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おとこたち

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ ミュージカル「おとこたち」  2023年3月

2014年に観た岩井秀人の佳作を、なんと自らミュージカルに仕立てて演出。歌謡曲やラップなど、耳馴染みのいい音楽は前野健太。失敗だらけの半生、横暴な父の存在など、お馴染み岩井節の身も蓋もない喜悲劇が果たしてミュージカルとして成立するのか、正直疑問だったんだけど、10年近くをへて、リフレイン「いつかは一人ぼっちになるらしい」に実感があり、一層シニカルだ。だからこそ、今回加わった歌とリズム、ふんだんな笑いがいいバランスを醸して、ダメがダメなりに生きていく愛おしさが胸に染みる。
大原櫻子、吉原光夫ら出演陣が粒ぞろいだ。プログラムで岩井がこの2人の2018年の秀作「ファン・ホーム」を観て、半径5メートルのミュージカルを発想したと語っていて、納得しちゃう。布やテープを使った演出も緻密。反応がいいPARCO劇場、前のほう上手寄りで1万1000円。休憩20分を挟んで2時間半。

老人が混濁する意識の中で、学生時代からの友人同士4人の、思い通りにならなかった60年をたどる。エピソードはほぼ初演通りの感じ。ユースケ・サンタマリアが自然体の前説から続けて、ぬるっと芝居に入り、心優しいクレーム対応の山田を切なく演じる。やり手営業マン・鈴木の吉原と、生活力もないのに不倫を続ける森田の橋本さとしが、しょうもない人生を圧巻の歌唱力で歌い上げちゃう。なにしろジャン・バルジャンだもんなあ。そして転落していくアイドル・津川の藤井隆が、鈴木を追い詰めていく息子役も兼ねて、飛び道具的な力量を見せつける。
森田の不倫相手・純子の大原が、期待通りの可憐さで際立つ。ソロ「自転車」の透明感は出色! 思えば初演は安藤聖だったんですねえ。森田の妻・良子の川上友里(はえぎわ)も存在感がある。

円盤が立体的に重なりスロープをなすセットに、雑然と椅子などを散らし、時の流れ、入れ替わり立ち替わりのシーンをうまく見せる(美術は秋山光洋)。ポールにかかる布や斜めのテーブル、また謎のテロップ状のテープが規制線に転じたりして、日常の歪みを表現。後方でミュージシャンの種石幸也、佐山こうたが演奏。 

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