笑の大学
笑の大学 2023年2月
三谷幸喜の1996年初演の傑作2人芝居を、四半世紀ぶり、自らの演出で。笑いへの賛歌は、この作家の一貫したテーマ。加えて配役と、深刻になってしまった時代状況が相まって、向坂の哀愁が強い余韻を残す名舞台だ。PARCO劇場、前の方の良い席で1万円。休憩無しの2時間。
戦時色濃厚な昭和15年、警視庁取調室のワンセット。検閲係の向坂(内野聖陽)と、浅草の劇団「笑の大学」で座付作家をする椿(瀬戸康史)が対峙する。上演中止に追い込もうと執拗に難癖をつける向坂に対し、椿が抵抗して何度も書き直すうちに、台本はどんどん面白くなっていく。
映像でみた西村雅彦&近藤芳正の感動が記憶にあり、さらには同じキャストの2011年「90ミニッツ」が鮮烈だったので、どういう印象か、と思っていたら、まず想像以上に笑えた。カラスと妻のエピソードが爆笑だし、「お国のため」とか警察官とか、ねじ込んだギャグを練るうちにあれよあれよと立ち稽古になっちゃう展開のリズムがいい。繰り返しは3回まで、といった笑いの講義も。
童顔で頼りなさそうな瀬戸が、喜劇人の誇り、権力への抵抗を強靱に演じて期待通りだ。名画「ライフ・イズ・ビューティフル」(1997年)にも通じる、笑いによる人間の尊厳が力強い。昨年完走した「鎌倉殿の13人」の弟・時房でも、コメディセンスが素晴らしかったもんなあ。
加えて硬軟自在の内野が、さすがにいい味。ほぼ同い年の丁々発止だった初演コンビに対し、20歳の差があり、しかもバリッとしたスーツ姿で、末端の警官というより威圧感が先に立つ。それだけに、対話を通じて椿に共感し、虚勢が崩れていく過程の落差が大きく、幕切れ、乾いた笑いの切なさが胸に迫る。(説明過多とは思わなかったです)
閉塞感がある美術は堀尾幸男、詩情漂う照明は服部基、音楽はお馴染み荻野清子。ロビーの喫茶も復活してました。
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