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友達

シス・カンパニー公演 友達   2021年9月

安部公房の1967年青年座主演作を、1993年生まれ加藤拓也の演出・上演台本で。ケラさんの「砂の女」以上に不条理感が強くて、頭がグラグラしちゃった。老若男女幅広い観客が集まった、新国立劇場小劇場のなんと最前列、やや下手寄りで1万円。休憩なしの1時間半。

平凡な青年(鈴木浩介)が一人暮らしする部屋に、ある日突然9人家族が上がり込む。青年は怒り、追い出そうとするが、警官も恋人も取り合わない。あげく「民主的多数決」で暮らしを蹂躙され、追い詰められていく。

床にドアがあって人が出入りする、時空の歪みがまず、心をざわつかせる(美術はお馴染み伊藤雅子)。延々続く、かみ合わない会話。でも、謎の9人家族が振りかざすのは、「友達の助け合い」という耳障りの良い言葉なのだ。ネットとコロナが人と人の関わりを揺るがす今、描かれる「世間」の暴力がなんともリアルで重い。特にラストがエイリアンばりに衝撃。安部公房、怖いよー。

安部公房スタジオ出身の祖母・浅野和之はじめ、キャストはよくぞ集めたと思うくらい、曲者揃いで贅沢。9人家族は父がトンデモをやらせたらピカイチの山崎一、母がキムラ緑子、息子たちが暗い林遣都、やんちゃな岩男海史、大窪人衛、娘たちが「ごめんね青春!」の富山えり子、有村架純、可愛い伊原六花。
さらに婚約者に西尾まり、管理人に飄々とした鷲尾真知子、髭の弁護士に文学座の内藤裕志。部屋の外「世間」の人々は、わかりやすくロープをひきずっている。
暗転のノイズミュージックは谷川正憲と萩谷まきお。

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ムサシ

ムサシ  2021年9月

蜷川幸雄七回忌追悼公演として、井上ひさし作、オリジナル演出蜷川幸雄の2009年初演作を、吉田鋼太郎演出で。Bunkamuraシアターコクーンの下手寄り前の方のいい席。表情が良く見えて、恨みの連鎖を断つという力強いメッセージに入り込めた。1万1000円。休憩を挟んで3時間。

冒頭、舟島の決闘場面の後、暗闇で動く竹林と寺の建屋が、後半のファンタジーを予感させる。そして6年後の鎌倉・宝蓮寺。寺開きに武蔵(藤原竜也)、沢庵(塚本幸男)、柳生宗矩(吉田)、檀那のまい(白石加代子)と乙女(鈴木杏)、平心(大石継太)が集まっていると、小次郎(溝端淳平)が乗り込んできて、果たし状をたたきつける。周囲はなんとか思いとどまらせようとするが…

再演を重ねているとあって、79歳の白石や吉田を筆頭に、手慣れた俳優陣が余裕たっぷりに笑わせ、かつ説得力を発揮。音楽・宮川彬良のタンゴにのせたダンスも軽快だ。見事なフォーメーションだなあ。
藤原が変わらず魅力的なのに加え、2010年に観たとき勝地涼が演じた小次郎役の溝端が、なかなかの切なさでよかった。小次郎の心理が焦点の戯曲だもんね。

2010年にあまり意識してなかったのは、宗矩が無類の能好きという設定で、古典芸能が重要な役割を担っている点だ。思い残しをほどく鎮魂は、芸能の原点ともいえ、日本人の精神に深く根ざす。そしてカズオ・イシグロも書いたように、和解は難しいけれど、そこを実現していかなければ未来は描けない。
剣豪や禅とかについても知識があると、もっと深みが出るんだろうな。井上ひさし、つくづく巨人です。カーテンコールでは井上、蜷川、そして8月に亡くなった辻萬長さんの遺影も一緒でした~

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松田聖子コンサート

Happy 40th Anniversary!! Seiko Matsuda Concert Tour 2020〜2021 “Singles & Very Best Songs Collection” 2021年9月

行ってきました、デビュー40周年の聖子ちゃん。思えば初めての、80年代王道アイドル体験。横アリのスタンド上の方からでも、同い年とはとても思えないテッパンの可愛さが実感できました~ 何しろショーが進むにつれ、衣装のスカートが短くなっていくという…
夫婦、家族連れや年季が入った男性ファンが混じる、横浜アリーナ下手寄りの北スタンドで9800円。あっという間の2時間強。

開幕前からアリーナ前の方で、カラフルなワンピースやハッピ、うちわの熱心なファンたちが、クラップだけのコールで盛り上げる。楽しそー。
ショーは大人っぽいダンスナンバーで幕を開けるけど、「時間の国のアリス」からは期待通りお人形のようなドレスとなり、背景いっぱいにお城、海辺、宇宙など鮮やかなCGが広がって、ディズニーの世界に。
「瑠璃色の地球」で白いドレスに替え、トークは「皆さん、ほんっとに、お元気!」と上品。んー、独特だなあ。
「ピーチシャーベット」からはバンドが前の方にでてきて、聖子ちゃんを囲むアコースティックコーナーに。渋めのアルバム曲などの後、ファンの拍手でアンコールを繰り返すわ、プラカードで掲げるリクエストにこたえるわ。「あー、はー、ハードル高いわー、参考にさせて頂きます」「私の好きな歌でいい?」とやりとりしつつ、アカペラで「愛されたいの」を歌ったり。ディナーショーのノリなのかな。

バンドが後方に戻る間に「今日はね、倖田來未さんが来て下さってるのよ」と紹介し、最前列に拍手。名曲「赤いスイトピー」ではみんなグッズのスティックを取り出す。客席に広がる赤い絨毯。
そして終盤はブルーのフリフリワンピース、キラキラの飛行機に乗っての「青い珊瑚礁」から、怒濤のヒットステージだ。輝くベタなイルミネーションをバックに「裸足の季節」でメドレーに突入。「P・R・E・S・E・N・T」は「今日誕生日」とプラカードを掲げた観客の前にきて歌っちゃう。とにかく飛び跳ねながらクルクル回るのが、キュート過ぎます。「チェリーブラッサム」「夏の扉」で本編終了。

アンコールはなんとツアーTシャツにスコートで登場! 派手なリボンキャノン、火柱の演出も。「皆さん、どうぞお元気で」「また会いましょう」と幕。
観客はマスク着用、発声禁止、ペンライト禁止のルールをよく守っていて感心。バンドやアーティストとはまた違うステージを味わいました~
以下セットリストです。

It's Style '95
It's Style
Wanna know how
時間の国のアリス ~Alice in the world of time~
渚のバルコニー
秘密の花園
ピンクのモーツァルト
瑠璃色の地球 2020

ピーチシャーベット
愛の神話
雨のリゾート
小さなラブソング
螢の草原
愛されたいの
Star
瞳はダイアモンド
続・赤いスイートピー
SWEET MEMORIES~甘い記憶~

赤いスイートピー
青い珊瑚礁 ~Blue Lagoon~
裸足の季節
風は秋色
ハートのイアリング
P・R・E・S・E・N・T
天国のキッス
チェリーブラッサム
夏の扉

アンコール:
SQUALL
40th Party
20th Party

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近松心中物語

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「近松心中物語」  2021年9月

秋元松代の代表作を、4月から芸術監督に就任した長塚圭史の演出で。元禄のどろどろ心中劇が、今回は理知的な手触り。人を押し流していく宿命というものが際立つ。年配男性も目立つKAATホール、前の方やや下手寄りのいい席で9500円。休憩無しの2時間強。

近松「冥途の飛脚」がベースで、1979年初演のニナガワ版(太地喜和子・市原悦子に森進一の演歌)が伝説となり、個人的にも2018年いのうえひでのり版(宮沢りえ・小池栄子ら)を観たので、派手めのイメージがある戯曲。これを長塚版では、あえてクールに徹してみせた。物足りない印象もぬぐえないものの、突出した俳優がいないせいもあってか、現代に通じる、ごく普通の男女の愚かさが印象的だ。

三角形で組み立てたシンプルなセットに、余白の情緒が漂う。遠ーい奥から豪奢な太夫(益山寛司)が歩いてきたり、左右に郭の明かりを並べたりのシーンは、幻想的で目を奪われる。梅川・忠兵衛のクライマックス、運命の雪のセットが上から降りてくるところは、ダイナミックで意表を突かれる。冒頭とラストにポツンと出現する街灯と遊行僧の鉦の音も、近松世界と現代をつないで効果的。美術は石原敬。

忠兵衛に50両渡しちゃう与兵衛の松田龍平がはまり役だ。のっけからボソボソしゃべりで極端に覇気が無く、蜆川のドタバタから終盤に至る顛末もホントに情けなくて、泣かせます。妻のお亀は突破もんの石橋静河。「大豆田」コンビですね。
対する忠兵衛・田中哲司と遊女梅川・笹本玲奈(元ピーターパン)コンビは、郭の枕屏風の陰から飛び出してくるあたりから最期まで、絶叫調に切迫感がみなぎる。ロミジュリみたいな恋の暴走というよりも、がんじがらめのカネと世間を熟知する、大人ゆえの破れかぶれ。
ほか意地悪な八右衛門に石倉三郎、与兵衛の姑に朝海ひかる(元宝塚)、忠兵衛義母などに綾田俊樹(東京乾電池)、郭主人に山口雅義ら。

名作戯曲を今に生かす心意気に拍手。ただスチャダラパーのラップは言葉とリズムが聴きにくかったかな。よく笑う女性客もちょっと残念。

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文楽「三番叟」「双蝶々曲輪日記(引窓)」「卅三間堂棟由来」「日高川入相花王」

第217回文楽公演 第1部・第2部  2021年9月

燕三さん紫綬褒章、そして勘十郎さんがついに人間国宝という、おめでた続きの文楽東京公演に足を運んだ。人形じゃなきゃできないアクションシーンが多く、知人にも会えて、楽しかった〜 国立劇場小劇場で1部ごと7000円。

まず第1部を、中央あたりの席で。休憩を挟み2時間半。
幕開けは大好きな「寿式三番叟」。玉助・玉佳の次世代筆頭コンビが、国立劇場55周年を祝い、コロナ退散、天下泰平を祈る。錣太夫・吉穂太夫・小住太夫ら、藤蔵・勝平・友之助らの5丁5枚がリズミカル。

休憩のあと、文楽、歌舞伎(吉右衛門&菊之助)で1回ずつ観た「双蝶々曲輪日記」。まず難波裏喧嘩の段で、相撲取りで大柄の濡髪長五郎(玉志)が恩ある若旦那・与五郎と遊女・吾妻を救おうと、侍を手にかけちゃう。素手でやっつける残酷シーンも、人形だからコミカルだ。立ち回りは御簾内のメリヤス。
続いてお馴染み八幡里引窓の段を、靖太夫・錦糸、呂太夫・清介の丁寧、聴きやすいリレーで。スカイライトからの、冴え冴えした月明かりの詩情が目に浮かぶ。そしてラスト、登場人物それぞれの板挟みが解き放たれて、清々しい。なかでも南与兵衛(なんよへえ)を勘十郎さんが格好良く遣って、拍手! 老母に勘壽、女房おはやに勘彌と堅実。

ランチをとり、1時間後に第2部を、前方中央のいい席で。休憩を挟み2時間強。
メーンは「卅三間堂棟由来(むなぎのゆらい)」。後白河法皇が寺院建立の折、髑髏と柳を供養したことで頭痛が治った、との伝承をベースにした、平太郎住家より木遣音頭の段だ。切で咲太夫・燕三が渋く聴かせ、続く奥では音楽的な呂勢太夫・清治が盛り上げる。
メーンのストーリーは柳の化身・お柳(和生)による「鶴の恩返し」なんだけど、珍しく極悪人・和田四郎(玉助)が登場するロングバージョン。東京では16年ぶりとのことで、派手なアクションが満載で面白い。和田四郎って政争に絡む人物のはずだけど、このシーンではひたすら理不尽な強盗ですね。
お柳が夫・平太郎(簑二郎)と幼子みどり丸(勘次郎)に哀しい別れを告げたところへ、「心の鬼の和田四郎」がどかどか乗り込んできて、カネ目当てに老母を酷い目に遭わせちゃう。人形じゃなきゃできません。玉助さんに勢いがあり、見栄切りまくり。「烏文字」の熊野のお札で、鳥目が治った平太郎の逆襲も派手。
ほかにもお柳のシルエットが浮かんだかと思うと壁抜けしたり、家の中に柳の葉が舞ったり、ファンタジーが満載だ。みどり丸が泣く泣く柳を引いていく、美しい木遣りで幕。

締めくくりはこちらもお馴染み、「日高川入相花王(いりあいざくら)」からコンパクトな渡し場の段を、三輪太夫・咲寿太夫ら、団七らの5丁5枚で。
愛しい安珍を追ってきた清姫(清五郎)が、蛇体に変身して川を渡る。ラスト、ぱあっと舞台が明るく、桜満開になるのに、姫が相変わらず「角出しガブ」の恐ろしい形相で終わるのが、サービス精神たっぷり。堪能しました!

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Le File 息子

Le File 息子  2021年9月

1979年パリ生まれ、フロリアン・ゼレールの戯曲を、2018年初演と同じラディスラス・ショラーが演出。じりじりする父子の葛藤を、岡本健一・圭人の親子共演で。なんとも辛い、現代家族のリアル。東京芸術劇場プレイハウスの中央やや上手寄りで8800円。休憩無しの2時間。

成功した弁護士ピエール(健一)のもとを、別れた妻アンヌ(若村麻由美)が訪れ、17歳の息子ニコラ(圭人)が不登校になり、手におえないと訴える。ピエールは若い再婚相手ソフィア(伊勢佳世)、赤ん坊と暮す自宅にニコラを受け入れ、立ち直らせようとする…
大人は3人とも、傷ついたニコラにどう接していいか迷う。時に愛情にあふれ、時にひとりよがり。そして誰も彼を救えない。ピエールが憎んだ父の猟銃が、親子という残酷さを象徴する。

相手の反応でどんどん変化していく緻密な会話を、俳優陣が達者にこなす。特にNY演劇留学帰りの圭人が、終始神経質な仕草で、自分をもてあまし病んでいく少年を描いて健闘。ストレートプレイは初なんですねえ。岩村がいくつもバッグを持ち歩いて、生活の疲れを造形。終盤、冷静な医師の浜田信也とちょっと不気味な看護師・木山廉彬が、状況を相対化する。

白い板を左右にスライドさせ、場面を転換するセットが無機質でシャープ。俳優陣の外国人ぽい仕草と相まって、テーマの重苦しさを救う。後方の窓格子など、照明のダイナミックな変化も効果的。月のように浮かぶライトは、明るい太陽だったはずの我が子の化身なのか。美術はエドゥアール・ローグ、照明は「フェイクスピア」などのチーフ・北澤真。

家族三部作の「Le Pere父」は映画化されて、アンソニー・ホプキンズの主演男優賞、ゼレール本人の脚色賞で2021年アカデミー賞を賑わせた。本作もヒュー・ジャックマン主演で撮影中とのこと。注目ですね。
立派なパンフレットは写真集のようです。客席で知人に遭遇。松岡昌宏くんの姿も。

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