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エリーナ・ガランチャ リサイタル

エリーナ・ガランチャ リサイタル2022  2022年6月

2020年から2度延期になったラトヴィア出身、大物メゾがついに降臨。ホールを支配する圧巻の声量、脅威の技巧、多彩な選曲の表現力を堪能する。長身で美形、かつサバサバした印象で気持ちいい。ピアノはエディンバラ生まれのお茶目おじさんマルコム・マルティノー。すみだトリフォニーホール大ホール、かなり前のほうで1万7000円。休憩を挟んで2時間半。

第一部は白ドレスにキラキラショールで、内省的なブラームス歌曲を7曲。最初は初めてのホールで残響が強いかと思ったけど、「永遠の愛について」で、娘が語る強い愛で徐々に盛り上がって安心。ベルリオーズ「ファウストの劫罰」から、マルグリートがファウストを思う「燃える恋の思いに」で一気にドラマチックに。ピアノソロでドビュッシー「月の光」を挟み、お待ちかねサン・サーンス「サムソンとデリラ」より「あなたの声で心は開く」。2018年METライブビューイングで聴いた甘~いアリア。演技も交えつつ、半音階と高音がなんとも気持ちいい。そして少し珍しいグノー「サバの女王」より「身分がなくても偉大な方」で休憩へ。

第二部は黒ドレスとチュールに衣装替えし、チャイコフスキー「オルレアンの少女」よりジャンヌ・ダルクが悲壮感をただよわせつつ使命を歌いあげる「さようなら、故郷の丘」でスタート。迫力。ロシアものに転じ、ラフマニノフの歌曲4曲のあと、ピアノソロで温かいアルベニス「タンゴ ニ長調」。そして本編ラストは、表情豊かにサルスエリを怒濤の3曲。17世紀スペインで生まれた、台詞と舞踊を含むオペラなんですね。以前カウフマンがレハールを固め打ちしたみたいに、得意のレパートリーらしく、どんどんのってきて聴いてるほうもニコニコ。まずバルビエリ「ラバピエスの小理髪師」から「パロマの歌」をリズミカルに。土着的で陽気。続いて軍楽隊長ルペルト・チャピ「エル・バルキレロ」から「とても深いとき」で、深い低音、圧巻の高音の飛躍が凄い。最後はチャピ「セベデオの娘たち」から「とらわれし人の歌」を情熱たっぷりに。大詰め、超絶技巧の転がしで、芝居っけ十分に会場をぐるり見渡して大拍手。

スペイン気分がみなぎり、客席に期待が満ちたところでアンコールへ。「これでしょ?」って感じで、待ってましたビゼー「ハバネラ」。ウインク付き姐さん感満載。そしてまさかのプッチーニ「私のお父さん」マスカーニ「ママも知るとおり」チレアのアリアやラフマニノフの歌曲を、「もう無いわよ」とか笑わせながら、楽々と披露する大サービス。素晴らしかったです!

ホールはステージ後ろ平面にパイプオルガンが陣取る、面白い設計。ホワイエは狭かったかな。先輩夫妻に遭遇。

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今角夏織バースデーライブ

今角夏織バースデーライブ 2022年6月

ゴスペルディレクターにしてシンガーソングライターの、ナツオリこと今角夏織の久々ライブ。満席の南青山MANDALA、上手最前列のテーブルで3500円、プラスドリンク。休憩を挟んで2時間程度。

今回はインストユニットの由都景(ユトケイ)、すなわちピアノの泉谷景子、サクソフォンの角口圭都、パーカッションのユカポンを従えて豪華だ。風の音がするバネみたいな楽器とかが面白い。ナツオリは前半はお着物で、豊かなメゾの松岡里奈と、お馴染みゴスペルディレクター永田雄大をまじえ、ピアニカも駆使。オリジナルのほか、楽しいカーペンターズや壮大なゴスペルを。

後半は由都景の爽やかなインストに始まり、ド派手なプリントのドレスに衣装替えして登場。お約束のハロプロ、毎回泣かされちゃうオリジナル「つばさ」などを選曲し、アンコールでは裸足になってピアノの弾き語り。サプライズの「ハッピーバースデー」もあって、温かかったです。配信は2500円。

以下セットリストです。(ご本人ブログより抜粋)
1,American Honey カントリーグループLady Aの曲
2,たゆたう星のしじま オリジナル
3,答えが出るまでもう少し オリジナル。女子の気持ち
4,Won't Last A Day Without You(愛は夢の中に) 松岡里奈とカーペンターズのナンバーを
5,夢現、さがしもの オリジナル
6,Let Praises Rise ファーストセットの最後はゴスペル
7,スカイ 由都景のオリジナル
8,ギター弾きとわたし お馴染み可愛いオリジナル
9,君だけじゃないさ…Friends ハロー!プロジェクトからアンジュルムの曲
10,つばさ 名曲
11,A Song To Sing
12,にじ オリジナル
アンコール:
13,やさしい人 弾き語り
14,赤いやねの家 「みんなのうた」を友人作の英語歌詞で

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パンドラの鐘

COCOON PRODUCTION 2022/NINAGAWA MEMORIAL パンドラの鐘  2022年6月

蜷川幸雄7回忌に、「木ノ下歌舞伎」などの杉原邦生が、単独ではコクーンに初登板。蜷川が1999年、芸術監督のお披露目で、野田秀樹書き下ろしを本人と競作したという伝説の戯曲だ。フレッシュなキャストが、膨大な言葉遊びと時空の往還の果てに、戦争責任と核兵器の罪を叫んで鮮烈。テーマは古びるどころか、切実さを増していると思い知らされる。Bunkamuraシアターコクーンの中央で1万1000円。休憩無し、一気呵成の2時間半。

冒頭、客席通路からミズヲ(成田凌)が呆然と現れ、能のように柱だけのシンプルな舞台に伏して、過去の声を聴く。歌舞伎よろしく紅白の段幕が鮮やかに下りると、そこは開戦前夜、長崎の遺跡発掘現場。要領の悪い助手オズ(大鶴佐助)は一本の折れ釘から、忘れられた古代王国を蘇らせる。
その王国ではかつて、反骨の葬式屋ミズヲが異国から巨大な鐘を持ち帰っており、王位を継いだヒメ女(葵わかな)は、不吉な弔いの鐘の音とミズヲにひかれていた。やがて鐘に刻まれた謎の文字から、古代王国と昭和ニッポンの宿命とが響き合っていく。

「冬のライオン」の葵が、幼さから野太さへと振幅を見せて、びっくりの牽引力だ。大詰めで道成寺ばりに、重厚な衣装で鐘に立つシーンの威厳。なにせ初演は大竹しのぶと天海祐希が演じた大役。そのチャレンジとともに、楽しみです。対する初舞台の成田も、少し猫背の頼りなさ、かすれ声がいい存在感。妻夫木くんみたいになるかな? 第一声で観客を引き込んじゃう大鶴、リズム感抜群の王国宰相・玉置玲央が勢いをつけ、オズを振り回すタマキの前田敦子が、長身で意外なコメディエンヌぶりを発揮。「フェイクスピア」にも出てたし、けっこうのしてくるかも。
80歳の白石加代子が、ヒメ女の乳母ヒイバアをきびきび演じて嬉しい。考古学教授では重めの片岡亀蔵も、古代パートの王の望遠鏡事件ではさすがのスケールを見せる。さらに「赤鬼」の森田真和らが脇をかため、黒衣のダンサーが場を構築して緻密だ。

美術は「NINAGAWA十二夜」の金井勇一郎、音楽はm-floの☆Taku Takahashiと豪華。振付は北川結。冒頭を思わせるラスト、舞台後方の扉を開ける蜷川オマージュが、今この時と戯曲を響きあわせて余韻を残した。

中段下手寄りで野田さんが観劇。拍手してました~

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てなもんや三文オペラ

パルコ・プロデュース2022「てなもんや三文オペラ」  2022年6月

鄭義信作・演出。ブレヒト作・ヴァイル音楽の著名な1928年初演作をベースに、舞台を終戦後10年の大阪に設定。戦争犠牲者への鎮魂が切なく胸をうつ佳作だ。PARCO劇場下手寄り、かなり前で1万3000円。休憩を挟んで3時間。

マック・ザ・ナイフ(生田斗真)は旧大阪砲兵工廠で鉄くずを掘った「アパッチ族」の頭領という設定。開高健が描いた無法者というより、気取った色男の造形で、これは原作のイメージか。冒頭のポール(しおらしいウエンツ瑛士、原作ではポリー)との結婚式シーンから、宝塚よろしく白スーツで階段を降りてくるんだもの。逃亡、買収、裏切りを経て、ポールの父で物乞いの元締ピーチャム(渡辺いっけい)に陥れられるところまでは、原作に沿った猥雑なナンセンス音楽劇だ。
しかし大詰めは急展開。マックが悲惨な南方戦線での、たったひとつの罪を痛切に吐露して、死を受け入れちゃうあたりから、長く在日コリアンの近代史を描いてきた鄭ならではの、力強いメッセージが浮かび上がる。思えば原作がナチス台頭前夜に、当時のブルジョアたちに向けたなけなしの怒りを、本作では庶民を戦争に引きずり込んだ為政者にぶつけて、今この時と呼応する。美しい精霊流しの灯りと、「おかえり」の一言が染みる。

マックと腐れ縁の娼婦ジェニーを演じた、福井晶一の存在感が突出。ゴツい女装の迫力はもちろん(四季出身、ジャン・バルジャンだもんなあ)、言葉がくっきり伝わる歌が素晴らしい。戦争の虚しさを歌う「ソロモンソング」が圧巻だし、大詰めでの細かい表情の変化も手抜きなし。また、警察署長タイガー・ブラウン(福田転球)の娘ルーシー(平田敦子)の笑いのセンスが高水準で、マックをとりあうポールと、コッペパンでわかり合っちゃうシーンに詩情が漂う。
他のキャストもみな芸達者だけど、歌の伝達力は今ひとつだったかな。男女渾然としたキャスティングの狙いは、猥雑さを出すことだったのか。音楽監督は久米大作(久米明の息子さんなんですねえ)、大階段を効果的に使った装置は池田ともゆき。

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奇人たちの晩餐会

奇人たちの晩餐会  2022年6月

フランシス・ヴェベールの1998年の戯曲を岩切正一郎訳、東京サンシャインボーイズ出身・ミュージカル畑の山田和也演出で。フランスらしいシニカルなシチュエーションコメディを、片岡愛之助オンステージで。年齢層高め、ちょっと空席がある世田谷パブリックシアター、上手寄り前の方で1万1000円。休憩を挟み2時間半。

腕利き編集者ピエール(戸次重幸)が住む高級アパートのワンセット。彼は友人とディナーに「バカ」を招いて、密かに笑いものにする悪趣味の持ち主だ。ある日のディナー前、ギックリ腰に見舞われたうえに、妻(宝塚出身の水夏希)が出て行って慌てているところへ、今夜のゲスト、税務署勤め、マッチ棒で巨大模型を作るフランソワ(愛之助)が現れて巻き起こす一夜の騒動。

前半はピエールのフランソワに対する上から目線、底意地の悪さが、どうにも不快でならない。そこを愛之助が、強靱なコメディセンスでなんとか引っ張る。なにしろ空気を全く読まず、面倒な愛人を呼び寄せるわ、せっかく戻った妻を追い返すわ。善意なんだけど、すべてが裏目。けれど休憩後にセットがガラッと変わってからは、ピエールが守勢に回るはめになって、不快さは軽減。終盤、フランソワがピエールの孤独をしみじみ語ってジンとさせる。「人生の大掃除」、必要かもなあ…

かつて酷い目に遭ったのにピエールを心配する、作家ルブランにミュージカルの原田優一、騒動に巻き込まれる税務調査員シュヴァルに元ジョビジョバの坂田聡。固定電話と留守電、スピーカーフォンが活躍するあたり、時代を感じます。愛人役の野口かおるの絶叫は辛かったかな。

インプレッション・ぴあ主催。

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落語「磯の鮑」「野ざらし」「猫忠」「一人酒盛」

第七十三回大手町落語~ザ・柳家!2022夏~ 2022年6月

柳家&実力者が豪華リレーの落語会。手練れ四人四様の古典をたっぷりと。年配客中心にいっぱいの日経ホール、前のほうで4400円。仲入を挟みたっぷり3時間。

前座は入船亭扇辰の弟子の辰ぢろで、長屋の嫁がやたら大仰な言葉遣いをする「たらちめ」。続いて二ツ目の柳家小もんで「弥次郎」。柳家小里んの弟子、小さんの孫弟子ですね。弥次郎がご隠居にホラばかりの武勇伝を語るんだけど、まだまだかな。
ここで柳家三三登場。本日のメーンのなかでは若手だもんなあ。寝ててもいいんですよ、でもイビキは困ります、ほかのお客さんが起きちゃうので、などと笑わせて「磯の鮑」。2019年に聴いた、与太郎が「師匠」に吉原行きを習う噺をサラサラと。滑稽で色っぽくて、いい。続いて柳家さん喬が、2019年に兼好さんで聴いた「野ざらし」。いい女の骨に会いたくて釣りに出かけた八五郎の、「サイサイ節」をうなったり、水たまりにはまったりの無茶ぶりが楽しい。「酔わずに歌えるか、市馬じゃないんだから」もノリノリです。

仲入後はその柳亭市馬。マクラもそこそこに2012年から久々、狐忠信のパロディ「猫忠」。おおらかな運びが心地良い。清元の師匠のところにいる男が、三味線にされた猫の子の正体を現して、から、岡田まい社中のお囃子が入っての名調子に拍手! トリは大好きな柳家権太楼。市馬が理事になって寄席の楽屋が禁煙になったと憤る。4月に不整脈で入院した75才、元気で何よりです。こちらも2019年に聴いた「一人酒盛」。振り回される留さんは気の毒なんだけど、どんどん酔払っちゃう身勝手な熊さんの、何ともいえない愛らしさが、さすがです。あ~、楽しかった。

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関数ドミノ

イキウメ「関数ドミノ」  2022年6月

前川知大作・演出。2014年に劇団で、2017年にプロデュース公演で観た定番SFだ。シンプルなしつらえで、「労せず得している人がいる」という社会観の焦燥、虚しさをクリアに。劇団の2枚看板、「あいつはドミノだ」と言いつのるプライドの高い安井順平と、飄々と受け流す浜田信也が達者で、休憩なし2時間を飽きさせない。東京芸術劇場シアターイーストの前のほう、上手寄りで5800円。

保険調査員(温水洋一)が謎の交通事故の目撃者たちに話を聞く。そのうちのひとり、安井が浜田を「ドミノだ。それを証明できる」と言い出す。知的だからこそ陥ってしまう、「親ガチャ」などにも通じるネガティブ思考のしつこさ、プライドと妬みひがみの息苦しさが、ますますリアルだ。
元妻で、安井を引き留めようとする精神科医・小野ゆり子(大人になった)が、クールな存在感を発揮。応援モードの気のいい看護師・太田緑ロランス(痩せちゃったなあ)と好対照をなす。病気を抱える男に盛隆二、事故車の運転手に森下創、浜田の弟に大窪人衛。
装置はシンプルで、舞台中央が斜め四角にちょっと低くなっており、上方に合わせ鏡のように四角いオブジェが浮かぶだけ。わずかな照明の変化に引き込まれる。

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