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キネマの天地

人を思うちから其の参 キネマの天地  2021年6月

井上ひさしの1986年初演の傑作喜劇を、井上作品初挑戦の小川絵梨子が演出。女優陣の圧巻の演技で、笑ってジンとして、人間賛歌を満喫。大満足です。特に鈴木杏が魅力的。新国立劇場小劇場、前のほう中央のいい席で6930円。休憩を挟んで2時間半。

1935年、築地東京劇場の何もないステージのワンセット。助監督・島田(長身の章平)が準備するところへ、松竹のスター女優4人が順に到着する。可憐な小春(趣里)、コケティッシュな菊江(鈴木杏)、白塗り母物の駒子(那須佐代子)、そして大幹部かず子(高橋恵子)。ひとりずつ奥から登場するシーンの、「私をみて!」という存在感にまず目を奪われる。
大作映画の打ち合わせのはずが、小倉監督(くせ者・千葉哲也)は舞台「豚草物語」を再演すると言い出し、立ち稽古を始める。目的は昨年の上演中に起きた妻・松井チエ子殺害の犯人捜しだと。冴えない万年下積み役者・尾上竹之助(佐藤誓)を刑事役に仕立てて4人を追究するが、その真の狙いとは…

どんでん返しをたたみかける、よくできた推理劇がまず楽しい。同時に、演じる者という存在への深い愛着、憧憬を謳い上げていて、スカッとする。虚構こそが伝えうる強い思い。
女優たちはひとり残らず滑稽なほど我が儘で(付き人の数を競う)、序列にうるさくて(先輩を「○○姉さん」と呼ぶ)、すごく意地悪。楽屋では暇つぶしに、たちの悪い悪戯もいろいろ(いちばんの意地悪は亡くなった松井)。でも、スターであり続けるために、人知れず努力を重ねていて、互いの情熱を認め合い、わかり合える。台本を受け取ることがどんなに嬉しいか。

ギャグ満載の緻密な会話劇をテンポよく演出。俳優陣のキャッチボールが見事だ。また全編に映画、舞台へのオマージュがちりばめられているから、歌舞伎の大時代から新劇のリアルまで、演技の標本のようでもある。要求レベル高いです。
なかでも、はすっぱな杏ちゃんのたたずまいが、迫力があっていい。昨夏の「殺意」以降、ぐっと大人っぽくなった印象。小柄な佐藤が終盤、演じられなかった役の数々を語る長台詞には、思わず拍手。もうけ役だなあ。
女優陣の衣装、帽子もイメージを膨らませて素敵でした。

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