さん喬「塩原多助一代記」
さん喬十八番集成特別企画~塩原多助一代記 全編通し公演~ 2021年9月
三遊亭圓朝作の立志伝、前半「ふたりの角右衛門」から後半「青の別れ」「炭屋塩原」を珍しい通しで。73歳の師匠が中入りを挟み、終演予定をなんと1時間近く押しちゃう3時間と、渾身の長講。これはひょっとすると、ちょっと事件だったかも。年配客中心にまあまあの入りの銀座ブロッサム、後ろの方で4500円。
開口一番は二ツ目の柳家さん光。「どうも避けられる、名前がサンミツだから」「権太楼の弟子、間違えてキャスティングされたかも」と振って、短く「新聞記事」。
続いてさん喬さんが登場、マクラ無しで語り始める。前半は正直、登場人物が多くて複雑なうえ、テンポがイマイチで入り込めない。でも後半、多助が江戸に出てきてからは笑いと泣きがノってきて、ラストの朝焼けが冴え冴えとスケール大きく、達成感がありました~
さん喬さんは本所生まれの江戸っ子、洒脱でなめらかな印象があるけど、今回はなにしろ全編上州訛り。今夏の高座を病気療養で休演したそうで、どうやら最近はすっかり復活したとはいえ、挑戦だったのでは。
この演目は明治11(1878)年初演、井上馨邸で明治天皇に自ら口演もしたという圓朝の代表作。明治25(1892)年には5代目菊五郎主演で歌舞伎座にかかり、のちに修身の教科書にも採用されたとか。いろんな要素がてんこ盛りで、少なくとも3回ぐらいに分けるべきかも。
特に上州・沼田を舞台にした前半は怪談調で、じっくり聞きたいところ。発端では四角四面な多助の実父・角右衛門が勘平風に、そうとは知らず元家来の右内を撃ち殺す。助けられた豪農・角右衛門がカネを用立て、幼い多助を引き取る。
多助は幸せに成長して養父をよく助けるが、右内の元妻おかめと、悪党一味にさらわれていた娘おえいが家に入り込むと、運命が暗転し、因縁めく。女2人は田舎暮らしや、真面目な多助に不満を持ち、いい仲になった侍親子と唐突にも多助殺害を計画。その多助の危機を、可愛がっていた馬の青が救う。幽霊より怖い人間の業が、圓朝らしいなあと思ってたら、びっくりのスプラッタシーンが展開! 多助は江戸へと逃げ出す。
後半は安定の人情噺に。一文無しの多助が身投げしかけるところを、通りかかった炭屋善右衛門が文七元結風に助けて、雇い入れる。伏線として、多助が道普請にやたら関心を持つシーンが可笑しい。
やっと再会した実父から、養父の家を捨てたと拒絶される大泣きシーンを乗り越え、多助は勤勉と超絶倹約、嫌みのない人柄で独立するまでに成功。私財を投じて道普請をして尊敬され、大店の娘お花に見初められちゃう。ついに実父も誤解を解いて、再び子供みたいに大泣き。大詰め婚礼の日には、かつて悪党から救った取引先が十三艘の船いっぱいに、祝いの炭俵千両を届ける。カタルシスだなあ。
多助は実在の人物で、木炭の粉を再利用した炭団の発明で知られるんですね~ いやー、ずっしりの高座でした。
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