« 2022年12月 | トップページ | 2023年2月 »

宝飾時計

宝飾時計  2023年1月

ネモシューこと根本宗子が作・演出、椎名林檎がテーマ曲を作詞作曲し、高畑充希が主演。いったい誰の幸せのために頑張るのか。才能ある女性たちの自意識が横溢する舞台だ。企画制作はホリプロ。東京芸術劇場プレイハウスの中ほどで9800円。休憩を挟んで2時間半。

10歳から長くミュージカル「宝飾時計」に主演したゆりか(高畑にアテ書き)が、20周年セレモニーに招かれ、初演時にトリプルキャストだった2人との共演という条件を出す。果たして、ママタレントに転じた真理恵(小池栄子が現実的に)、そして母親のプレッシャーから引きこもってしまった杏香(痛々しい伊藤万理華)は現れるのか。当時、相手役だった勇大(小日向星一)の身投げの謎は明かされるのか?

セリフの密度が濃くて、「一番食べたいものを選べるか?」といった問いを畳みかけていく。速いテンポで3人の過去と現在が交錯し、同じシーンを繰り返すミステリー要素もある複雑な戯曲を、後方の巨大な時計と回り舞台でスマートに表現する(美術は池田ともゆき)。
キャストは、つかみどころのないマネージャー兼恋人に成田凌、杏香の母に大人計画の池津祥子、曲者プロデューサーに八十田勇一と、みな達者。特に真理恵のマネージャー・関一が、緊迫するシーンで誕生祝いにこだわっちゃったり、お間抜けななかに切なさがあってよかった。でもまあラスト、高畑が愛を求める思いを絶唱して、すべてをもっていくわけですが。堂々とした女優さんです。

ジャージやドレスの衣装は神田恵介。舞台上でヴァイオリンやピアノなどが演奏。

Img_7943

ジョン王

彩の国シェイクスピア・シリーズ「ジョン王」  2023年1月

巨人・蜷川幸雄が手がけたシェイクスピア全37作上演シリーズが、ロナ禍の上演中止をへて、ついに完結。この公演も出演者の体調不良で中止の日があったりと波乱のなか、とにもかくにも足を運ぶ。
タイトロールが自らの情けなさゆえに追い込まれていく戯曲は、上演が稀とあって正直、どうにも散漫。上演台本・演出の吉田鋼太郎が、過剰なまでの蜷川オマージュを盛り込むものの限界は否めないところ、「鎌倉殿」直後となった小栗旬が(テーマも史実の時期も重なる!)、抑制を効かせて存在感を発揮。またジョン王の吉原光夫(いきなり歌!)の台詞に説得力があり、ヨーロッパが、人類が重ねてきた戦争の悲惨さをみせる。
オールメールで、翻訳はもちろん松岡和子。コロナ中にさい芸が改修に入ってしまい、シアターコクーンの見づらい中2階、下手側で1万1000円。休憩を挟んで3時間。埼玉県芸術文化振興財団とホリプロ主催。

物語は13世紀イギリス。冒頭いきなり後方の搬入口が開いて、渋谷の街から赤いパーカにジーンズの名も無き男・小栗がふらふら迷い込んでくる。物珍しげにセットをスマホで撮ったり、の姿のまま、物語に入り、失地王ジョンの前に現れる、亡き先王リチャード1世の私生児に。調子にのったりしながら弁舌でのし上がり、やがて闘いに翻弄されていく。
威厳も才覚も乏しいジョン王は、獅子心王として名高かった兄リチャードの影や、ローマ法王の破門、貴族たちの離反に怯えている。そのくせフランス王フィリップ2世(吉田)と領土をめぐって、和睦したり裏切ったりの、泥沼の闘いに突入。舞台にドスンドスンと落下してくる人形に、嫌でも現代の戦争の情景が重なって、息が詰まる。
あげくジョン王は非情にも、王位を脅かす存在、幼い甥アーサーの暗殺を企てる。絶望したアーサーが死を遂げてフライングしちゃうシーンが、透明だ。ジョン腹心で暗殺を迫られたヒューバート(髙橋努)が、朴訥とした訛りで苦悩を語って秀逸。髙橋はラスト、小栗を狙う現代の兵士としても印象的だ。

演出でのニナガワ節は「涙そうそう」や水たまりなど、書き切れないほど。ぼろぼろの男たちに対し、女たちのパワーが印象的で、兄の未亡人コンスタンスに髪振り乱す玉置玲央、皇太后エリナーに中村京蔵(いきなり舞踊!)、その孫娘ブランシュに植本純米。あまり見せ場もないまま死んじゃうのは、そういう戯曲とはいえ、物足りなかったかな。ほかに仏皇太子ルイが白石隼也、枢機卿が廣田高志。
思えばジョン王って、2022年「冬のライオン」の3人息子のひとり(浅利陽介!)なんですねえ。大陸の領土を失い、ローマに破門され、ついに王権制限のマグナ・カルタに署名して歴史に名を残しちゃう人物。いやー、見届けました~

Img_7831 

 

志の輔「まさか」「狂言長屋」「百年目」

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ 志の輔らくご in PARCO 2023  2023年1月

立川志の輔が正月吉例で、毎回趣向を凝らす独演会。今年は狂言とのコラボで、この人独特の実直さとあいまって、また楽しい。聴衆も期待感いっぱいのPARCO劇場、前のほう下手寄りで7500円。休憩を挟んでたっぷり3時間。

出だしのマクラで、談志さんを思わせる軽妙な小噺。電話がかかってきて子どもが出て、「お父さんいる?」「いらない」。「かぐや姫の結末ってどうだったかな」「解散したんじゃない?」。笑うポイントは人それぞれ、という振りから「まさか」。そろばん塾の先生の息子が結婚するときき、お祝いに訪れた男が「まさか」を連発して珍事に。
同じ「まさか」でも意味はいい悪い、いろいろ。ニヤリとしたところで、いったん引っ込み、映像が流れる。なんとパルコの近くに「間坂(まさか)」という坂があって、その名の小さい石碑が立っているのです。こういうマメ知識がまた志の輔らしい。

続く「狂言長屋」は、長屋の面々が自殺しかけた狂言師を助ける。きけばお抱えの座を得るため、殿様に「無常」のテーマで新作をみせるのだけど、苦心した作をまず家老に披露したら、こともあろうにライバルに売ってしまい、絶望したとのこと。皆が無常についてワイワイくだらない話をするうち、セットががらりと変わって松羽目に。なんと大蔵流のホープ、茂山逸平と囃子方が登場し、志の輔もしずしずと加わって狂言を上演! 長屋の面々のおかげで見事にしおうせました、とさ。
本物登場というスペシャルな祝祭感、サービス精神がさすが。2009年パルコ初演作。改めてきっちりお稽古したんだろうな~ 映画化もされた「歓喜の歌」を2008年に聴いたときの、合唱団とのコラボが嬉しかったのを思い出します。

仲入をはさんで大ネタ「百年目」。志の輔では2013年以来。旦那の説教の、現代ビジネスマンに通じる説得力が際立つのは変わらない。三本締めで幕となりました。

ロビーにはめでたい菰樽など。グッズ販売はかつてより控えめだけど、素敵なデザインの手ぬぐいとメガネケースを購入しました~

Img_7789 Img_7785 Img_7780 Img_7791 Img_7796

« 2022年12月 | トップページ | 2023年2月 »