文楽「奥州安達原」
第221回文楽公演 第三部 2022年9月
2023年10月からの建て替えに向けて今月、「初代国立劇場さよなら公演」がスタート。その第三部は近松半二の変化に富んだ名作、かつ演者が揃って充実してた。拍手好きのお客さんもいたし。演目は文楽で2回、歌舞伎でも1回観ている「奥州安達原」。前九年の役で陸奥・安倍家を平定した八幡太郎・源義家と、独立国家を諦めない安倍貞任・宗任兄弟を描く大曲の、三・四段目です。小劇場の見やすい中央前寄りで7000円。休憩2回をはさみ3時間半。
端場(導入部)の朱雀堤の段は、太夫4人と清志郎、人形は黒衣姿です。京・七条河原で、盲目の物乞い袖萩と幼い娘・お君が父・平傔仗(けんじょう)と出くわす。よよと崩れる袖萩が、すでに哀れ。
休憩を挟んで敷妙使者の段からのセットは、立派な天皇の弟の御殿になる。床は貫禄が付いてきた竹本小住太夫と鶴澤清丈。安倍兄弟に弟宮と十握の剣を奪われた傳役(もりやく)の傔仗(文司)・浜夕(勘彌休演で簑二郎)老夫妻には切腹が迫っている。妹娘・敷妙(清五郎)、夫の智将・八幡太郎義家(玉佳)はその責任を問う、苦しい板挟みの立場だ。
続く矢の根の段が、緊迫感があってスピーディー。白旗に血で書き付ける和歌、矢の根の投げ合い、そして白梅の謎かけを、織太夫と藤蔵がメロディアスに。義家は曲者・南兵衛(野性的な玉助さんが格好良い)を宗任とにらんで詮議し、冷徹な勅使・桂中納言則氏(我慢の玉男)が加わる。
お待ちかね袖萩祭文の段は、呂勢太夫と、お年をめして一層的確な感じの清治。雪がちらつき、父の苦境を案じるも、勘当の身で拒絶される姉娘・袖萩(名人・勘十郎)、健気なお君ちゃん(勘次郎)が「この垣一重が鉄(くろがね)の」と、何度観ても泣かせます。「エエ親なればこそ子なればこそ」… かつての袖萩の過ちの相手が貞任だったと判明して、父娘はいよいよ追い詰められちゃう。
続く貞任物語の段で一転、派手な展開となり、おおいに盛り上がる。床は熱演の切場語り、錣太夫と宗助だ。義家がなぜか宗任を逃がし、秘密を呑み込んだ傔仗と父を討ちたくない袖萩が、同時に自害という悲劇に。そこへ陣鉦太鼓が響いていきなり軍記物となり、則氏がモコモコ王子の髪型の貞任に変じる見顕しで、会場がどよめく。宗任も小団七からねじり鉢巻きの大団七に転じて、右へ左へ豪壮な振付。「奥州に押したて押し立て!」 2人のパワーとスケールが映えます。ラストは義家とお約束、他日の決戦を誓う。
短い休憩の後、舞台は一転、明るい野外となり、珍しい道行千里の岩田帯を、錦糸ら5丁5枚で。義家の家臣・志賀崎生駒之助(いきり!の簑紫郎)と傾城恋絹(紋臣)が薬売りに身をやつし、弟宮探索のため奥州へ向かう。
文楽仲間の皆さんのほか、かつての上司とも久々に会えました。ロビーには日付が入る、足踏み式スタンプが登場。
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