手でスピーディーな演出。なんと梅の枝で刺客の首をはね、バチバチ火花を吐き、天拝山に駆け上がる。一天にわかにかき曇り、激しい毛振りの果てに雷神に変貌しちゃう。人から御霊(ごりょう)への飛躍というファンタジー。藤太夫、清友も熱演でした~

いったんロビーへ出て第二部。「寿式三番叟」は劇場57年の感謝と再開場への前途祈念で豪華に。例によって咲太夫の代役に織太夫が入り、呂太夫、錣太夫、千歳太夫、燕三、藤蔵ら7丁7枚がずらり。人形は勘十郎の翁が神々しく、三番叟は玉勢、簑紫郎が躍動。簑紫郎さん、色気が増した感じ。
20分の休憩後、「菅原伝授」の後半を一気に。4段目の北嵯峨の段はなんと1972年以来、51年ぶりの上演。何をやらせても子供っぽい八重ちゃんがこんなところで、丞相の御台所を守って命を落としていたとは衝撃。
舞台は京の外れに移って寺入りの段、寺子屋の段を、渋い呂太夫、清介から気合いの呂勢太夫、清治という安定のリレーで。百姓親子のそれぞれの情愛が滑稽ななかにも温かいから、後半の松王丸の悲劇が際立つんだなあ。よだれくりは勘介。
そしていよいよ玉助さんが、渾身の演技! 重苦しい駕籠での登場、緊迫マックスの首実検から、女房千代の覚悟をへて、クライマックス「笑いましたか、でかしおりました」の泣き笑い。なんと悲しいことか。白装束のいろは送りで幕。源蔵は玉也、女房戸浪は勘壽、千代は簑二郎。
大団円、大内転変の段も51年ぶりだそうで、あれよあれよの展開です。異常気象で不穏な都。時平が参内した菅秀才の一行をとらえようとすると、家来は雷にうたれてイチコロ。時平も蛇が変じた桜丸夫妻の亡霊に襲われちゃう。菅原家復興となり、めでたしめでたし。いやー、正義の怨念はづくづく怖いぞ。小住太夫と寛太郎が迫力たっぷり、ここから50年後への伝承を意識した復刻演奏で、素晴らしい。72年は技芸員制度ができた年だそうで、いろいろ苦しいけど文楽の未来を感じさせる、いい幕切れでした!

ロビーで文楽仲間に何人か遭遇し、脱力系の「文楽年鑑」を購入。

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DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2023

史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2023  2023年9月

コロナを乗り越え、4年に一度の大規模ライブが帰ってきた。全国5大ドームをめぐるツアーの締めくくり。永遠の天才少女・吉田美和と歌って元気になる。よく入った東京ドームの、席は当日わかる仕組みで2F1塁側の中段。1万1000円。メリーゴーラウンド風の巨大セット、名曲の数々とド派手な演出、格好良いダンスと、高水準の非日常感で、たっぷり3時間強を飽きさせない。

中央に塔を囲む円形のステージ、四方に花道が伸びたセット。期待通りのっけから、吉田美和が20メートルはありそうなセットのてっぺんで歌い、客席上空を縦横無尽に3Dフライングして圧倒する。どうやらフライングありきでセットを設計したらしい。ほー! 続くステージからの火焔放射では2Fまで熱が感じられるほど。世界遺産かと思うスケール感がたまらない。
「DOSCO prime」アレンジが混じって、ノリノリ度が高め。ドラムの”ビースト”クリス・コールマンはゴスペルがルーツで、プリンスのサポート経験もあるとか。大物だなあ。
王道「LOVE LOVE LOVE」からの「ヒの字」は、リクエストでなぜか上位に食い込んだ渋い1曲。巨大アヒルのコースターと人文字のダンスが可愛かった。「雪のクリスマス」ではシャボン玉が舞い、照明の雪が降りしきって幻想的。ドリー・ザ・ブート・キャンプから「未来予想図」メドレー、「決戦は金曜日」で盛り上がって、本編最後にはお約束の花火! アンコールはついに「救命病棟24時」の主題歌5曲連打で、涙涙でした~
衣装は久保嘉男、丸山敬太、ミハラヤスヒロの競作とのことで、モコモコしてて可愛かったな。

開演前のグッズ売り場で1時間ほど並ぶ。Tシャツがすべて売り切れだったのが残念だけど、アナログアルバムサイズのプログラムやタオル、お約束のライトを購入。1時間半前に開場して、ゆったりビールで盛り上がれるのも楽しい。
スタッフは300人超とか。一大事業です。そんな美和ちゃんも58歳… どうか焦らずに、伸び伸びと続けてほしい!

以下セットリストです。
1,A theme of the WONDERLAND
2,次のせーの!で- ON THE GREEN HILL-
3,よろこびのうた
4,大阪LOVER
5,あなたと同じ空の下
6,うれしい!たのしい!大好き! -DOSCO prime Version-
7,G
8,YES AND NO
9,羽を持つ恋人
10,LOVE LOVE LOVE
11,ヒの字
12,やさしいキスをして -DOSCO prime Version-
13,LAT43°N ~forty-three degrees north latitude~
14,雪のクリスマス・WINTER SONG -DANCING SNOWFLAKES VERSION-
15,晴れたらいいね
16,未来予想図
17,未来予想図II
18,ア・イ・シ・テ・ルのサイン ~わたしたちの未来予想図~
19,Don’t You Say…
20,SWEET REVENGE
21,IT’S SO DELICIOUS
22,スピリラ
23,決戦は金曜日 -DOSCO prime Version-
24,あの夏の花火
アンコール:
25,朝がまた来る
26,いつのまに
27,何度でも
28,その先へ
29,さぁ鐘を鳴らせ

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