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だからビリーは東京で

モダンスイマーズ「だからビリーは東京で」  2022年1月

蓬莱竜太作・演出で、ベタなまでの小劇団あるあるを鮮烈に。トホホな笑いのうちに、「途中の場所」でもがく主人公の名村辰が感動を呼ぶ。演劇好きが集まった感じの東京芸術劇場シアターイースト、整理番号形式の中ほどの席で3000円。休憩無しの1時間45分。

大学生の凛太朗(名村)はミュージカル「ビリー・エリオット」に感動して、マイナー劇団の門をたたく。しかし能見(津村知与支)の戯曲は難解過ぎて鳴かず飛ばず。やがて「不要不急」の波が押し寄せ…

誰もが誰かの気持ちを、本当にはわかっていない。凛太朗が嫌うダメな父(西條義将)を母は決して見捨てておらず、劇団旗揚げメンバーの真美子(伊東沙保)と乃莉美(成田亜佑美)は、幼なじみだけどずっとすれ違っている。凛太朗も真美子も、恋人の加恵(生越千晴)、長井(古山憲太郎)の心をつかめていない。
自粛で始めたネット講師が思わぬ収入になって、現金の封筒が浮世離れした仲間を引き裂いたり、飲食店への支援がダメ父のなけなしの働く意欲を奪ったり。現実ってなんて苦いんだろう。それでも悩める能見が、痛々しさを痛々しいまま描こうとすることに一筋の希望がともる。滑稽で、挫折だらけの日常の愛おしさ。

稽古場の材木倉庫に、机と椅子を出し入れして場面を転換。稽古中の縄跳びのダイナミックさ、凛太朗が自転車で街並みの映像を疾走するシーンの乾いた躍動感が印象的だ。美術は伊達一成。
1997年生まれの名村が、へにゃ顔だけどいじらしくて楽しみ。劇団の面々、客演の成田らがコメディセンスを発揮し、西條がクズオヤジの悲哀を見事に。劇団公演を観たのは2018年以来だったんだなあ。

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落語「代脈」「お見立て」「粗忽長屋」「妾馬」

第29回COREDO落語会  2022年1月

落語ファンが集まる感じの会で、いつも通りプロデューサー山本益博さんが入り口でお出迎え。ところが開幕の挨拶で、春風亭昇太さんがコロナから復帰して間に合った一方、今朝、三遊亭兼好さんから発熱の連絡があり、春風亭一之輔さんが代打ちで2席、とのことでびっくり。まあ、悪くないけど。日本橋三井ホール、中ほどで5500円。仲入を挟み2時間半。

開口一番は益博さんリコメンドの春風亭与いち。昔はいい加減な医者がいて、何をきいても葛根湯とか、最近の「見なし陽性」と変わらない、と笑わせて「代脈」。1998生まれ、一之輔弟子の二ツ目です。When the nightと歌い出す呼吸が巧い。表情とか師匠そっくりで楽しみです。
続いてその師匠が飄々と登場。鈴本平日昼はお客が一ケタ、兼好の高い声を真似、「次女」とのツイッターのやりとりで笑わせ、昇太の人柄をからかい、兼好が木乃伊取りをネタ出ししていて、今日、圓生全集読んだけど覚えられないので、別の郭噺で、と「お見立て」。男女の化かし合いの感じがワルっぽい雰囲気にぴったり。杢兵衛の訛り(千葉ならお手のものか)をさんざん強調しておいて、終盤「なんだ、言えるんじゃないか」というあたり、いい呼吸だ。
前半ラストは本日の笑点収録から復帰したという昇太。62歳!だけど自宅療養で肌がすべすべに、自分はそそっかしくて地元静岡の仕事に前日行ってしまい、大正琴を聴く羽目に、桂米團治襲名に呼ばれたら人間国宝・米朝さんの着物を忘れててびっくり、と振って「粗忽長屋」。新作のイメージが強いけど、プロデューサーのリクエストで古典。シュールでテンポがよくて、キャラに合っている。楽しそうな長屋だなあ。

長めの仲入後は、袴に着替えて再び一之輔。今は士農工商とか教えんのかな、とか言いつつ「妾馬」。母の愛情や兄の後悔でじっくり泣かせる談春らと違い、ヤクザな八五郎の勢いが際立って、実に格好良い。門番とのやりとりからマイペース、酔っ払っての都々逸が粋です。充実してました!

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九十九龍城

ヨーロッパ企画第40回公演「九十九龍城」  2022年1月

人気劇団の2年ぶりの新作公演。コメディながら、いつになくハードかつスピーディなタッチで、見終わってみればメッセージがくっきり。かつて香港に存在した高層スラム「九龍城砦」を模した3F建ての複雑なセットと映像、舞台ならではのスケール感が楽しい。作・演出上田誠。本多劇場の中ほどで5500円。休憩無しの2時間。

違法増築を繰り返してできあがった「魔窟」にうごめく群像劇だ。社会から脱落した「看板上」の住人(石田剛太ら)とがめつい大家(客演の早織がいい迫力)、夫婦げんかが絶えないチャーシュー屋、パチモンスマホ(実は電卓)屋、兄の行方を捜すショーパブの踊り子(藤谷理子)とマフィア…。そのいかがわしく馬鹿馬鹿しい日常を、刑事ヤン(中川晴樹)とリー(客演の金丸慎太郎)が遠隔監視するところから物語が始まる。リーが独断潜入しちゃってかき回し、不思議現象から、この場の奇想天外な「真相」が明らかになっていく。

名もない人々、ゲーム世界のモブたちの、ダメだからこその逞しい闘いに思わず拍手。シビアな香港の現状にとどまらず、ミヤンマーやウクライナや、地政学だの当不当を超えて感じること、どんな存在にもバグにも命がある!
猿みたいにするする移動する郵便屋さんとか、皆さん身体能力衰えず、声も通ってさすがです。新加入の藤谷が生き生きと、ライブの活力を増す感じ。美術は長田佳代子。

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ミネオラ・ツインズ

シス・カンパニー公演 ミネオラ・ツインズ  2022年1月

2022年の初観劇は初のスパイラルホール。ポーラ・ヴォーゲルの1996年初演コメディーを、お馴染み徐賀世子訳、藤田俊太郎の洒落た演出で。
戯曲は性格真逆の双子姉妹の半世紀を通じて、保守とリベラルの抜きがたい分断を軽妙に描く。フェニミズムが基調だけど、アメリカ、そして世界の分断は一層深刻だし、家族なのにわかり合えないことの切なさは普遍的だ。南ブロック下手寄りで1万円。休憩無しの1時間半。

NY郊外のミネオラに住む高校生姉妹(大原櫻子が2役)は、一卵性双生児だけどキャラは正反対だ。始まりは50年代、優等生マーナは堅実に年上のジム(小泉今日子)と婚約中。一方のマイラはヒッピー文化にかぶれ、こともあろうにジムを誘惑、69年には過激派として銀行強盗をやらかし、マーナの14歳の息子ケニー(八嶋智人)を巻き込んじゃう。さらに時代が移って1989年、今度はマーナが攻撃的な右派コメンテーターとなって、なんとマイラが関わる中絶クリニックを襲撃、マイラの息子ベン(八嶋が2役)と同性パートナーのサラ(小泉が2役)が巻き込まれて…

たわいないドタバタ、笑いがたっぷり。浮気の証拠のストッキングを10年以上捨ててないとか、田舎町では半世紀たっても変わらず「ライ麦畑でつかまえて」の図書館収蔵を議論してるとか。そんな庶民の物語だからこそ、通奏低音である冷戦時代の核の恐怖、さらに時を超えて社会に横たわる「敵愾心」の恐ろしさがくっきり。マーナ、マイラそれぞれが抱える心の傷と、きっとあなたを見つけるという「夢の声」が染みる。大詰めのハラハラシーンも楽しい。

横長ステージを客席が挟む対面型で、テーマである「二面性」を象徴。ケラさんの舞台でお馴染み王下貴司、斉藤悠が終始無言、滑らかに動いて、ダンスしたり装置を出し入れしたり、シーンを立体化するのが秀逸だ。美術は東京五輪クリエイティブチームの種田陽平、ステージングは手練れの小野寺修二。

大活躍の大原がどんどんウィッグと衣装を替えて、人格、時代の変化と、実はすべてに共通しているものを体現。ちょっと少年のような存在感がいい。ラストでウィッグを脱ぎ捨て、ゆっくり客席を見渡して観客自身の不寛容を問う無言のシーンが印象的。衣装は伊藤佐智子。
14歳役!の八嶋が抜群のコメディセンスで、舞台を牽引。ラストシーン、別室で寝ているという設定で、ちゃんとカーテンコールにパジャマで出てくるのが立派です。小泉はお下劣なジム役にどうにも違和感があったけど、後半の気の良いサラは貫禄でした。

見終わって、あ、大人の男が出てこなかったな、と気づく。アメリカ社会における「男の不在」ということか、いや時代背景になっているいずれも保守派アイゼンハワー、ニクソン、パパ・ブッシュが標榜する男らしさなんて、ろくなもんじゃないということかな。

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ブランデンブルク協奏曲

IDホールディングスPresents ニューイヤーコンサート ブランデンブルク協奏曲全曲演奏会 2022年1月

2022年の幕開けはなんと2年も前、フローレス以来のサントリーホール。JSバッハが1721年ブランデンブルク=シュヴェート辺境伯に献呈した、10人前後の合奏シリーズです。バロックって縁が薄いけど、実はどこかで聞いたことがある、延々おっかけっこが続くメロディーが心地良い。珍しい古楽器が次々登場、楽章の間に移動したりも面白く、全く飽きなかった。大ホール中央の良い席で、休憩を挟み約2時間。

ほとんど立って演奏するのが、まず新鮮だ。ヴァイオリンとオーボエが掛け合いする第1番から、細いホルン、コルノ・ダ・カッチャに目が釘付けになる。音色は牧歌的だけど、すごーく難しそう。チビのヴィオリーノ・ピッコロやファゴットも活躍し、メヌエットに浸る。バスもヴィオローネという古楽器。続いて第4番は、素朴な縦笛のリコーダーがちょっともの悲しくて、なかなかの表現力。前半ラストは弦楽だけになって第3番。いかにもバッハという感じ。何故か避暑地の朝の雨が目に浮かぶ。第2楽章ラストにカデンツァ。
休憩を挟んで、出だしからお馴染みの第5番。横笛のフラウト・トラヴェンソが登場して、優しい音色を聞かせる。通奏低音役のチェンバロに珍しく長いソロがあって、1719年にケーテンの宮廷におねだりしたチェンバロのお披露目だったとか。これがピアノ協奏曲につながるわけだけど、こうして聴くとピアノの抑揚がいかに素晴らしいかを思いますね。続いてまた弦楽だけ、しかもヴィオラ以下、中低音メンバーだけでふくよかな第6番。今度はヴィオラ・ダ・ガンバが二人。チェロより小型で、見た目はちょっと無骨、でも音は優しい。古楽器って概して音量が小さいのかも。ラストは再び大勢でてきて、テンポの良い第2番。コルノ、オーボエ、リコーダー、ヴァイオリンのソロがつながって、空間に広がっていく。
アンコールはまさにバッハ、美しい「G線上のアリア」でした。

演奏家はゲストにヴァイオリン・ヴィオラの豊嶋泰嗣(新日本フィルのコンマス)を迎え、コルノはにこやか福川伸陽。ヴァイオリン・ヴィオラで長身の原田陽、太っちょ丸山韶、リコーダーの宇治川朝政が目立ってたかな。

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