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いのち知らず

M&Oplaysプロデュース いのち知らず  2021年10月

大好きな岩松了さん、1年ぶりの新作・演出はSFホラーっぽい設定。信頼の歪み、生きることの不確かさを描く。時系列がどうやら入れ子構造で難解だけど、俳優陣も魅力的で、独特のヒリヒリ感に浸りました! 芝居好きが集まった感じの本多劇場、中央の良い席で7500円。休憩無しの2時間強。

どこか山深い療養所にある、従業員寮のワンセット。ロク(勝地涼)とシド(仲野太賀)が警備員として住み込んでいる。2人は中学時代から仲が良く、一緒に事業をするため資金を貯めているのだ。しかしロクが療養所で怪しい実験がおこなわれていると疑いだして、関係がひずんでいく。施設を信じる選択をするか? 亡くなった同級生への思いとは?
先輩警備員モオリ(光石研)、上司・安西(岩松)とのやりとりが、えもいわれぬ緊張を増幅する。モオリは施設への疑いを口にしたけど、本気なのか、安西は誰をどこまで監視しているのか。連絡が途絶えた兄を探しにくるトンビ(「少女ミウ」などの新名=にいな=基浩)の登場に至っては、誰と誰が実在し生きている人物なのか、曖昧になっていくほど。謎解きがないまま、やがて哀しい崩壊の気配が…

勝地、仲野が期待取りの切なさを存分に。光石はコミカルななかに、凡人の必死さをみせて安定。小太りの新名は飄々と、個性をみせる。誰もいないのに、すうっと開くドアや、壁にたてかけられたスコップの存在が不穏だ。緻密だなあ。美術は中根聡子。

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パリのアメリカ人

松竹ブロードウェイシネマ「パリのアメリカ人」 2021年10月

番外編で2015年NYで観たミュージカル「An American in Paris」の映画化を鑑賞。本物のバレエダンサーならではの、重力を感じさせない流麗なダンスと、お洒落な美術が素晴らしくて、来日を心待ちにしてたけど、スクリーンでも十分楽しめた! 東劇で3000円、休憩無しの2時間。

懐かしいブロードウェイ・プロダクションによる、2018年のLDNウェストエンド公演(Dominion Theatre)を撮影したもの。NY観劇時と同じ、主人公ジェリー・マリガン役のロバート・フェアチャイルド、リズ役のリャーン・コープの2人が、ジョージ・ガーシュウィンの名曲にのって自在に歌い、踊るのが、まず感激だ。これだけのレベルのキャストは、なかなかいないかもと再認識。
ほかの主要キャストはLDN版で、恋敵アンリ・ボーレル役のハイドゥン・オークリーが堂々とミュージカルらしく、またパトロン、マイロ・ダヴェンポートのゾーイ・レイニーにすらっとして色気がある。友人のピアニスト、アダム・ホックバーグのデイヴィッド・シードン=ヤングは達者な演技派ぶり。

華麗な演出・振付はクリストファー・ウィールドン。NY観劇時の席は見切れ気味だったので、ディズニー版「アラジン」等のボブ・クローリーによるスタイリッシュな美術・衣装を、大スクリーンで存分に楽しめたのが収穫だ。舞台中央にぽつんと置いたピアノから始まり、解放を象徴する巨大なフランス国旗、プロジェクションマッピングを駆使して流れるように転換する洒落たパリの街並み、そして忘れがたい俯瞰で表現する川岸、などなど。アンリの空想で展開するキラキラ豪華ショーとか、終盤、圧巻の長尺ダンスシーンを彩る現代美術風のセットは、スケールが大きくて美しい。

さらに字幕のおかげで、ラ・ボエーム風王道ラブストーリーというだけでない、戯曲の深みも味わった(台本クレイグ・ルーカス)。アメリカ人のジェリーとアダムはパリを解放した側であり、解放された側、すなわち暮らしを蹂躙されながらレジスタンスを支援してきたアンリたちの苦衷をわかっていない。そのジェリーとアダムも、心身に従軍の傷を負っている… アダムがアンリに「リズの気持ちはわかってるんだろ」と諭すところや、マイロが身をひいてリズを励ますシーンに、しみじみ哀愁が漂う。
帰ってアマゾンプライムで、1951年の映画版「巴里のアメリカ人」(ヴィンセント・エミリ監督、ジーン・ケリー主演)を復習。映画版と比べても舞台版は、現代アメリカを意識していて深かったのね。ちょっとシニカルなマイロとアダムが、フランス気質をからかうような台詞が、客席によく受けていて、そのへんはロンドンらしかったのかな。

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さん喬「塩原多助一代記」

さん喬十八番集成特別企画~塩原多助一代記 全編通し公演~  2021年9月

三遊亭圓朝作の立志伝、前半「ふたりの角右衛門」から後半「青の別れ」「炭屋塩原」を珍しい通しで。73歳の師匠が中入りを挟み、終演予定をなんと1時間近く押しちゃう3時間と、渾身の長講。これはひょっとすると、ちょっと事件だったかも。年配客中心にまあまあの入りの銀座ブロッサム、後ろの方で4500円。

開口一番は二ツ目の柳家さん光。「どうも避けられる、名前がサンミツだから」「権太楼の弟子、間違えてキャスティングされたかも」と振って、短く「新聞記事」。
続いてさん喬さんが登場、マクラ無しで語り始める。前半は正直、登場人物が多くて複雑なうえ、テンポがイマイチで入り込めない。でも後半、多助が江戸に出てきてからは笑いと泣きがノってきて、ラストの朝焼けが冴え冴えとスケール大きく、達成感がありました~
さん喬さんは本所生まれの江戸っ子、洒脱でなめらかな印象があるけど、今回はなにしろ全編上州訛り。今夏の高座を病気療養で休演したそうで、どうやら最近はすっかり復活したとはいえ、挑戦だったのでは。

この演目は明治11(1878)年初演、井上馨邸で明治天皇に自ら口演もしたという圓朝の代表作。明治25(1892)年には5代目菊五郎主演で歌舞伎座にかかり、のちに修身の教科書にも採用されたとか。いろんな要素がてんこ盛りで、少なくとも3回ぐらいに分けるべきかも。
特に上州・沼田を舞台にした前半は怪談調で、じっくり聞きたいところ。発端では四角四面な多助の実父・角右衛門が勘平風に、そうとは知らず元家来の右内を撃ち殺す。助けられた豪農・角右衛門がカネを用立て、幼い多助を引き取る。
多助は幸せに成長して養父をよく助けるが、右内の元妻おかめと、悪党一味にさらわれていた娘おえいが家に入り込むと、運命が暗転し、因縁めく。女2人は田舎暮らしや、真面目な多助に不満を持ち、いい仲になった侍親子と唐突にも多助殺害を計画。その多助の危機を、可愛がっていた馬の青が救う。幽霊より怖い人間の業が、圓朝らしいなあと思ってたら、びっくりのスプラッタシーンが展開! 多助は江戸へと逃げ出す。

後半は安定の人情噺に。一文無しの多助が身投げしかけるところを、通りかかった炭屋善右衛門が文七元結風に助けて、雇い入れる。伏線として、多助が道普請にやたら関心を持つシーンが可笑しい。
やっと再会した実父から、養父の家を捨てたと拒絶される大泣きシーンを乗り越え、多助は勤勉と超絶倹約、嫌みのない人柄で独立するまでに成功。私財を投じて道普請をして尊敬され、大店の娘お花に見初められちゃう。ついに実父も誤解を解いて、再び子供みたいに大泣き。大詰め婚礼の日には、かつて悪党から救った取引先が十三艘の船いっぱいに、祝いの炭俵千両を届ける。カタルシスだなあ。
多助は実在の人物で、木炭の粉を再利用した炭団の発明で知られるんですね~ いやー、ずっしりの高座でした。

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Official髭男dism全国アリーナツアー

Official髭男dism全国アリーナツアー『Official髭男dism one - man tour 2021 – 2022 -Editorial-』  2021年10月

人気バンドを体感したくて、晴天の長野、多目的スポーツアリーナ「ビッグハット」まで足を運ぶ。その甲斐がある、ライブバンドの地力を実感させる完成度の高い2時間強だった。
ヒット曲満載のセトリと、それを生かす大規模かつ格好良い演出。16都市ものアリーナツアーを実現できて、本当に良かったね~と心から拍手! 3階の下手端で9020円。

オーディエンスは総じて若いけど、アリーナぎっしりの割に大人しめかな。
藤原くんが終始、突き抜けるハイトーンボイスと全力アクションで、ステージを引っ張る。その健気さを、バンドとサポートメンバーが堅実に支えて、ライブ力を発揮。ブラックっぽいリズム感と、キラキラしたポップがいいバランスだ。「みどりの雨避け」等、8月発売アルバムの佳曲をアコースティックに聞かせてからの、お約束 「Stand by you」「ブラザーズ」「Fire Ground 」の盛り上がり、そして本編ラスト、創作の苦しみを吐露した 「Lost In My Room」 が染みます。

セットがまた凄いスケールで、照明と大画面が上下左右に動いちゃう。照明はスポットとか床置きミラーボールとか、曲の内容を豊かに表現するし、大画面は映像が映ってないときは格子状に透けてびっくり。まさに羽ばたくような 「Laughter」、転調転調の 難曲「Cry Baby」 が特に劇的。プロジェクションマッピングとは別の技術と作り込みで、これだけ表現できるんだなあ。

藤原くんのちょっと訛ったMCは真面目で、自ら「選挙演説みたいって言われるけど」と不満げなのが、また愛らしい。前回、長野でのライブは3年前、まだライブハウスで、お土産に七味をもらったとか。出世したね~ ︎これからも、すくすく育っておくれ。


以下セットリストです。

1,HELLO
2,宿命
3,パラボラ
4,Shower
5,みどりの雨避け
6,Bedroom Talk
7,Laughter
8,フィラメント
9,Stand By You
10,ペンディング・マシーン
11,ブラザーズ
12,ノーダウト
13,FIRE GROUND
14,Cry Baby
15、Editorial
16、アポトーシス
17,Lost In My Room


アンコール:

18,Pretender
19, 異端なスター
20,I LOVE…

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