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奇蹟

シス・カンパニー公演 奇蹟  2022年3月

北村想の新作戯曲を寺十吾が演出。ホームズとワトソンみたいなコンビが、奇妙な森に迷い込む。笑いが多いんだけど、バチカン秩序を疑うという題材に、ちょっと乗り切れなかった。そういえば2012年に代表作「寿歌」を観たときも、似た感想だったような… 世田谷パブリックシアター、前の方やや上手寄りで1万円。休憩無しの1時間40分。

医師の楯鉾寸心(鈴木浩介)は、頭を打って記憶喪失状態になった親友の腕利き探偵・法水連太郎(井上芳雄)と、依頼主も依頼の内容もわからないまま「迷いの森」を探索する。どうやら法水を看病した少女マリモ(元乃木坂46の井上小百合)の祖父で実業家・竿頭寬斎(大谷亮介)の過去に鍵があるようだけど…

1973年秋田で起きた超自然現象をベースに、奇蹟の当事者となった修道女(瀧内公美)の苦悩から謎が解き明かされる…と思いきや、プラズマによる造形とかホログラフとかフィフスエレメントとか、映像・字幕も駆使して要素がてんこ盛りとなり、煙に巻かれっぱなしでした。
俳優陣はみな台詞回しに長けてるし、井上はさすが伸びやかな歌を存分に聴かせ、楽しいファンサービスはたっぷり。ラストは井上小百合がサックスを披露するし。書き割り風の賑やかなセットは松井るみ、ホームズ感を楽しむ衣装は前田文子。

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落語「普段の袴」「ちりとてちん」「不動坊」「疝気の虫」「品川心中」

三遊亭円楽プロデュース 江戸東京落語まつり2022  2022年3月

主宰の六代目三遊亭円楽が1月に脳梗塞で倒れ、まさかのリハビリ中。東西の人気落語家52人が集結する一大イベント、5日間の4日目に足を運んだ。この日は3会場あるうちの大手町サンケイプラザ4Fの中ほどで、「落語協会のホール落語その2」と銘うった、実力個性満点の5人を堪能しました~ 贅沢過ぎる古典がたっぷり! 中入りを挟んでたっぷり3時間弱。

前座無しでいきなり、春風亭一之輔が登場です。高~い高座に上ると、最初にあがるなんて最近ない、楽屋ひとつだし、この会場で落語は初だって、そうでしょ平らで向いてないもの、と笑わせる。初めて入ったけど、確かにどう見ても宴会場でしたね。上野のababはアブアブ、オイオイは何かときいたら丸井だった、などと会場を十分に温めてから、以前youtubeでも聴いた「普段の袴」。ドジな物真似男が愛らしい。祝儀不祝儀の衝突シーンに爆笑。
続いて大御所・柳家さん喬。今日のメンバー、みな寄席に出てますからね、わたし落語協会常任理事です、などと宣伝して「ちりとてちん」。さん喬さんで聴くのは2回目だ。台湾名物を酒で無理矢理呑み込む、半可通の竹さんの苦悶の表情が可笑しすぎ。エグい噺が上品に聴けるのは、この人ならではですね。
がらりと元気になって林家たい平。笑点メンバーが円陣を組んで、昇太がこれからも番組のために骨を折って下さい!と言ったら、木久扇さんが本当に骨折、などと笑わせて「不動坊」。前に小太郎で聴いたけど、やっぱり安定感がある。風呂屋での色っぽさ、あんころ餅の馬鹿馬鹿しさ。

仲入後は大好きな柳家権太楼。ゆっくり上って、75歳で補聴器を買いに行った、先輩に免許返上を止められた、帰りに無免許で捕まったから、豪華客船で落語は難しい、学校寄席も喬太郎はいいけど(物真似!)こっちは古典だからシラケる、よく悋気は女の慎むところ、疝気は男の苦しむところと言いますが、よく言わねえよ!だからね、と振って「疝気の虫」。10年以上前に志らくで聴いた噺だけど、なぜか印象になくて新鮮。妙に丁寧な虫の物言いから、チントトサン、パッパッパ、11月23日の駄洒落などなど、もう爆笑。蕎麦の臭いによじ登るくだり、三味線が囃し立ててヘロヘロに。愛らしい!
そしてトリは再三いじられてた柳家喬太郎。感染第六波ならエノケンでしょ、などとお馴染み人を食った感じのマクラから、古典で「品川心中」上を滑らかに。権太楼さんに刺激されたかな? 遊郭の人間模様は割にさらさら、裏がすぐ海で波音が聞こえてという江戸情緒がいい。いやー、たっぷりでした。

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ピローマン

演劇集団円「ピローマン The PillowMan」  2022年3月

いやー、重かった。アイルランド系マーティン・マクドナーの2003年初演作を、寺十吾演出で。子供をいたぶる童話の不快さと、刑事アリエル(石住昭彦)の怒声の圧迫感がもの凄い。演劇好きが集まった感じの古めかしい俳優座劇場、中ほどで1万1000円。休憩を挟み3時間。

どこぞの強権国家を思わせる警察の取調室(一貫して重苦しい美術は乗峯雅寛)。作家カトゥリアン(渡辺穣)は、自作の残酷童話を模した3人の子供殺しを疑われ、冷徹な刑事トゥポルスキー(瑞木健太郎)と暴力的なアリエルから人権無視の取り調べを受ける。実は虐待で精神が傷ついた兄ミハエル(玉置祐也が無垢を熱演!)の仕業と知り、カトゥリアンは自作の物語が保存されることを条件に、罪をかぶろうとして…

ピローマンとは作中の童話に登場するキャラクターで、ふわふわの優しい外見とは裏腹に、子供たちに辛い未来を見せ、自殺を勧めちゃう。絶望の塊のような造形が凄まじい。両親がカトゥリアンを文学者に育てる「実験」として、長年、隣室で兄を虐待していた、という設定も救いがなさ過ぎ。
だからこそ、命がけで表現を守ろうとする作家という存在の貴重さが、社会の中でひとりだけ違う色をした「緑のブタ」のファンタジーと重なって、なんとも切ない。生きて3人目の少女が現れたときのえもいわれぬ解放感、乱暴者アリエルがなけなしの共感を示すラストシーンも、一筋の希望となる。虚実の不確かさ、圧迫感のなかのふとした笑いも複雑。マクドナー恐るべし。

2021年から延期されていた公演でした。花はまだまだ。

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冬のライオン

冬のライオン 2022年3月

映画「ホワイトナイツ」などのジェームズ・ゴールドマンによる、1966年初演作を小田島雄志訳、森新太郎演出で。佐々木蔵之介はじめ豪華キャストが、まるで創業社長家、俗物揃いのドタバタ相続争いを笑い混じりに繰り広げて、国家レベルの橋田ドラマという感じ。欺しあい傷つけ合ってきたけれど、老いて腐れ縁がトホホな、夫婦というものの不思議。東京芸術劇場プレイハウス、中段やや上手寄りで9500円。休憩を挟み2時間半。

時は12世紀、あるクリスマス。プランタジネット(アンジュー)朝初代のイングランド王ヘンリー2世(佐々木)は不仲の古女房エレノア(高畑淳子)と3人の息子リチャード(加藤和樹)、狡猾なジェフェリー(永島敬三)、劣等生ジョン(後の欠地王ですね、浅利陽介)をシノン城に集める。若い愛妾アレー(葵わかな)、気取ったフランス王フィリップ2世(水田航生)もからみ、虚々実々の駆け引きを繰り広げる…

高畑がまさかのサングラスの登場から、さすがに威厳たっぷりだ。なにせ公然と夫に対する反乱を企てたり、十字軍に参加したりの女傑。さしずめ駅前ビルを何棟も経営していて、大相撲桟敷席の常連、といったところ。この戯曲では幽閉の身だから、ね~自由にしてよ~とどこか愛嬌もあり、憎み合いつつ縁は切れない佐々木と、終盤、並んで語り合うシーンでしみじみさせる。巧いなあ。ストレートプレイ初の葵も勝ち気そうで健闘するも、この妻に対抗するには可愛すぎるかな。
息子たちも頑張ってたけど、どうしても浅利が突出しちゃうのは否めない。できが悪い子ほど可愛いんですねえ。
お馴染み堀尾幸男の美術は、壁に血糊の跡らしきものがみえて殺伐。壁掛けからの出入りが面白い。シンプルな衣装はゴウダアツコ。

シェイクスピア史劇は14世紀のプラタジネット朝最後の王・リチャード2世から始まるけど、戯曲は共通言語としてのシェイクスピアを踏まえている感じ。特に、嘘に満ちた人生は舞台、人は皆役者、現実もまた虚像というニヒルな態度が印象深い。1968年の名作映画版も観てみたいな。

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近江源氏先陣館

第327回令和4年3月歌舞伎公演 近江源氏先陣館「盛綱陣屋」 2022年3月

歌舞伎名作入門と銘打った「盛綱陣屋」は、タイトロールの菊之助が初役で。昨年11月に亡くなった岳父・吉右衛門の書き込みがある台本を手がかりにしたそうで、きめ細かい感情表現が、くっきりと知的だ。大健闘の息子・尾上丑之助(まだ9つ!)ほかキャストが揃って、見応えがあった。国立劇場大劇場の前の方いい席で8000円。解説を含め2時間半。

近松半二の義太夫狂言は、大坂冬の陣で敵味方に分かれた真田信之・幸村兄弟の悲劇を、鎌倉時代の佐々木盛綱・高綱兄弟に移したもの。まず中村萬太郎がご案内を務め、複雑な人間関係を大河ドラマ「真田丸」のテーマに乗せて明朗に解説してくれて、わかりやすい。ドラマでは大泉洋と堺雅人だったなあ。

25分の休憩を挟み、本編はいきなり盛綱と和田兵衛(中村又五郎が豪胆に)の問答「詰め開き」が緊迫。盛綱が弟・高綱に忠義を貫かせるため、母・微妙(我當門下の上村吉弥が三婆を柔らかく)に頼んで、生け捕った高綱の一子・小四郎に切腹させようとするシーンは、残酷な話なのにどこか母に甘える感じが面白い。
高綱の妻・篝火(中村梅枝がきりり)と盛綱の妻・早瀬(評判の中村莟玉が可愛め)の並列技法シーンは、矢文の応酬が魔法のよう。微妙と生き延びようとする小四郎(丑之助が可愛い!)の辛いやりとりに続いて、陣鐘太鼓が鳴ってからは怒濤の展開だ。
暴れの注進・信楽太郎(中村萬太郎)、道化の注進・伊吹藤太(中村種之助がうまい)がテンポ良く高綱討ち死を知らせ、曲者・北条時政(復帰の片岡亀蔵が堂々)が登場して、いよいよ首実検へ。唐突に切腹する小四郎が我慢の演技。贋首を成立させるまさかの大芝居と気づき、決断するまでの盛綱の無言の演技に引き込まれる。ずっと座ってる小三郎の小川大晴くん(梅枝の息子)も、まだ7つなのに頑張りました!
時政が去ってからはお決まり愁嘆場と思いきや、鎧櫃のトリックまであってびっくり。出入りの多い奥の浄瑠璃は、吉右衛門さんとも縁が深かったという人間国宝の竹本葵太夫。聴きやすかったです。

国立演芸場の演芸資料展示室「講談の歴史」に寄りました。

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ライフ・イン・ザ・シアター

ライフ・イン・ザ・シアター  2022年3月

映画「アンタッチャブル」の脚本などで知られるデヴィッド・マメットの、1977年初演作を小田島恒志訳、千葉哲也演出で。バックステージでのベテラン、新進2人の男優の会話だけで、時の移ろいを繊細に描く。製作はエイベックス・エンタテインメント。新国立劇場小劇場の前のほうで8500円。休憩無しの1時間半。

特別な事件が起きるわけではない。衰えゆく者ロバート(勝村政信)と、どんどん自信を増す者ジョン(高杉真宙)という立場の変化を、笑いを散りばめながらも淡々と見せていく。ロバートの失敗が増え、それにつれてジョンの態度がぞんざいになっていくあたりは、みていて辛くなる。
けれど底流にはいつも、舞台に立つことの緊張と喜び、それを共有している者だけの同志感が流れていて、すがすがしい。明日もまた、楽屋で会いましょう、と。

前方に楽屋があり、後方に向かってステージが開けている(美術は奥村泰彦、久保田悠人)。全二十六場、シェイクスピアとか戦争ものとか医療ものとか、いかにもな上演シーンをどんどん着替えして、たたみかけていく。出番直前にチャックが壊れたりとか、舞台俳優あるあるみたいな感じ。
勝村が余裕で、ニヤニヤじゃれるのは、どこまでアドリブなのか。堤真一や藤原竜也が演じてきたというジョン役の、「てにまある」「カリギュラ」の高杉は健闘だけど、もうちょっと陰影がほしいかな。

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DREAMS COME TRUE ACOUSTIC風味LIVE

DREAMS COME TRUE ACOUSTIC風味LIVE 総仕上げの夕べ2021-2022~仕上がりがよろしいようで~ 2022年3月

昨年行き損なったドリカムのライブへ。コロナのため少人数編成にしていて、フライングや全力疾走は封印してるけど、アコースティックというよりシンセが活躍、ダンスもあって楽しい。国立代々木競技場第一体育館の、スタンド南2F、割と前の方で9900円。2時間強。

ステージ後方から普通に歩いて登場し、いきなり「何度でも」で盛り上がる。「スキスキスー♡」「KUWABARA KUWABARA」のドラマににんまりし、「星が映る海へ」「空を読む」の情景に酔い、格好良い「G」「さぁ鐘を鳴らせ」からは怒濤。
途中、美和ちゃんがステージ上のカメムシを発見、スタッフが捕まえて逃がすハプニングからの、王蟲降臨が面白かった。それも換気のドア開放が頻繁だからこそ。直前3日間の体温をアプリで記録させ、周到に実現した貴重なライブ。開演前にお茶の自販機に列ができていたのも印象的でした~
グッズは美和ちゃんのライトスティック、ホントはウラワンのはずだったフェイスシールド、会場限定Tシャツ計6100円を購入。代々木体育館は5年半ぶりとのことで、あー2016年ウラワンに行ったなあ、と感慨です。昨秋の左肩剥離骨折やら災難のマサさん、MCが愚痴っぽいのはいただけないかな。とはいえ、この3月で33周年! 来年はワンダーランドに行きたい~ 

以下セットリストです。

1,何度でも
2,いつのまに
3,スキスキスー♡
4,APPROACH
5,KUWABARA KUWABARA
6,どうぞよろしく
7,星が映る海へ
8,空を読む
9,琥珀の月
10,高く上がれ!
11,ONE YESTERDAY
12,夢で逢ってるから
13,やさしいキスをして
14,あなたとトゥラッタッタ♪
15,G
16,YES AND NO
17,さぁ鐘を鳴らせ
18,その先へ
アンコール:
19,次のせ~の!で-ON THE GREEN HILL-
20,サンキュ.
21,うれしい!たのしい!大好き!-DOSCO prime versio

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