« 奇人たちの晩餐会 | トップページ | パンドラの鐘 »

てなもんや三文オペラ

パルコ・プロデュース2022「てなもんや三文オペラ」  2022年6月

鄭義信作・演出。ブレヒト作・ヴァイル音楽の著名な1928年初演作をベースに、舞台を終戦後10年の大阪に設定。戦争犠牲者への鎮魂が切なく胸をうつ佳作だ。PARCO劇場下手寄り、かなり前で1万3000円。休憩を挟んで3時間。

マック・ザ・ナイフ(生田斗真)は旧大阪砲兵工廠で鉄くずを掘った「アパッチ族」の頭領という設定。開高健が描いた無法者というより、気取った色男の造形で、これは原作のイメージか。冒頭のポール(しおらしいウエンツ瑛士、原作ではポリー)との結婚式シーンから、宝塚よろしく白スーツで階段を降りてくるんだもの。逃亡、買収、裏切りを経て、ポールの父で物乞いの元締ピーチャム(渡辺いっけい)に陥れられるところまでは、原作に沿った猥雑なナンセンス音楽劇だ。
しかし大詰めは急展開。マックが悲惨な南方戦線での、たったひとつの罪を痛切に吐露して、死を受け入れちゃうあたりから、長く在日コリアンの近代史を描いてきた鄭ならではの、力強いメッセージが浮かび上がる。思えば原作がナチス台頭前夜に、当時のブルジョアたちに向けたなけなしの怒りを、本作では庶民を戦争に引きずり込んだ為政者にぶつけて、今この時と呼応する。美しい精霊流しの灯りと、「おかえり」の一言が染みる。

マックと腐れ縁の娼婦ジェニーを演じた、福井晶一の存在感が突出。ゴツい女装の迫力はもちろん(四季出身、ジャン・バルジャンだもんなあ)、言葉がくっきり伝わる歌が素晴らしい。戦争の虚しさを歌う「ソロモンソング」が圧巻だし、大詰めでの細かい表情の変化も手抜きなし。また、警察署長タイガー・ブラウン(福田転球)の娘ルーシー(平田敦子)の笑いのセンスが高水準で、マックをとりあうポールと、コッペパンでわかり合っちゃうシーンに詩情が漂う。
他のキャストもみな芸達者だけど、歌の伝達力は今ひとつだったかな。男女渾然としたキャスティングの狙いは、猥雑さを出すことだったのか。音楽監督は久米大作(久米明の息子さんなんですねえ)、大階段を効果的に使った装置は池田ともゆき。

Img_1368 Img_1371

« 奇人たちの晩餐会 | トップページ | パンドラの鐘 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 奇人たちの晩餐会 | トップページ | パンドラの鐘 »