ボリス・ゴドゥノフ
新国立劇場開場25周年記念公演 ボリス・ゴドゥノフ 2022年11月
プーシキンの原作をもとに、ムソルグスキーが17世紀ロシアの王位簒奪を描いたオペラ。ポーランド国立歌劇場との共同制作なんだけど、4月のワルシャワ世界初演は情勢にかんがみ中止、東京公演もタイトロールはじめロシアの歌手4人が軒並み来日を中止した、いわく満載の上演だ。クラシック界の反ロシア機運をふまえ、事前のトークイベントでは亀山郁夫名古屋外国語大学長が「勇気ある試み」と評していた。
そういう事情よりなにより、足を運んでみると、映画も手がけるポーランドのマリウシュ・トレリンスキの演出がなんとも陰惨で、現実と重なって拍手をためらうほどの衝撃。なにしろ冒頭から防護服の軍隊を登場させ、暴虐ぶりを容赦なく描いていく。人はかくも残酷だというリアル。勇気ある大野和士芸術監督の指揮、東京都交響楽団。新国立劇場オペラパレスのかなり前の方、中央のいい席で2万4750円。休憩2回を挟み3時間半。
ゴドゥノフ(ギド・イェンティンスが抑えめに、ドイツのバス)は16世紀末「動乱時代(スムータ)」の皇帝で、幼い皇子をなきものにして摂政から成り上がった。その忌まわしい過去に心を蝕まれ、娘クセニア(お馴染み九嶋香奈枝、ソプラノ)らのいたわりも届かない。対立する高僧ピーメン(ゴデルジ・ジャネリーゼが堂々と、ジョージアのバス)の策謀で、隣国ポーランドに王統を僭称する修道士グリゴリー(工藤和真が憎たらしく健闘、テノール)が現れ、大衆をあおってついにゴドゥノフを葬る。
救いのない憎悪の連鎖が重い。障害をもつ息子フョードル(舞台裏でメゾの小泉詠子)と聖愚者(同じくテノールの清水徹太郎)が、弱くピュアな存在としてゴドゥノフと対峙する。ともに舞台上は、ポーランドの女優ユスティナ・ヴァシレフスカが黙役で熱演。民族音楽や東方教会の聖歌の要素、分厚い合唱など聴きどころも多いそうだけど、正直、あまり気が回らなかったな。美術は四角い箱やカメラも使用。
ホワイエでオペラ好きの知人夫妻と遭遇。ショックを分かち合いました~
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