M.バタフライ
M.バタフライ 2022年7月
デイヴィット・ヘンリー・ファンの1988年トニー賞受賞作を、吉田美枝翻訳、劇団チョコレートケーキの日澤雄介演出で。内野聖陽オンステージで、倒錯と下卑た笑いに圧倒的演技力を発揮。もっとも観念的な台詞や、中国のとらえ方がさすがに古く感じられ、休憩を挟んで3時間半を長く感じた。ジャニーズファンでいっぱいの新国立劇場小劇場、下手寄りやや後ろで1万500円。
黒く斜めに重なった階段に、椅子が散乱する抽象的なセット(美術は山本貴愛)。機密漏洩で投獄された元外交官ルネ(内田)が全編、回想もしくは自らの幻想を、観客に語りかける。ルネは1960年代に赴任した北京で、京劇の女形ソン・リリン(岡本圭人)と愛人関係になり、重要機密であるベトナムの戦況を漏らしてしまう。帰国後もふたりの関係は続き、ついに破滅へ。
ルネは身勝手にも、ソンを蝶々夫人=聡明で慎み深い「完璧な女」と思い込む。しかし後半、ソンは舞台上でスーツに着替え、法廷にたつ。ルネの機密を中国当局に流した罪とともに、白人のアジア人に対する、また男性の女性に対する支配構造の欺瞞を、鋭く告発する。さらにルネに衝撃的な正体をみせつけて…
1983年に露見した実在のスキャンダル、シー・ペイ・プー事件がモデルで、時代背景としてインドシナ半島でのフランス敗北や中国の文革、学生運動とフランス五月革命等が登場。しかし物語は激動の現代史というより、ルネの思考に焦点を絞っている。信じがたくも20年にわたり、ソンを女性と思い込んでいた、あるいは思い込みたがっていた、それは固定観念なのか、プライドや劣等感なのか。いずれにせよ、あまりに卑小で痛々しい。
舞台2作目の岡本は難役に挑んで立派だけど、さすがに妖しさ不足かな。怒ってばかりのルネの妻、朝海ひかるが意外に凜々しい。ほかにルネの上司に三上市朗、回想で何かとルネをそそのかす友人にナイロンのみのすけ、ハチャメチャな浮気相手にヨーロッパ企画の藤谷理子と安定感がある。制作は梅田芸術劇場。
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