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2021喝采づくし

マスク着用、かけ声禁止は続くものの、関係者の熱意でステージがかなり復活した2021年。素晴らしい作品に出会えました。

個人的な白眉は、思い切って長野まで遠征しちゃったOfficial髭男dismのコンサート。期待通りの王道ロックバンドらしさに、蜷川さん風に言えば「売れている」者独特の勢いが加わって、ピュアな高揚感を満喫! 私はやっぱり配信よりライブだなあ、と実感。対照的に、名曲を誠実に、余裕たっぷりに聴かせる桑田佳祐コンサートも気持ちよかった。

並んで特筆すべきは、野田秀樹「フェイクスピア」かな。仮想体験の浅薄を撃つパワー溢れるメッセージが、高橋一生の抜群の説得力、そして演劇ならではの意表を突く身体表現を伴って、ストレートに胸に迫った。演劇ではほかにも、ケラさんの不条理劇「砂の女」が、まさに観ていて息が詰まっちゃう希有な体験だったし、栗山民也「母と暮らせば」は富田靖子演じる母に、問答無用で泣いた~ 岩松了さん「いのち知らず」、上村聡史「斬られの仙太」、渡辺謙の「ピサロ」…も記憶に残る。

古典に目を転じると吉右衛門、小三治の訃報という喪失感は大きい。けれど、だからこそ、今観るべき名演がたくさん。なかでも仁左衛門・玉三郎は語り継がれる話題作「桜姫」2カ月通しの衰えを見せない色気もさることながら、「土手のお六・鬼門の喜兵衛」をたっぷり演じた直後の一転、他愛ない「神田祭」の呼吸に目を見張った。
落語は喬太郎の、トスカに先立つ圓朝作「錦の舞衣」、さん喬渾身の長講「塩原多助一代記」で、ともに語りの高みを堪能。まさかの権太楼・さん喬リレー「文七元結」がご馳走でしたね~
文楽界はめでたくも勘十郎がついに人間国宝に! 与兵衛が格好よかった「引窓」は、私としては勘十郎さん仲良しの吉右衛門ゆかりのイメージがある演目で、今となっては二重に感慨深い。玉助さんが松王丸、師直でスケールの大きさを見せつけ、ますます楽しみ。

オペラ、ミュージカルは依然として来日が少ないので、物足りなさが否めない。それでも新国立劇場のオペラ「カルメン」「マイスタージンガー」は日本人キャストも高水準、演出にも工夫があって充実してた。ミュージカル「パレード」の舞台を埋め尽くす紙吹雪も鮮烈でしたね。
2022年、引き続きいい舞台を楽しんで、心豊かに過ごしたいです!

 

海王星

海王星    2021年12月

番外編で、チケットがとれなかった「海王星」を配信で鑑賞。寺山修司最初期の未上演の音楽劇を、パルコ劇場で上演した。出航しない船上ホテルという、「ホテル・カルフォルニア」みたいな行き場のなさがまず秀逸。そして父子のコーヒー豆挽きを歌う「わが人生の時」はじめ、リズミカルなフレーズが美しく耳に残る。先日の唐十郎といい、大人のメルヘンは心地いいなあ。
妖しくきらびやかなハロウィン調の演出は、俳優座の眞鍋卓嗣。多彩な楽曲を志磨遼平が作曲し、舞台上段でバンド(ドレスコーズ)を指揮する。イープラスStreeming+で2800円。

物語はベタな悲恋。猛夫(山田裕貴)と父の婚約者・魔子(松雪泰子)が運命的な恋に落ち、海で死んだはずの父・彌平(ユースケ・サンタマリア)が帰還して激怒。猛夫を慕う那美(伊原六花)の悪意もからんで、悲劇を迎える。

主役4人を取り巻く、滑稽で哀しいホテルの群像が面白い。物語をかき回す小悪魔少女・清水くるみと、終始冷笑を浮かべて成り行きを眺めるボーイの山岸門人が、なかなかの存在感だ。客の鳥類言語学(!)教授に大谷亮介、幻みたいなブルースを唄う老婆に中尾ミエ、夫と8回死別したアンナに内田慈などなど。配信だと残念ながら、歌の味わいはわかりにくいけど、松雪さんがさすが堂々の表現力です。
弧を描く階段で左右を囲んだセットが、のぞき見の罪深さを端的に表し、照明も立体的だ。美術は「斬られの仙太」などの乗峯雅寛。

取り寄せたプログラムを読むと、戯曲の執筆は1963年で、2015年に蜷川演出で観た「青い種子は太陽のなかにある」と同じ。1935年生まれの作家は当時27歳と、1967年に横尾忠則らと「天井桟敷」を旗揚げする前。前衛とかアングラとか呼ばれる前だったのかな。1940年生まれの唐十郎が「泥人魚」の稽古場に現れたとか聞くと、1983年に47歳で夭折した作家が、もし今生きていたら何を言ったかしら、と想像せずにいられない。

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ガラスの動物園

ガラスの動物園  2021年12月

2021年の観劇納めは、テネシー・ウイリアムズの1944年初演の出世作を、ちょっと古風な小田島雄志訳で。「森 フォレ」の力業が光った上村聡史の演出は一転して、シンプル、丁寧で余白が多い。トムの岡田将生が、姉を救えなかった後悔を繊細に表現して秀逸だ。シアタークリエ、中ほど下手寄りで1万1000円。休憩を挟み2時間半。

全体はトムの追憶であり、どこかセンチメンタルだ。冒頭のモノローグが「ゲルニカ」など政治情勢と大恐慌、戦争の足音を端的に相対化する。
本編は1930年代のセントルイス、アパートの一室。南部の上流気分が抜けない母アマンダ(麻実れい)が、ひどく内気な姉ローラ(倉科カナ)をなんとか結婚させようとし、トムは同僚ジム(さいたまネクスト・シアター出身の堅山隼太)を夕食に招くが、それは残酷な一夜となり…

なに不自由ない結婚とか、詩人になるとか、まあ、思い通りにならない人生、なかでも父の不在が全編に影を落とす。なにせチェストにどんと、ポートレートが飾ってあるのだもの。身勝手な奴なのに、憎んではいない。
麻美がフリフリの黄色いドレスなどで、頑張れば頑張るほど滑稽な母を存在感たっぷりに。岡田との呼吸がよく、ときに笑いが起きる巧さ。ひとり一貫して我慢の演技の倉科が、思いのほか強靱だ。角の折れたガラスのユニコーンが「これで普通の馬になれた」というときの、なけなしの勇気。ラストに一つひとつ吹き消す蝋燭の、静かで決定的な喪失。ひとつ階段を上がった感じかも。

ともすれば息が詰まりそうな設定だけど、向かいのダンスホールから聞こえるジャズがいいアクセントに。パンフレットの小田島恒志の、父を想うエッセーが味わい深い。

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泥人魚

COCOON PRODUCTION 2021  泥人魚  2021年12月

カリスマ唐十郎の2003年初演、紀伊國屋演劇賞など受賞作を、盟友・金守珍(きむ・すじん)演出で。1997年の諫早湾干拓がモチーフだけど、プロテストというより人魚のピュアなひたむきさがメルヘンチックで、美しい舞台だ。シアターコクーン、後方下手寄りで1万1000円。休憩を挟んで2時間強。

戯曲にはないというプロローグ、ほの暗い海に残酷なギロチン堤防が落ち、水飛沫が上がる。そしてセットは都会のブリキ店へ。まだらぼけの店主で詩人・静雄(風間杜夫)を面倒みる蛍一(磯村勇斗)のところへ、しゃっぱ(シャコ)漁港の仲間しらない二郎(岡田義徳)、漁師から土建屋に転じてしまったガンさん(パギやん趙博)、工事利権にからむ月影小夜子(宝塚の愛希=まなき=れいか)とヤクザの踏屋(六平直政)…と次々に訪れ、そして「人か魚かわからない」娘やすみ(宮沢りえ)がやってくる。

漁民の対立のやり切れなさを背景に、有明海を詩う伊東静雄、人間魚雷、浦上天主堂、天草四郎のイメージを散りばめて、詩情たっぷり。なのにアングラ要素もてんこ盛りで、ヘルパー(唐の娘・大鶴美仁音)とそば屋の待子(梁山泊の度会久美子)が暴れまくったあげく、まさかの御大・風間が泥水槽へ! このカオス、弾けながら照れてる感じが魅力かも。

戯曲執筆時にイメージされていたという宮沢は、ディズニーアニメのよう。足の桜貝に水をかけるシーンで、色気よりも透明感が際立つのはこの人ならでは。ファンタジーです。売れっ子・磯村が健闘して、期待できる。「きのう何食べた?」の人なんですねえ。はっちゃける愛希の驚異的細身の美しさと、岡田の太い声、圧倒的存在感もいい。

背景に雑居ビル群や月、教会を浮かび上がらせるセットがイメージを喚起する。美術は大塚聡。そして2人は俗世を逃れ、キラキラの海へ。「真珠採り」のアリア「耳に残るは君の歌声」も効果的で、ファンタジーに浸る。こうして観ると、きっと蜷川さんも野田さん(逆鱗!)も唐さんにつながっているんだなあ…

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あーぶくたった

あーぶくたった、にいたった 2021年12月

ケラさんに続いて不条理劇を鑑賞。御大・別役実の原点といわれる1976年初演作を、71年生まれ、西沢栄治の丁寧な演出で。いやー、重かった。新国立劇場小劇場の中ほどで5940円。休憩無しの1時間45分。

古びた電信柱と郵便ポストという象徴的なセット。くたびれた万国旗の下で、男1(山森大輔)と女1(浅野令子)が婚礼の日を迎えている。運動会が終わった後の空疎な風のなか、めでたいはずの二人が語る未来は、何故かどんどん悲惨になっていく。全10場を重ねていくうち、花嫁が失踪してぽつんと草履が残されたり、夫が出社拒否になったり。謎の老夫婦(龍昇、稲川実代子)が現れ、家を失い、子供が被害者や加害者になり…と、小市民の暮らしは打ち砕かれる。終盤、老境に至る2人の上に、チラチラと雪が舞う。底なしの無常。

タイトルは小豆の吹きこぼれるさまを歌う、鬼ごっこの童歌。鬼とは人間存在そのものなのか。残酷な後味が、平凡な解釈を超越しちゃう。1年かけて試演を重ねたそうです。流れる歌謡曲が昭和の趣。

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イモンドの勝負

ナイロン100℃47th SESSION イモンドの勝負 2021年12月 

ナイロン100℃3年ぶりの新作は、お得意ナンセンスコメディだ。誰かの悪夢に迷い込んじゃったようで、その、わけのわからなさを楽しむ。ケラリーノ・サンドラヴィッチ作・演出。本多劇場の後ろの方、上手寄りで7600円。休憩を挟み3時間半と相変わらず長め。 

スズキタモツ(大倉孝二)は決して負けない男。ギャンブルに負け続ける母(峯村リエ)の愛人(赤堀雅秋)を憎み、補助金目当ての孤児院(犬山イネコと池谷のぶえ、三宅弘城)で暮らし、保険金がらみで殺されたらしい姉を思い、さらには選手が宇宙船に吸い込まれちゃったせいで、じゃんけん世界大会に出場するはめになり…。一方、緑トレンチコートの良い探偵(山内圭哉)は政府高官イシダイラから依頼を受けるが、その内容がわからず、四つの謎が書かれた本を探して、図書館やらを彷徨う。
冒頭、五輪のピクトグラム風の振付があって、勝ち負けを巡る長大な連想みたい。といっても「近々開かれる例の国際的な大会」は、集まっちゃったから闘うしかないという投げやりな代物。「生きていても仕方がない人なんか、二割かそこらしかいませんよ」とか、毒もたっぷりで、現代社会の悲惨、深い絶望が垣間見える。

格子状のセットにはゴムすだれみたいな出入り口もが仕掛けられ、お馴染みプロジェクションマッピングはますます精緻。俳優陣が出たり入ったり、複雑なフォーメーションを軽快にこなし、イメージが錯綜していく。
大河ドラマでなんと大隈重信を演じた大倉はじめ、くせ者揃いのキャストが抜群のリズム感を発揮。探偵が尾行していて、それが道行く人全員にばれているという不思議シーンとか、もう巧すぎ。スタッフもお馴染みで、美術はBOKETA、映像は上田大樹、大鹿奈穂。
変なかぶり物の動物がでてきたけど、結局イモンドが何なのかはわからずじまいでした…

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文楽「仮名手本忠臣蔵」

第218回文楽公演 国立劇場開場55周年記念  2021年12月

師走といえば「仮名手本忠臣蔵」で、入りは上々、知人も多い。二、三、四段目の刃傷、切腹のくだりに、八段目の道行を合わせた変則上演だ。満場静まりかえる緊張感が心地良い。国立劇場小劇場、前のほう中央のいい席で6500円。休憩2回を挟み3時間。

桃井館本蔵松切の段からで、朗々と小住太夫、清𠀋。下馬先進物の段に続き、おかる勘平を大胆に省略して、殿中刃傷の段は聴きやすい靖太夫、錦糸。ヒール高師直の玉助が威風堂々、一段と柄が大きいのが新鮮だ。文楽ならではの豪快な高笑いが、悪の華を鮮烈に。ともに短慮の殿様・若狭助は玉佳、判官は簑二郎、悲劇の補佐役・加古川本蔵は勘市。
休憩のあと塩谷判官切腹の段は、渾身の織太夫を燕三がサポート。粛々と儀式が進み、床は無音となる「待ち合わせ」の演出で、ピーンと空気が張り詰める。ハラハラする力弥は簑太郎、じらしまくって駆けつける由良之助は玉志。諸士はツメ人形なのに、かなり演技するのが面白い。続く城明け渡しの段は、書き割りの変化で城が遠くなっていくのがダイナミック。
短い休憩を挟んで、道行旅路の嫁入は呂勢太夫、清志郎以下5丁5枚による、東海道の地名を織り込んだ舞踊だ。いきなり物語が進んで、清十郎の戸無瀬と簑紫郎の小浪が、やむにやまれず山科へ向かうシーン。簑紫郎が可憐で、これから女形をしょってたつ人だと感じさせる。観ているほうは大変な悲劇が待ち受けるのを知っているんだけど、大詰で琵琶湖に至り、ぱあっと視界が開けるのが、古典らしくていい。コンパクトながら、堪能しました!

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三三・兼好「子ほめ」「湯屋番」「三方一両損」「館林」「富久」

特撰落語会第二部 三三・兼好二人会  2021年12月

安定感抜群のふたりが古典を2席ずつ。個性の違う、それぞれの巧さにひたる贅沢な時間でした。10月の小三治さん急逝は悲しいけれど、中堅が盛り上げてくことでしょう。初めての古めかしい東京教育会館一ツ橋ホール、下手寄り中ほどで3800円。何だかよく笑う観客だったな。10分の仲入りをはさみ2時間半。エイフル企画主催。

開口一番は三遊亭ごはんつぶで「子ほめ」。圓丈門下、天どんの弟子。25歳とは思えない落ち着きで、声も通ってた。
そして柳家三三がいつものひょこひょこ歩きで登場。兼好はまじめな会津人らしくない、などと相変わらず人を食ったマクラから「湯屋番」。流れるような運びが心地良い。「古典でサービスって言わないほうが」とか、番台のおバカなひとり芝居を熱心に見物しちゃう客とかが剽軽で、さすがの高水準。
続いて三遊亭兼好が勢いよくあがり、がらっと賑やかに。今の会津人は戊辰政争で亡くならなかった人の子孫、今年は眞子さまも日大理事長も救えなかった、一生懸命やったのは大谷の応援くらい、落語家は大谷と違ってすぐ見下しちゃうから駄目、白鳥ファンとか、などと笑わせて「三方一両損」。ポンポンと江戸っ子らしいテンポ、無茶で愛らしい左官金太郎のキャラが最高。大工熊五郎をいちいち町名から呼ぶとか。訴えをきいた大岡越前がぼそっと「こいつら面白い」とつぶやくのもいいなあ。

仲入後は兼好さんで久々の「館林」。調子に乗っちゃう素人剣術で笑わせといて、シュールな幕切れにまた呆然。相変わらず一筋縄じゃない。
最後は三三で、季節感たっぷりの「富久」。火事と富くじという禍福に翻弄される、弱い庶民を理屈抜きに生き生きと。もしかすると理不尽なコロナもこんなことかも、と思えてくる。登場人物のキャラを際立たせつつ、「三方一両損」の一節とか、聞こえてきた夕焼けチャイムまで取り入れちゃう余裕っぷりがさすが。

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