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住所まちがい

住所まちがい 2022年10月

イタリアのルイージ・ルナーリによる1990年初演作を、白井晃が舞台を日本に置き換え、芸術監督として初の上演台本・演出。死とは、神とは、を語り合う不条理劇なんだけど、手練れの俳優3人がハイスピードで喋りまくり、かつ存分に笑わせて、哲学的な問いを茶化しまくる。観客の反応もよく、休憩無しの2時間が長くなかった。宝塚ファン、演劇好きが集まった感じの世田谷パブリックシアターの前の方、下手寄りで7500円。企画製作は新潟りゅーとぴあ。

舞台は現実味が薄い、瀟洒な白い洋室のワンセット(美術は松井るみ)。社長(仲村トオル)、元警部(渡辺いっけい)、教授(田中哲司)がそれぞれ別の住所だと考えて、鉢合わせする。名字の入れ替わり、入ってきたドアからしか出られない、望んだものが入っている冷蔵庫(温かいココアも!)と、超常現象の数々にいらだつうち、「大気汚染の警報」が鳴って一晩閉じ込められる羽目に。延々続く噛み合わない会話、大詰めで何故か床から登場する、謎の掃除婦(朝海ひかる)… この状況は果たして、最後の審判前なのか?

とにかく出ずっぱりの俳優陣が、膨大な台詞をテンポ良くこなし、キャラクターも際立っていて、感心するしかない。ルナーリが在籍したミラノ・ピッコロ座は伝統演劇コメディア・デラルテを復活させた劇場で、本作も古い手法ストック・キャラクター(定番の登場人物)を踏襲しているとのこと。3人とも、成功した中年男性で自信たっぷりなんだけど、功利的な社長(素足にローファー!)が死を恐れて騒ぎたて、規律を重んじる警部、理性を恃む教授もマイペースを装いつつ不安にかられちゃう。なんとも滑稽。
白井さんの自在な茶目っ気が、軽快なコメディタッチを盛り上げる。警部の長すぎる「笑える話」のほか、あまたあるベストセラー生き方本の軽さとか、「リオデじゃないよ」のまさかの駄洒落とか。突然、死だのマリア様だのを目前にして、いい大人であっても、できることなんてないってことか。

開幕前、客電も落ちないのに観客が静かになったのが印象的でした。帰りにはロビーに白井さんの姿も。

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