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カモメよ、そこから銀座は見えるか?

カモメよ、そこから銀座は見えるか? 2023年6月

岩松了作・演出の新作は、年の瀬の銀座を舞台に、「思い違い」の哀しさをいつになく幻想的に。尽きない人間存在というものへの疑問。朝ドラコンビが主演のせいか、若い女性客らが開幕前から行列する本多劇場、良い席で8000円。休憩無しの2時間弱。 

広告会社勤めの兄アキオ(井之脇海)は、スキャンダルの裁判準備で弁護士・田宮(岩松了)の事務所に出入りしている。裁判への協力を申し出てきた葉子(松雪泰子)は、実は亡くなった父のかつての愛人であり、アキオも惹かれてしまう。一方、兄にお弁当を届けに来る妹イズミ(黒島結菜)は、銀座の街角をふらつく青年とみ(青木柚)と言葉を交わすようになる。果たして父は悪人だったのか、葉子の思惑は、そして、とみの正体は…

少し前に話題になった広告会社の事件がベースのようだけれど、そこは本筋ではない。人それぞれが理解する「本当」の曖昧さ、どうしようもない隔たりを語っていて、観る者を幻惑する。愛があるゆえの切なさ。
セット全体が、目に見えるうわべの裏に何かが隠れていそうな、もどかしい作りになっているのが、いつにも増して秀逸だ。下手のビル群は、紗幕に映像を投影していて、現実感が薄い。一方、上手の法律事務所があるビルは、外階段を頻繁に登場人物が登り下りするんだけど、半ばが壁で隠されちゃっていて、その背後で何かが進行していく。これは新しい仕掛けかも。
もう、どこまでが現実で、どこからが登場人物の幻想なのか。人物の手から手へ移っていく小道具ハンカチの「わからなさ」もあいまって、イライラしつつ引き込まれます。

俳優陣は健気な黒島(赤いワンピースが可愛い)、実直な井之脇が、期待通り健闘し、観念的なセリフをよくこなす。咀嚼力というか、伝えるパワーはこれからに期待、かな。もちろん松雪と岩松さんが出てくると求心力抜群で、本来の主演ふたりが食われちゃった感じもある。松雪さんは出てくるだけで怪しいもんなあ。謎の若者の青木と、連れの櫻井健人に透明感、浮遊感があって発見だった。

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