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義経千本桜

通し狂言 義経千本桜  2022年10月

初代国立劇場さよなら公演、歌舞伎の幕開けは菊之助が立役として、名優の条件とされる三役にチャレンジする通し狂言「義経千本桜」。2020年3月に中止になった企画のリベンジ、そのAプロ「碇知盛」に足を運んだ。菊之助さん、やっぱり声がよくて二枚目で主役感満載。ほかにも梅枝、彦三郎と2029年再オープン後を支えるだろう40代、30代が躍動して、見応えがあった~ 大劇場の前の方で1万2000円。休憩1回を挟み3時間半。

開幕で客電を落とし、菊之助さんが短く物語を解説する映像が流れて親切だ。義経は大河ドラマ前半で活躍してたし、期待が高まる。
舞台は二段目、梅満開の伏見稲荷鳥居前の場から。「火焔隈」の源九郎狐(菊之助)が静御前(大人っぽくなった感じの米吉)を守って生き生きと立ち回り、お楽しみ「狐六方」で引っ込む。声の通る彦三郎の弁慶にやんちゃ感があり、錦之助の義経はお人形のよう。

休憩を挟んで渡海屋の場。船宿の主人夫婦という世話っぽい「やつし」があるから、後半の悲劇が際立つ。菊之助がいなせな渡海屋銀平から知盛に転じたときの、全身キラキラ銀箔をあしらった白装束に拍手。幽霊にみせてるのだから悲壮なんだけど、いよいよという覚悟があって、むしろ清々しい。
続いて怒濤の大物浦の場。梅枝の女房お柳も十二単に衣装替えして、乳人・典侍の局に。梅枝はなんだか丸くなった感じで、貫禄がでてきて良い。衝撃的な自害のシーンが妙に色っぽく、敵に帝を託してというより、仮そめにも夫だった知盛への思いが強く感じられて、ぐっときちゃった。娘お安=安徳帝の丑の助くん、事態を急展させる大事なセリフ「仇に思うな」で頑張ってました。
大詰めの入水シーンでは、知盛が背負う碇が本当に重そうで、観ているほうも力が入る。これもリアル40代だと思って観るからかも。ラスト幕外で、弁慶が吹く法螺貝の哀愁。  

思えば2009年歌舞伎座さよなら公演で、亡くなった吉右衛門に玉三郎という重厚コンビで堪能した演目だ。それを娘婿が受け継いていくという古典らしい現場に立ち会って、感慨深かった。そしてロビーでは複数の知人にばったり。観劇の日常が戻ってきたと、こちらも感慨…

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住所まちがい

住所まちがい 2022年10月

イタリアのルイージ・ルナーリによる1990年初演作を、白井晃が舞台を日本に置き換え、芸術監督として初の上演台本・演出。死とは、神とは、を語り合う不条理劇なんだけど、手練れの俳優3人がハイスピードで喋りまくり、かつ存分に笑わせて、哲学的な問いを茶化しまくる。観客の反応もよく、休憩無しの2時間が長くなかった。宝塚ファン、演劇好きが集まった感じの世田谷パブリックシアターの前の方、下手寄りで7500円。企画製作は新潟りゅーとぴあ。

舞台は現実味が薄い、瀟洒な白い洋室のワンセット(美術は松井るみ)。社長(仲村トオル)、元警部(渡辺いっけい)、教授(田中哲司)がそれぞれ別の住所だと考えて、鉢合わせする。名字の入れ替わり、入ってきたドアからしか出られない、望んだものが入っている冷蔵庫(温かいココアも!)と、超常現象の数々にいらだつうち、「大気汚染の警報」が鳴って一晩閉じ込められる羽目に。延々続く噛み合わない会話、大詰めで何故か床から登場する、謎の掃除婦(朝海ひかる)… この状況は果たして、最後の審判前なのか?

とにかく出ずっぱりの俳優陣が、膨大な台詞をテンポ良くこなし、キャラクターも際立っていて、感心するしかない。ルナーリが在籍したミラノ・ピッコロ座は伝統演劇コメディア・デラルテを復活させた劇場で、本作も古い手法ストック・キャラクター(定番の登場人物)を踏襲しているとのこと。3人とも、成功した中年男性で自信たっぷりなんだけど、功利的な社長(素足にローファー!)が死を恐れて騒ぎたて、規律を重んじる警部、理性を恃む教授もマイペースを装いつつ不安にかられちゃう。なんとも滑稽。
白井さんの自在な茶目っ気が、軽快なコメディタッチを盛り上げる。警部の長すぎる「笑える話」のほか、あまたあるベストセラー生き方本の軽さとか、「リオデじゃないよ」のまさかの駄洒落とか。突然、死だのマリア様だのを目前にして、いい大人であっても、できることなんてないってことか。

開幕前、客電も落ちないのに観客が静かになったのが印象的でした。帰りにはロビーに白井さんの姿も。

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