終わりよければすべてよし
彩の国シェイクスピア・シリーズ第37弾「終わりよければすべてよし」 2021年5月
1998年にスタートしたシェイクスピア全戯曲上演企画が、吉田鋼太郎演出でついに最終作に。薔薇咲き乱れる駅前を通って、さいたま芸術劇場大ホールへ。残念ながら席は2階下手側、B席6000円で、舞台がほとんど見えなかったんだけど、参加したことで今回はよしとする。いつもの松岡和子訳、演出助手は井上尊晶ら。休憩を挟み2時間半強。
上演回数が少ないだけあって、戯曲はなんだかなあ、という感じのドタバタだ。南仏ルシヨンの貧乏医師の娘ヘレン(石原さとみ)はフランス王(吉田)を治療した功績で、恋するバートラム伯爵(藤原竜也)との結婚を許される。王の命令に従っただけのバートラムは新妻に冷たく、さっさとフィレンツェ戦線に向かって戦功をあげ、地元の公爵の娘ダイアナ(山谷花純)に言い寄る。巡礼を装って乗り込んだヘレンは、なんとベッドトリックを仕掛け、国王の指輪も利用して、夫をぎゃふんと言わせる…
バートラムは身勝手な奴で、亡父の名声を超えたい一心なんだろうけど、貴族の家柄とはいえ今のダイアナってどうやら娼館の娘だよね?賢いヘレンが思い続けるほどの男?と思っちゃう。元は「デカメロン」の挿話なんですね。まあ、藤原竜也は相変わらず、何をしても魅力的だったけど。
脇筋の家臣バローレスの横田栄司が、期待通りの笑いでインパクト大。口先三寸の世渡りがバレて、見る影なく落ちぶれちゃう。ラストで老貴族ラフュー卿(正名僕蔵)が包容力を示し、バローレスを拾い上げるシーンにほっこり。ほかにヘレンを後押しするリヨン伯爵夫人の宮本裕子が安定し、デタラメ外国語の策略でバローレスの正体を暴くデュメイン兄弟の溝端淳平、河内大和がりりしかった。道化ラヴァッチのダンサー橋本好弘が印象的。
ニナガワ調にステージいっぱい、真っ赤な曼珠沙華が咲き乱れ、最小限の石像や窓の出し入れでシーンを転換(美術は秋山光洋)。ちょっとチープな紫の軍服やドレスは古風でした。ラストは2016年「尺には尺を」で涙した、蜷川さんの写真が掲げられて、じんとしちゃった。
個人的には、この「教養でないシェイクスピア」のシリーズに、第22作の2010年「ヘンリー六世」から参戦。8時間半一挙上演で、ずうっと上空から薔薇が降ってる蜷川マジックに、ものの見事に魅了され、番外編を含めて断続的に観てきた。駅からちょっと遠い劇場に、よく通ったなあ! 2013年「ヘンリー四世」の躍動する鋼太郎&松坂桃李、2014年「ロミオとジュリエット」のみずみずしい菅田将暉、病を押して蜷川さんが演出した2015年「ハムレット」の鬼気迫る平幹二朗…。心に残る舞台に感謝。
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