イヌの仇討
こまつ座第144回公演 イヌの仇討 2022年11月
井上ひさしの2002年初演作を、座敷童子の東憲司演出で。忠臣蔵討ち入りの日、明け方の2時間を吉良上野介の視点で描き、通説を相対化する井上戯曲らしい。立場が変われば何が見えてくるのか、価値観の分断が目立つ現代にも響く。紀伊國屋ホール、中段下手寄りで8000円。休憩を挟んで2時間半。
台所脇の暗い味噌蔵のワンセットに、殿様・上野介(大谷亮介が知的に)、側室お吟(宝塚出身の彩吹真央)、お家大事の女中頭お三(三田和代)、近習らがひしめいている。まずもって追い詰められた状況。しかも綱吉から拝領した大切な「お犬様」、お犬様付女中!まで。
偵察に出入りする茶坊主(演劇集団円の石原由宇)から大石の思惑を推し量り、うっかり盗みに入った砥石小僧(座敷童子の原口健太郎)から世論の傾きを知る仕掛けが巧い。
上野介は藩主にあそこまでさせちゃった大石の怠慢を責めてたけれど、やがて益の乏しい討ち入りの本質を喝破。では、何も悪いことをしていない自分が、どう社会にインパクトを残すべきか? 「忠臣蔵」の真の悪役は誰か、この美談を成立させたのは実は上野介ではないか。裏の裏は表、のような解釈が思考を誘う。
大谷がさすがの安定感。終盤で石原の自己犠牲、吉良家の側の忠義がちょっと意表をついて泣かせる。お犬様はなかなか存在感があるぬいぐるみで、重要な笑いを担ってた。ちなみに義士たち(たかお鷹ら)は声の出演。それで成り立つ忠臣蔵の存在が、今更ながら偉大かも。美術は石井強司、音楽は宇野誠一郎。
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