夜への長い旅路
COCOON PRODUCTIPN2021/DISCOVER WORLD THEATRE vol.10 夜への長い旅路 2021年7月
20世紀アメリカ演劇を代表するユージン・オニールの自伝的戯曲を、2019年「罪と罰」が濃密だったフィリップ・ブリーンが演出。過去にとらわれ、終始かみ合わない一家の姿が、実にやりきれない。
特に、可愛くも崩れゆく大竹しのぶの存在感が際立ち、幕切れはもはやルチアのよう。ブリーンとのコンビを観るのは2015年「地獄のオルフェウス」以来でした。お馴染み木内宏昌の翻訳・台本。シアターコクーンの中ほど下手端で1万1500円。休憩を挟み3時間半。
1912年8月のある長い一日、北アイルランド系タイローン一家の別荘のワンセット。舞台上空を覆う謎の霧が、抑圧と孤独を思わせて効果的だ。美術・衣装のマックス・ジョーンズ、独創的だなあ。取り戻せない若き日を象徴するピアノと、幻想的な照明もいい。シーンを遮る霧笛の、なんと不穏なことか。
母メアリー(大竹)はかつて幼い息子を死なせた罪悪感にとらわれ、モルヒネ中毒に。俳優の父ジェイムズ(池田成志)はコンプレックスを抱え、必要な出費をケチる一方で土地投機にのめり込んでいる。兄ジェイミー(大倉忠義)は俳優としてぱっとせず、放蕩のすえ酒浸り。そして弟エドマンド(初舞台の杉野遙亮)は肺結核に冒され、静かに絶望している。いったい何を間違ったのか。難易度の高い台詞劇を、俳優陣がそれぞれ繊細に表現。
オニールは1916年に劇作家デビューして、20年に初のピュリッツァー賞、36年にノーベル賞を受賞。そんな成功の影で、30代に相次ぎ父母と兄を亡くした。41年に執筆した本作について「死後25年たって出版、ただし上演はしない」と言い残したのは、赤裸々過ぎる悲痛ゆえか。1953年に65歳で死去したのち、遺族が刊行を許可して56年に初演が実現、オニールに4度目のピュリッツァー賞をもたらしたとのこと。うーん、重かった。
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