COCOON PRODUCTION2023 DISCOVER WORLD THEATRE vol.13 アンナ・カレーニナ 2023年3月
文豪トルストイの長編を、「罪と罰」「夜への長い旅路」がよかった英国のフィリップ・ブリーンによる上演台本・演出で。豪華キャストのなかで、なんといってもタイトロールの宮沢りえが、際だってよく通る声で舞台を制圧。19世紀後半、帝政ロシア社交界の華の生きづらさを、気品とカリスマ性をもって体現する。艶やかな紫ドレスと赤いバッグの登場シーンや、血まみれのルチア風、どこまでいくのか宮沢りえ。
お話の骨格はさすがに古風だし、休憩を挟んで4時間弱はちょっと長かったけれど… よく入ったシアターコクーン、中央あたりで1万1000円。翻訳はお馴染み木内宏昌。
アンナの求心力が圧巻とはいえ、多様な群像劇。特にアンナに失恋したリョーヴィン(トルストイの分身とも、浅香航大が伸び伸び)とキティ(コメディセンスある土居志央梨、「広島ジャンゴ」では無言だったもんなあ)の夫妻の存在が出色だ。笑っちゃう痴話喧嘩、そして雄大な大地ポクロフスコエに生きる、不器用でつつましい希望。
一方、とことん俗っぽいアンナの兄スティーヴァ(梶原善)と、妥協し続けるキティの姉ドリー(長身の大空ゆうひ)夫妻が、現実を突きつける。浅ましくてイライラするけど、やっていくしかないのだ。
労働運動に肩入れするリョーヴィンの兄ニコライ(菅原永二)、「人生です、奥さま」とつぶやく農民(片岡正二郎、ドラマ「エルルピス」の死刑囚!自由劇場出身なんですね)が印象的。実はいい人っぽいアンナの夫カレーニンは小日向文世、運命の恋に落ちるヴロンスキーは渡邊圭祐。
セットは木馬やマトリョーショカが散らかる子供部屋で、具象の小道具だからこそ抽象的。頭上に重苦しい金の檻が浮かんでいて、ダイナミックかつお洒落だ(美術はマックス・ジョーンズ)。アンナの息子セリョージャ(石田莉子)が舞台端で、象徴的な汽車なんかで遊びつつ、すべてを見ている、という演出がシニカル。物言わぬ花売りの老婆は死の誘惑か。ロシア語「死」の字幕、有名な「幸せな家族はどこも同じように幸せで、不幸な家族はそれぞれの不幸を抱えてる」も。意図的だろうけど、「クリミアをロシア化するという崇高な使命のために」という台詞にドキリとする。
俳優陣がコロスで出入りし、ノイズも表現するヴァイオリンやアコーディオンなどが秀逸。ミュージシャンはバンダで演技にも参加してました。
