ニュルンベルクのマイスタージンガー
ニュルンベルグのマイスタージンガー 2021年11月
2019年7月の「トゥーランドット」が圧倒的スケールだった、東京文化会館との共同制作第2弾。2020年6月上演が延期、2021年8月の東京文化会館も中止の憂き目にあったプロダクションをようやく鑑賞できて、感慨ひとしお。30分の休憩2回を挟み6時間の長旅だけど、躍動感あるドタバタの中に新旧対立を鋭く描いて、だれることはない。
歌手は日本人含め高水準で、ワーグナーの呪縛をぶち壊す大胆な演出も楽しめた。大野和士指揮、東京都交響楽団が前奏曲から興奮を高めるのはワーグナーならでは。分厚い合唱は新国立劇場プラス二期会。新国立劇場オペラハウスの上手寄り前の方で2万9700円。
2017年に、なんとメータ指揮の来日公演で聴いた演目。シニカルな印象だったけど、今回は一転して明るさ、喜劇性が際立つ。
まず靴職人の親方ハンス・ザックスのトーマス・ヨハネス・マイヤー(ドイツのバリトン、ロールデビューとか)が、声も見た目も余裕たっぷりの押し出しで、エーファに対する複雑な愛情を陰影濃く表現。ちょい悪な態度や、終盤の虚しさも格好良い。突如現れた騎士ヴォルターのシュテファン・フィンケ(ドイツのテノール)は徐々に調子をあげ、無邪気に恋を語る。この2人にヒロイン、エーファの林正子(フランス在住のソプラノ)が、堂々と渡り合って素晴らしい。
権威を振りかざす恋敵ベックメッサーのアドリアン・エレート(ウィーン生まれのバリトン)と、お茶目な乳母マグダレーネの山下牧子(お馴染みのメゾ)が、見上げた喜劇役者ぶりで舞台を彩る。エレートは過剰なほどコミカル、でもどこか哀しい。徒弟ダーヴィットは4月「夜鳴きうぐいす」で光ってた伊藤達人(二期会のテノール)。輝く高音と可愛らしさを存分に発揮していて、楽しみです。端役・夜警の志村文彦(バスバリトン)が素晴らしい低音を聴かせた。
ニュルンベルク州立歌劇場総監督イェンス=ダニエル・ヘルツォークの演出は、2019年ザルツブルク・イースター音楽祭での初演し、ザクセン州立歌劇場に回ったもの。16世紀の実在のマイスターを主役とする物語を、現代の劇場(ドレスデンのゼンパーオーパーか)に置き換えた。靴工房が支配人室だったり、回り舞台でリアルにセット転換をみせたり。人生の裏表、「所詮はまがいもの」感が面白い。みなパリッとスーツなのに、2幕でリュートを抱えたベックメッサーがひとり、中世風かぼちゃズボンなのがギャグっぽい。
そして極め付け、ドイツ芸術礼賛で物議をかもしがちな幕切れを、エーファが見事に吹っ切って爽快だ。マイスターたちの写真の、見下すような表情は伏線だったのか! 次世代が駆けていく未来の明るさ。娘を賞品にしちゃう体制の身勝手や、窮屈な権威やジェンダーが崩壊し、立ち尽くすザックスの哀愁がまたいい。設定が劇場なだけに、大時代な(コロナで痛感!)オペラという芸術の再生をも予感させる。
長い休憩には屋外で軽食やスイーツを提供。頑張ってます。