夜の女たち
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース ミュージカル「夜の女たち」 2022年9月
芸術監督・長塚圭史が「忘」と銘打ったメインシーズン幕開けに、1948年の溝口健二監督映画をミュージカル化(上演台本・演出)。なぜ溝口?なぜミュージカル?だし、何か結論めいたものがあるわけじゃないんだけど、しぶとい女たちが妙に痛快だ。2019年「桜姫」などでもコンビを組んでた荻野清子の、ジャズ調の音楽のせいか。ホール前の方のいい席で1万円。休憩を挟んで2時間半強。
終戦直後の大阪・釜ヶ崎。夫は戦地から戻らず、困窮のなかで幼子も死なせてしまった房子(江口のりこ)は、闇ブローカー栗山(大東駿介)の秘書兼愛人となるも裏切られ、自ら街娼へと身を落としていく。朝鮮半島からボロボロになって引き揚げてきた妹・夏子(前田敦子)は無軌道なダンサー暮らしで薬物に溺れ、義理の妹・久美子(井原六花)まで、たちの悪い少年・清(前田旺志郎)に欺されて…
千里山の婦人保護寮とか街娼のリンチとか、占領下の貧しさ、踏みつけられっぱなしの女たちは悲惨だし、なんとも古臭い。長塚にとっては南北や三好十郎を取り上げるのと同じ感覚かも(原作はなにしろ田中絹代主演)。
もっとも、あえてミュージカルにしたことでリアルさが薄れ、足を踏み出すしかないという、なけなしのパワーが印象的になった感じ。曲調は力強く、時にコミカルで、「反逆の夜」の5連符やリフレインが耳に残る。
江口は巧いものの、ミュージカルの主役、すべての男に復讐してやるという強烈なキャラにしては、飄々としてたかな。「パンドラの鐘」がよかった前田が期待通り、特徴ある声とすらりとした立ち姿で、はすっぱな存在感を発揮。「海王星(オンライン)」で目立ってた井原も可愛く、動きに切れがある。対する男性陣は引き立て役だけど、大東、前田がともに、なんとも暗くて切ない。北村有起哉は怪しい栗山の右腕と、善良な保護寮院長という対照的な役で舞台を推進する。やはり対照的な娼婦を斡旋しちゃう古着屋と、偽善的な教育婦人をこなす北村岳子が説得力抜群!と思ったら、四季出身なんですね~
セットは抽象的で、傾斜した床の市松模様が美しく、左右の袖にバンドが陣取る。美術は二村周作、バンマスは岸徹至。