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守銭奴 ザ・マネー・クレージー

東京芸術祭2022芸劇オータムセレクション「守銭奴 ザ・マネー・クレージー」 2022年12月

生誕400年のモリエールの古典を、ルーマニアの鬼才シルヴィウ・プルカレーテが演出、2017年に観た「リチャード三世」と同じ佐々木蔵之介主演で。前作のアングラ感が強烈だったので身構えてたけど、今回は思いのほか喜劇で、周囲の誰も信じられない老人の寂寥が際立つ。東京芸術劇場プレイハウスのかなり前の方中央で9500円。休憩無しの2時間。

アルパゴン(佐々木)はドケチで、子供や使用人にも不自由をさせている。しかし息子クレアント(ミュージカルの竹内將人)が金持ちの娘マリアーヌ(天野はな)に、妹のエリーズ(大西礼芳)が執事ヴァレール(太っちょ加治将樹)に恋をして…
なにしろ1668年初演だから、「実は…」の連発が南北もびっくりの荒唐無稽。だからこそアルパゴンの極端なケチぶりは、落語「片棒」みたいで、底意地悪くも普遍的なコメディの造形だ。
ペラペラ半透明の垂れ幕の壁や、後段の金ぴか権威一家との対比などで、アルパゴンの精神の卑小がくっきり。荒野に転じたラストシーンで、隅にかたまった登場人物からひとり離れた、圧倒的な孤独が寒々しい。背景で繰り返される野良犬の遠吠えや、エリーズが吹く笛の不協和音も、観る者の心をざわつかせる。

背中の曲がった佐々木が自信満々、マスクを取り出して客席をうろつくなど、存分に笑わせ、メモ魔の刑事・阿南健治はじめ、いびつさのある召使いの手塚とおるやコック兼御者の長谷川朝晴が、いいテンポで受ける。
抑圧された大西の頼りない笛が、親への反発でだんだん力強く、最後はサックスになっちゃうのが痛快だ。加治が冒頭の人目を気にする大仰な演技など、なかなかの牽引力を発揮して頼もしい。結婚の取り持ち女とマリアーヌの父という2役の壌晴彦が、さすがのいい声で堂々。秋山伸子訳。

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