ミネオラ・ツインズ
シス・カンパニー公演 ミネオラ・ツインズ 2022年1月
2022年の初観劇は初のスパイラルホール。ポーラ・ヴォーゲルの1996年初演コメディーを、お馴染み徐賀世子訳、藤田俊太郎の洒落た演出で。
戯曲は性格真逆の双子姉妹の半世紀を通じて、保守とリベラルの抜きがたい分断を軽妙に描く。フェニミズムが基調だけど、アメリカ、そして世界の分断は一層深刻だし、家族なのにわかり合えないことの切なさは普遍的だ。南ブロック下手寄りで1万円。休憩無しの1時間半。
NY郊外のミネオラに住む高校生姉妹(大原櫻子が2役)は、一卵性双生児だけどキャラは正反対だ。始まりは50年代、優等生マーナは堅実に年上のジム(小泉今日子)と婚約中。一方のマイラはヒッピー文化にかぶれ、こともあろうにジムを誘惑、69年には過激派として銀行強盗をやらかし、マーナの14歳の息子ケニー(八嶋智人)を巻き込んじゃう。さらに時代が移って1989年、今度はマーナが攻撃的な右派コメンテーターとなって、なんとマイラが関わる中絶クリニックを襲撃、マイラの息子ベン(八嶋が2役)と同性パートナーのサラ(小泉が2役)が巻き込まれて…
たわいないドタバタ、笑いがたっぷり。浮気の証拠のストッキングを10年以上捨ててないとか、田舎町では半世紀たっても変わらず「ライ麦畑でつかまえて」の図書館収蔵を議論してるとか。そんな庶民の物語だからこそ、通奏低音である冷戦時代の核の恐怖、さらに時を超えて社会に横たわる「敵愾心」の恐ろしさがくっきり。マーナ、マイラそれぞれが抱える心の傷と、きっとあなたを見つけるという「夢の声」が染みる。大詰めのハラハラシーンも楽しい。
横長ステージを客席が挟む対面型で、テーマである「二面性」を象徴。ケラさんの舞台でお馴染み王下貴司、斉藤悠が終始無言、滑らかに動いて、ダンスしたり装置を出し入れしたり、シーンを立体化するのが秀逸だ。美術は東京五輪クリエイティブチームの種田陽平、ステージングは手練れの小野寺修二。
大活躍の大原がどんどんウィッグと衣装を替えて、人格、時代の変化と、実はすべてに共通しているものを体現。ちょっと少年のような存在感がいい。ラストでウィッグを脱ぎ捨て、ゆっくり客席を見渡して観客自身の不寛容を問う無言のシーンが印象的。衣装は伊藤佐智子。
14歳役!の八嶋が抜群のコメディセンスで、舞台を牽引。ラストシーン、別室で寝ているという設定で、ちゃんとカーテンコールにパジャマで出てくるのが立派です。小泉はお下劣なジム役にどうにも違和感があったけど、後半の気の良いサラは貫禄でした。
見終わって、あ、大人の男が出てこなかったな、と気づく。アメリカ社会における「男の不在」ということか、いや時代背景になっているいずれも保守派アイゼンハワー、ニクソン、パパ・ブッシュが標榜する男らしさなんて、ろくなもんじゃないということかな。
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