市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿襲名披露 十一月吉例顔見世大歌舞 八代目市川新之助初舞台 2022年11月
大名跡復活を祝う公演の、昼の部に足を運んだ。お着物が目立つ大入のロビーの華やぎ、まがりなりにも復活した大向こう、そして座席でお弁当をつつくのも楽しい。新團十郎に対して多々批判はきくものの、これでなくちゃと思える華があるのは確か。9歳の新之助が初舞台で、達者な長台詞をきかせるのも語り草になりそう。歌舞伎座中央のいい席で2万3000円。休憩2回をはさみ3時間半。
「祝成田櫓賑(いわうなりたこびきのにぎわい)」は常磐津による「芝居前」と呼ばれる祝祭の舞踊。成田山新勝寺の東京別院である深川不動尊で鳶の者、手古舞(萬太郎、種之助、鷹之資、莟玉ら)がきびきび「雀踊り」を披露。鳶頭と芸者(鴈治郎、錦之助、孝太郎、梅枝)が加わって、兄貴分(梅玉)と恋仲の芸者(時蔵)がしっとり馴れ初めを語り、ひょっとこやおかめの賑やかな舞踊。そこへ町役人(寿猿)と若い者が兄貴分を呼びに来る。御年92歳の寿猿さんに拍手!
木挽町芝居前に変わって瓦版売の言立ての後、芝居茶屋の者(楽善、福助!、錦吾ら)が居並ぶなか鳶の者が軽快に獅子舞。そこへ男伊達、女伊達、すなわち侠客たち(権十郎、右團次、廣松ら)が花道にすらりと並び、祝儀のツラネが気分を盛り上げる。そろって手締めとなりました。
休憩にお弁当をすませ、お楽しみ大薩摩連中の「外郎売」。新之助がタイトロールを務める。柱に役者の看板がかかる古風な荒事味、言葉による悪霊鎮めは江戸歌舞伎ならでは。2009年に病から復活した十二代目で観たのが懐かしい。
とにかく工藤祐経で、御大・菊五郎が問答無用の大物感を示す。大磯の郭での休憩シーンで、居並ぶお馴染み鎌倉関係者(左團次、雀右衛門ら)、傾城(魁春、孝太郎、児太郎ら)も豪華メンバーだ。そこへ外郎売が現れて、故事来歴や効能を言い立てる。体は小さいけれど堂々としていて、不安を感じさせないのが凄い。さらに蘇我五郎の正体を明かしての「対面」、工藤が絵図を与える度量を示して拍手。
休憩の後はいよいよ長唄連中の「勧進帳」。襲名では2018年南座の幸四郎が、いっぱいいっぱいの弁慶で印象的だったけど、今回は富樫に回って誠実、果敢に。対する新團十郎はとにかくきびきびと格好が良く、心配されがちな発声もスケール感があっていい。お酒が入ってからの稚気は抜群で、ラスト幕外での感謝の礼と飛び六方まで、独特のオーラを放ちます。義経の猿之助はちょっと曲者感がでちゃうものの、この3人の世代が中核なんだなあ、と感慨深い。義経一行には巳之助、染五郎、左近(松緑の長男)、市蔵。後見で75歳、成田屋最古参の齊入がしっかり支えるのも、ちょっと涙ものでした。
襲名ならではといえば、なんと村上隆の祝い幕が素晴らしかった。巨大な三升の長素襖はじめ、所狭しと成田屋家の芸のヒーローたちが躍動し、鮮やかな色彩、そして目力が大迫力。三池崇史の依頼だったとか。めでたい焼きも復活して、楽しかったです!