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2022喝采づくし

いろいろあった2022年。エンタメを振り返ると、やっぱり特筆すべきはコンサートで、ドームを巨大ディスコに変えたブルーノ・マーズ、そして年末のピアノ一台の矢野顕子。全く違うジャンルだけど、どちらもライブのグルーブを存分に味わいました。

そしてようやく実現した、團十郎襲名の「助六」。いろいろ批判はあっても、この人ならではの祝祭感が嬉しかった。ほかに歌舞伎では「碇知盛」の菊之助、梅枝が頼もしく感じられ、初代国立劇場さよなら公演がスタートした文楽「奥州安達原」は玉男、勘十郎、玉助らが揃って充実してた。

オペラは新国立劇場で意欲作が多く、なかでもバロック初体験のグルック「オルフェオとエウリディーチェ」の、音楽、演出両方の端正さが忘れがたい。ともに読み替え演出のドビュッシー「ペレアスとメリザンド」、ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」も洒落ていた。問題作「ボリス・ゴドゥノフ」は衝撃すぎたけど… クラシックの来日ではエリーナ・ガランチャの「カルメン」が格好良かった。

演劇は野田秀樹「パンドラの鐘」、トム・ストッパード「レオポルトシュタット」が、それぞれ今の国際情勢に通じるメッセージ性で突出していた。井上ひさし「紙屋町さくらホテル」やケラ「世界は笑う」の「表現すること」への情熱や、ともに2人芝居だった温かい「ハイゼンブルク」と不条理をねじ伏せる「建築家とアッシリア皇帝」、そして相変わらずひりつく会話劇の岩松了「クランク・イン!」などが心に残った。

語り芸のほうでは期せずして、喬太郎と三三で「品川心中」を聴き比べ。どちらも高水準。一之輔の脱力も引き続きいい。講談の春陽「津山の鬼吹雪」も聴きごたえがあった。

これからも、のんびりエンタメを楽しめる日々でありますよう。

ショウ・マスト・ゴー・オン

ショウ・マスト・ゴー・オン  2022年12月

大激戦でまったくチケットがとれなかったコメディの世田谷パブリックシアター追加公演を、配信で。大河ドラマ「鎌倉殿」を走りきった三谷幸喜の作・演出。
「いったん開けた幕は何が何でも下ろさない」というテーマそのままに、アクシデント続きで三谷自ら代演に次ぐ代演、この日はなんと4役目、鈴木京香の主役を演じちゃう。東京サンシャインボーイズ伝説の喜劇を28年ぶりの再演だそうで、たたみかけるドタバタの末に舞台人のプライドを高らかにうたい上げ、ちょっぴりほろ苦さもあって、期待を裏切らない。休憩を挟んで2時間半、3000円。

「マクベス」を上演する下手舞台袖のワンシチュエーションに、舞台監督(三谷)が陣どる。今風に演出家は外国人なんだけど、秋葉原で迷子になって現れず、きのう三谷に怒られた若手スタッフは無断欠勤。昨夜の酒が抜けない座頭(尾上松也)はマクベス、マクベス夫人、マクダフ独り占めのオレ様ぶりなのに怖がりで…

豪華キャストが皆、当て書きのように生き生きと、トラブルを巻き起こしちゃう。特に助手のウエンツ瑛士の呼吸が抜群で、「てなもんや三文オペラ」に続いていい存在感だ。松也とシルビア・グラブの芸達者ぶりがいかにも大物俳優らしく、伝説の小道具作り・新納慎也、差し入れ消化に燃える制作・峯村リエ(樹木希林みたいになってきたなあ)、よぼよぼ医師の浅野和之は飛ばしまくる。
「言ってくれれば書いたのに」と繰り返す脚本家・今井朋彦、スタッフの父で天然の小林隆が安定感を発揮。ほかにぱっとしない俳優に大野泰広、プロデューサーに中島亜梨砂(宝塚出身)、助手に秋元才加(元AKBで眉がつながってた巴御前!)、通訳に井上小百合(元乃木坂、やっぱりサックス吹いてた)、招待客の親分に藤本隆宏。舞台監督の恋人・小澤雄太(劇団EXILE)は、さすがに無理があったかな。音楽のお馴染み荻野清子も、ちょこっと演技してた。「スコットランドに松は無い!」がツボだったな~ 

矢野顕子リサイタル

大手町座第33回 矢野顕子リサイタル2022~ピアノ弾き語り~  2022年12月

年の瀬に素晴らしい舞台に遭遇。ピアノ(スタンウェイ)もボーカルも、これぞライブというグルーブにやられました! プロの皆さん含め、矢野ファンが集まった感じの日経ホール上手寄り、まさかの最前列で8000円。休憩無しの1時間半強。

軽快な「春咲小紅」にはじまり、高橋幸宏50周年ライブに映像出演したという「仕事を終えたぼくたちは」のほのかな哀愁、「ふりむけばカエル」の愛嬌、野口聡一作詞「透き通る世界」のスケール、期待通り「音楽はおくりもの」、圧巻の迫力「津軽海峡・冬景色」… 
セットリストは即興だそうで、楽譜をパラパラしながら進み、演出は照明が控えめに変化するだけなんだけど、そこは天才、本編ラストの「ひとつだけ」では胸がいっぱいに。MCもけっこうたっぷりで、グッズの売り込みでバレエのポーズを披露したり、特注の「腰痛をなくす」コクヨingLIFEを勧めたり(客席がいい反応)、いやー、可愛らしいなあ。
アンコールのノリノリ「ラーメンたべたい」に、ニコニコして席を立ちました。幸せ。

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以下セットリストです。

1,春咲小紅
2,あなたとわたし
3,塀の上で
4,仕事を終えたぼくたちは
5,ふりむけばカエル
6,にぎりめしとえりまき
7,透き通る世界
8,ドラゴンはのぼる
9,ばらの花
10,音楽はおくりもの
11,津軽海峡・冬景色
12,中央線
13,ひとつだけ
アンコール:
14,ラーメンたべたい

十二月大歌舞伎「口上」「團十郎娘」「助六」

十三代目市川團十郎白猿襲名披露 十二月大歌舞伎 夜の部  2022年12月

11月に続いて襲名披露の「助六」。團十郎・玉三郎の華と、荒事の古風を堪能する。11月の感動はちょっと薄れたけど。三升一色の歌舞伎座、中央前の方の良い席で2万3000円。休憩2回で4時間弱。

飯田グループの牡丹の祝い幕から襲名披露「口上」。柿色裃勢揃いです。同世代の幸四郎、猿之助が同志の激励らしくていい。白鴎が病気休演で紹介役は左團次となり、菊五郎、仁左衛門の大御所が並んだという11月に比べると、男女蔵、高麗蔵ら一門はどうしても主役に遠慮するのが物足りないものの、にらみを拝めて満足。黙っている後列に、染五郎や中車の顔も。

25分の休憩を挟んで長唄舞踊「團十郎娘」。琵琶湖畔で怪力少女・お兼(ぼたん)が活躍する。長女登場に驚いたけど、11代目襲名で3代目翠扇(新派で活躍した11代の従姉妹)が踊ってるんですねえ。まず4人の漁師で種之助、鶴松が愛嬌を発揮。右團次らとお兼の怪力を試そうと企むところで、お兼のクドキ。後半の立ち回りで新体操みたいに長い白晒を操っちゃうし(布晒し)、漁師たちはブレイクダンスみたいだし、溌剌としてた。

35分の幕間のあと、いよいよ「助六由縁江戸桜」。2010年に先代團十郎以下のオールスター、2013年には海老蔵を福助・吉右衛門・三津五郎らが盛り立てたのが懐かしい。新團十郎にも派手さ、馬鹿馬鹿しさで、どんどん突き抜けていってほしいものです。
幸四郎の口上、加東節十寸見會連中に続いて揚巻・玉三郎の出がさすがの風格。悪態はまあ、抑えめだったかな。白玉・菊之助も堂々、意休の彌十郎に存在感があっていい。
助六はたっぷりの「出端」「ツラネ」から、意休を「時政似の」と呼んで笑いをとる。福山かつぎは巳之助できびきび。くわんぺら門兵衛の左團次がさすがにもう辛いなあ。白酒売・勘九郎がなんとも優しく、通人・猿之助はちょっと皮肉も効かせて笑わせる。児太郞はまだ傾城なんですねえ。
「助六」だけ再見できた月後半には、大詰めで玉三郎が母・満江に回り、團十郎と、揚巻を託された七之助が見送るシーンに継承を感じてジンとする。白玉は梅枝、意休が代演で松緑でした。あー、楽しかった。

ユニクロ提供の銀座で親子ゴジラが暴れている祝い幕は、なんと「シン・ゴジラ」の樋口真嗣監督のデザインで、格好良かった! おやつの人形焼き、30個に1個の隈取りは当たりませんでした~

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文楽「絵本太功記」

第五四回文楽鑑賞教室 2022年12月

年末の文楽は鑑賞教室「絵本太功記」のBプロをチョイス。2016年に観た演目ですね。春長(信長)を討った後の、母さつき(清十郎)、子息十次郎(玉翔)が犠牲になっていく悲劇。玉助がスケール大きい光秀で楽しませる。国立劇場小劇場、前のほうやや下手寄りのいい席で4500円。

解説は簑太郎。休憩のあと、夕顔棚の段は聴きやすい碩太夫・錦吾。久吉(秀吉、勘市)が旅僧姿で現れる。続いて尼崎の段の前、小住太夫・錦糸が迫力たっぷりに聴かせる。十次郎の嫁・初菊の玉誉がなかなか可憐。玉助登場の格好良い見得に拍手でした~

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建築家とアッシリア皇帝

建築家とアッシリア皇帝  2022年12月

フェルナンド・アラバールによる1967年パリ初演作を、生田みゆき(文学座)の上演台本・演出で。不条理のなかに、人を裏切りへと追い込む紛争の悲劇が見え隠れし、現代を感じさせる。岡本健一と成河がたった2人で、なんと休憩を挟み3時間弱を緊張感をもって演じきって見事だ。期待はしてたけど、さらにその上をいく水準。田ノ口誠悟訳。シアタートラムの中ほど、下手端で7000円。

孤島にある日、戦闘機が墜落。ひとり生き残った男(岡本)は古代の皇帝を自称し、ピュアで不思議な力を操る先住民(成河)を建築家と呼んで、文明化しようとする。笑えるごっこ遊び、裁判の真似事が、やがて2人の支配関係を揺るがせ、皇帝が抱える闇をあらわにしていく。
とにかく俳優2人の台詞術と身体能力が高く、決してお説教臭くならない稚気、乾いた色気が素晴らしい。文明や暴力、神について饒舌に語りつつ、底流にはスペイン内戦時に父を売ったという母に対する作家の愛憎をにじませる。廃品が折り重なった美術は深尾幸男。

1974年に日本初演で皇帝を演じた山崎努が、岡本にメールで助言し、稽古場も訪れたとか。プログラムには、8月の日経コラムで山崎自ら書いた初演当時の苦闘ぶりが掲載されていて、チャレンジし続ける舞台人から舞台人への継承が感慨深い。

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守銭奴 ザ・マネー・クレージー

東京芸術祭2022芸劇オータムセレクション「守銭奴 ザ・マネー・クレージー」 2022年12月

生誕400年のモリエールの古典を、ルーマニアの鬼才シルヴィウ・プルカレーテが演出、2017年に観た「リチャード三世」と同じ佐々木蔵之介主演で。前作のアングラ感が強烈だったので身構えてたけど、今回は思いのほか喜劇で、周囲の誰も信じられない老人の寂寥が際立つ。東京芸術劇場プレイハウスのかなり前の方中央で9500円。休憩無しの2時間。

アルパゴン(佐々木)はドケチで、子供や使用人にも不自由をさせている。しかし息子クレアント(ミュージカルの竹内將人)が金持ちの娘マリアーヌ(天野はな)に、妹のエリーズ(大西礼芳)が執事ヴァレール(太っちょ加治将樹)に恋をして…
なにしろ1668年初演だから、「実は…」の連発が南北もびっくりの荒唐無稽。だからこそアルパゴンの極端なケチぶりは、落語「片棒」みたいで、底意地悪くも普遍的なコメディの造形だ。
ペラペラ半透明の垂れ幕の壁や、後段の金ぴか権威一家との対比などで、アルパゴンの精神の卑小がくっきり。荒野に転じたラストシーンで、隅にかたまった登場人物からひとり離れた、圧倒的な孤独が寒々しい。背景で繰り返される野良犬の遠吠えや、エリーズが吹く笛の不協和音も、観る者の心をざわつかせる。

背中の曲がった佐々木が自信満々、マスクを取り出して客席をうろつくなど、存分に笑わせ、メモ魔の刑事・阿南健治はじめ、いびつさのある召使いの手塚とおるやコック兼御者の長谷川朝晴が、いいテンポで受ける。
抑圧された大西の頼りない笛が、親への反発でだんだん力強く、最後はサックスになっちゃうのが痛快だ。加治が冒頭の人目を気にする大仰な演技など、なかなかの牽引力を発揮して頼もしい。結婚の取り持ち女とマリアーヌの父という2役の壌晴彦が、さすがのいい声で堂々。秋山伸子訳。

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