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正蔵「権兵衛狸」「おせつ徳三郎」

噺小屋in池袋 葉月の独り看板 昼の部 2021年8月

断続的な雨のなか、楽しみな「正蔵ダークサイド」へ。じっくりと、いい感じの枯れ具合だ。オリパラ警戒中の東京芸術劇場シアターウエスト、前の方真ん中のいい席で、お得な3700円。中入りを挟み1時間半。

開口一番は林家はな平で、来年真打ち昇進とのめでたい報告があり、福岡市出身、名所は太宰府くらいだけど食べ物は美味しい、珍しい九州弁の噺を、と前置きして「権兵衛狸」。髪結の権兵衛が悪戯狸をつかまえ、こらしめに頭の毛を剃ると、懲りずに現れて「ひげもあたって」。適度なお国言葉と民話みたいなほのぼの感がいい。村人の酒盛り、水車小屋の思い出、「ごーんべ」という呼び声、祥月命日だから殺生はやめておく… おおらかだなあ。けっこういろんな師匠が手がけているようです。
続いて正蔵さんが、白い着物で登場。弟子の昇進を喜んでから、「おせつ徳三郎」前編の「花見小僧」。初めて聴いたけど、幕末の初代春風亭柳枝作で、圓生、志ん生、小さん、志ん朝、円楽もかけている大作なんですねえ。前編の口演は珍しいそうです。
日本橋の大店のお嬢様おせつが無茶な理由で縁談を断るので、旦那が番頭に相談すると、なんと手代の徳三郎といい仲とのこと。丁稚の定吉を呼んで、ばあやの手引きでなれ初めになったらしい、向島の花見の様子を問いただす。ここまではお馴染みの滑稽噺ですね。勘の悪い旦那と、手練れの番頭の噛み合わなさ、定吉の、子供なんだけどご褒美欲しさにしゃべっちゃう狡い感じとか、お手のもの。

中入りで着物を着替え、眼目の後編「刀屋」へ。暇を出された徳三郎、ばあやから「悪いようにはしない」と言われていたのに、おせつがどこぞの若旦那と祝言をあげると知る。カアッとなっちゃう表情の変化が見事!
ただ、今回のダークサイドはここまで、人情噺に。徳三郎が夫婦ともたたき斬ってやると、日本橋村松町の刀剣商に飛び込むと、尋常で無いと察した主人が、うまく相手をしながら事情を聞きだし、そんなことより成り上がって見返せ、と諭す。ふりかかった面倒を、なんとかおさめてやろうとする、お年寄りの懐の深さ。まあ夕飯でも一緒に、ばあさん、鮭を焼いて、というあたり、味わいあるなあ。
結局、おせつが祝言を逃げ出し、ふたりで法華(日蓮宗)の「なんみょうほうれん…」を唱えて橋から飛び込むものの、場所が木場だけに「お材木」で助かるというオチ。いい噺です。今回がネタおろしでした、との挨拶で幕。また聴きたいなあ。
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