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ユーミン「深海の街」ツアー

THE CITY in THE DEEP SEA 松任谷由実コンサートツアー2021-2022  2022年4月

5年ぶりのユーミン、2020年末のアルバム「深海の街」を引っ提げた全国60公演のツアーに参戦。コロナ禍の鬱屈を深海にたとえ、スペイン風邪以来100年の輪廻と無常に想いをはせる。問答無用で泣けるセットリスト、紫を基調とした演出が1編の小説を読むようで、しみじみとした大人のライブだ。東京国際フォーラムホールA、1F中ほどで9900円。2時間。

古びた潜水服の人物が、水底に沈んでいく映像でスタート。武部聡志のオルガンと、後方上段からセリあがったユーミンのナポレオンジャケットが、ノスタルジーをかき立てる。MCは最小限で、朗読のような内省的なモノローグでつないでいく。「深海の街」の夜の都会の俯瞰映像が美しい。
中盤、「カンナ8号線」は明るいマーチ風に転じ、赤いドレスとハットが鮮やか。映像は「知らないどうし」の西部劇、「REBORN」のカリブ海の夕焼けと展開していき、「NIKE」でりりしいトレンチコート、ジョーギーブーツ姿に。
「LATE SUMMER LAKE」で手持ちカメラも駆使して盛り上がるものの、「Hello, my friend」からはミラーボールの輝きが会場を包み、涙涙の王道ユーミン節に突入。そして冒頭から100年後なのか、海底に横たわる冒頭の人物をもう一人の潜水服の人物がじっと見つめる映像と、「あの時間に戻ったら、同じ夢を見たい」というモノローグで本編は終了。
アンコールは再びナポレオンジャケットをまとい、かけがえのない地球を歌いあげて感動。サービスの1曲はお約束、武部さんのピアノだけで、追憶を歌って終幕となりました。

おそらくコロナに配慮してメンバーを絞り込んでいて、コーラスの小林香織はサックスとフルートとダンス、佐々木詩織はパーカッションとダンス、今井マサキはギターも兼ねて大活躍。ダンサーは「What to do ? waa woo」で一人登場、セットもポッド(潜水艦の脱出装置)型のスクリーン3台の出し入れくらいでした。それでも時空のスケールを感じさせるのは、デビューから50年、1ミリも色あせない楽曲の力としかいいようがない。
メンバー全員が潜水艦の乗組員という設定で水兵服を着ていて、曲の合間にコーラス隊が気をつけしてる演出が可愛かった。ユーミンはメンバー紹介で「観客皆さんも今日のステージのクルー」と語り、パンフレットは「乗組員だった証として」チャレンジコイン付き。この凝りかたが嬉しい。来場者にはフェイスシールドの配布も。

 

以下、セットリストです。

1,翳りゆく部屋
2,グレイス・スリックの肖像
3,1920
4,ノートルダム
5,深海の街
6,カンナ8号線
7,ずっとそばに
8,What to do ? waa woo
9,知らないどうし
10、あなたと 私と
11、REBORN ~ 太陽よ止まって
12,散りてなお
13,雨の街を
14、ひこうき雲
15、NIKE ~ The goddess of victory
16、LATE SUMMER LAKE
17,Hello, my friend
18,ANNIVERSARY
19,水の影
アンコール
20、青い船で
21、空と海の輝きに向けて
22、二人のパイレーツ

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アンチポデス

シリーズ「声」vol.1 アンチポデス  2022年4月

1981年マサチューセッツ州生まれ、アニー・ベイカーの2017年初演作を、小田島創志(小田島家3代目!)訳、小川絵梨子演出で。「物語作り」に集まった男女9人が延々ブレストする、という設定だけど、ドラマ制作の裏話と思ったら見事に足をすくわれる。物語=人類が基盤にしている思想とか社会の成り立ちとかの揺らぎを問う、とても観念的な会話劇で正直、難しかった! 演劇好きらしい男性も目立つ新国立劇場小劇場、中ほどの席で6930円。休憩無しの2時間弱。

高層ビルにある会議室のワンセット(美術は小倉奈穂)。リーダーのサンディ(白井晃)がプロジェクトメンバーに、人生の体験を語らせる。死や性をめぐる下世話な告白を挟みつつ、ギリシャ神話、ヒンドゥー神話、聖書などの物語が繰り広げられる。新たなヒット作、怪物級の物語とは何か。果たして今この世界で、私たちはいったい何を共有できるのか。やがて外は激しい嵐となり…

アンチポデスとは対蹠地=地球の裏側、すなわち一番遠い他者ということか。そんな前衛に取り組む小川のチャレンジを、達者な役者陣が支える。白井は膨大な台詞をよどみなくこなし、トランプばりの野球帽をかぶった、どこか胡散臭い人物を造形して、舞台を牽引。ほぼ出ずっぱりのプロジェクトメンバーでは、高田聖子が難しいジェンダー話を、伊達暁がうざい男を、そして亀田佳明が傷つきやすい男を引き受ける。少し冷めたアシスタント役の加藤梨里香がなかなか強靱で、楽しみ。

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らくご「寄合酒」「代脈」「抜け雀」「ロボット長短」「品川心中」

よってたかって春らくご’22 21世紀スペシャル寄席ONEDAY 夜の部 2022年4月

ちょっと久々に有楽町よみうりホールの落語会。間違いない一之輔、三三に、馴染みのない噺家さんも加わっていて、寄席の雰囲気を味わう。やけによく受ける客席の、中央あたりで4200円。仲入を挟んで2時間半。

開口一番は 三遊亭楽太。高卒で入門して20歳そこそこらしいけど、堂々としたもの。「師匠は円楽です。腹黒いです。嘘はつきません」「初高座です(拍手)。この会場では。嘘はつきません」などと振って、角の乾物屋が気の毒な「寄合酒」。与太郎の愛されてる感じが心地良い。古風な語り口で先行き楽しみ。
しょっぱなは3年ぶりの三遊亭萬橘。やさぐれた癖の強さは変わらない。コアなファンが来ていて、やたら笑うし高座と会話しちゃうし自由だなあ。今週の村田諒太グロフキン戦の上品な観客のヒートアップ、落語だったら「受けろー」か、フラッシュ付きカメラはラウンドガールがお目当て、と話して「代脈」。先生はほかにいい仕事があって、それは噺家の考え方ね、などとくすぐりつつ、意外にさらさらと。
続いてお楽しみ春風亭一之輔が登場。落語協会は真打ち4人の披露中で、口上で女流の元ぴっかり☆・蝶花楼桃花の師匠・小朝が泣いちゃってびっくり、桃花が泣いてたのは披露目がネタおろしのせい、と笑わせて「抜け雀」。絵師と女房に振り回される、お人好しで正直な宿屋の主人の困り顔、ちょっとした間合いの仕草が愛らしくて絶品だ。衝立に描いた雀と松(待つ)に託した、でこぼこ夫婦、そして名人親子の情にしみじみ。

仲入りを挟んで、初めての林家きく麿。木久扇の弟子で、50歳くらいで風貌はごつめ。言語不明瞭な先輩の物真似は、寄席に通ってないとわからないなあ。新作「ロボット長短」は「長短」の気の長いほうの男がなんとロボットで、いちいちウインウインとまどろっこしい。巧かないけど、繰り返しが妙に可笑しい。届けに来た饅頭を取り出すところだけ、反則技にお下劣。油を差したら急に格好良く喋ったり、ユニークです。
気を取り直してトリは柳家三三。最後は普通の落語を、と最近も喬太郎で聴いた「品川心中」。板頭、紋日の解説から丁寧に入り、今日の顔ぶれや雀やロボットをちらりと入れ込みつつ、身勝手なお染と、恋仲気取りなのに世の役に立ってないと心中相手にされちゃう金蔵の関係に的を絞って。んー、身も蓋もないところが実に人間臭くて、ジャズが聞こえそうなクールな手触りは、一編の映画のようだ。いっぱしに構われたくて寝たふりする金蔵、遠浅の浜で身投げしようとするお染。人って愚かだなあ。

本日も面白かったです! 一之輔サイン入り文庫本を購入。

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広島ジャンゴ

COCOON PRODUCTION2022 広島ジャンゴ2022  2022年4月

作・演出の蓬莱竜太がシアターコクーン初登場、天海祐希はじめ役者も揃った人気作だ。変哲ない町工場の人間関係が突如、西部劇にシフトしちゃう荒唐無稽な設定で、簡単に揺れ動く集団心理と、それに対する個人のささやかな抵抗を切なく描く。笑いあり立ち回りありの大劇場にふさわしいエンタメ性、天海の絶対トップぶりが痛快な秀作だ。通路後ろ、やや下手寄りのいい席で1万1000円。休憩を挟んで3時間弱。

気の弱い木村(鈴木亮平)は工場長(仲村トオル)から宴会への全員参加を強要されるが、職場に溶け込まない山本(天海祐希)はにべもない。目覚めるとなぜか山本はさすらいの子連れガンマン・ジャンゴ、自分はなんとその馬(!)ディカプリオになっており、水を独占する横暴な町長(=工場長)に立ち向かっていく羽目になる。

無理な設定を成立させちゃう蓬莱マジックが、まず見事。藤原竜也と鈴木が、なんと小6を演じた2019年「渦が森団地の眠れない子たち」を彷彿とさせる。
天海が疲労の色濃い山本と、クールなヒーロー凄腕ジャンゴとの振幅で、舞台をぐいぐい牽引。圧倒的に格好良い。対する鈴木があくまで馬として扱われちゃっう情けなさで存分に笑わせつつ、はまり役の善人ぶり、その陰で長年抱える姉(ずっと事務員姿の土居志央梨)の自殺を止められなかったという傷を、繊細に見せる。
敵役・仲村が、こちらもはまり役のこわもて感を発揮。高い橋からの演説で町民を操り、状況を逆転させるシーンが衝撃だ。まるでチャップリン「独裁者」。西部劇だから悪は滅びるんだけど、何が正義かなんてわからないという町長のリアルな叫びは、今だからこそ重要と思わせる。
情報に流されがちな集団の正義よりも、いま目の前にある小さな困りごとに手を差し伸べたい、というラスト、希望のスポットライトが胸に染みます。山本の娘が獣医を目指す、という落ちも効いてた。

ほかに悪役グループで工場長の妻に池津祥子(大人計画)、そのクズの弟に野村周平、悩む社員夫婦に藤井隆と中村ユリ。西部劇パートでジャンゴの娘になかなか個性的な芋生悠、ジャンゴの昔なじみで酒場の女主人に堂々とした宮下今日子ら。ミュージシャンは熊谷太輔ら。

写実的な美術は愛甲悦子。広島市の財団の依頼で地元劇作家と共作した、2017年初演作のリメイクだそうです。客席にはケラさんご夫妻はじめ、評論家っぽい人もちらほら。

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春陽「お歌合わせ」「木津の勘助」「津山の鬼吹雪」

噺小屋in池袋 卯月の独り看板 神田春陽 2022年4月

神田春陽の東京芸術劇場の会は4回目。声の勢いに磨きがかかって聴き応えがある。シアターウエスト最前列で3300円。仲入を挟み2時間。

開演前のオープニングアクトはお馴染み、岡大介のカンカラ三線。明るく皮肉をきかせて盛り上げる。開口一番は昨夏に続いて神田鯉花が「柳沢昇進録」から「お歌合わせ」。吉保が弥太郎と称していた頃、妻・お染が綱吉の生母・桂昌院に気に入られる顛末だ。「船を山に上げよ」とのお題に、「富士映す田子の浦たの夕暮れに船漕ぎ寄する雲の上まで」と即吟するくだりが鮮やか。
続いて春陽さんで、コロナで発熱してるとき琴調さんから電話がかかってきて、などと笑わせてお得意「木津の勘助」。真の侠客・勘助の啖呵が一段と迫力を増して、いい感じ。

仲入り後はゲストで、仲良しの活動弁士・坂本頼光が登場。弁士は後輩でも劇団民芸出身だったりする、最近20代の後輩ができて、などと振ってから現存する1932年の無声映画「国士無双」。伊丹万作監督のナンセンス時代劇で、偽物なのにやたら強い片岡千恵蔵が格好良い。そしてびっくりの実写版「赤頭巾」。頭巾は白いし、狼役の犬はじゃれてるだけだし、いやー貴重すぎ。
ラストは春陽さんで「津山の鬼吹雪」。山本周五郎の短編を自ら脚色したそうです。浪人ふたりが食うに困って山賊を働こうとし、やさ男の秋津男之助にやり込められる。男之助はふたりを連れて道場破りに行き、たたかう前に「参りました」と言ってカネをせしめるけど、実は凄く強くて、津山の村瀬騎兵衞の道場で美人の娘を襲った浪人・微塵組を蹴散らしちゃう。のちに剣豪として名をなしたという、コミカルで爽やかで、講談らしかった!

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