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義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー

木の下歌舞伎 義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー  2021年2月

監修・補綴木ノ下裕一、東京デスロックの多田淳之介による演出の再再演。若め、男性客も目立つシアタートラムの前の方で4500円。休憩なしの2時間強。

「昨日の敵は今日の味方」。歌舞伎・文楽でお馴染み名場面の、敵同士の共感というメッセージが強靭。米中対立のきな臭い現代の空気と相まって、ぐっとくる。前傾したステージで、繰り返される壮絶な壇ノ浦の闘いシーンでは、討たれた人々が、色とりどりの着物を脱ぎ落として去っていくのが、戦争の不毛を思わせて効果的だ。
一方、大音響のディスコミュージック、口調や衣装に散りばめた現代アレンジは滑稽さを醸す。前半、渡海屋に至る経緯もスピーディーでわかりやすい。日の丸とか清志郎「イマジン」とかは、ちょっとストレート過ぎだったかな。

渡海屋銀平・知盛の佐藤誠(青年団)が格好良く物語を引っ張り、飄々とした義経の大石将弘(ナイロン100℃)に翻弄される者の戸惑い、切なさがある。娘・安徳帝の立蔵葉子(青年団)の、幼いゆえに本質をつくセリフが印象的で、それを受ける女房・典侍局の大川潤子が達者でした。弁慶はスキンヘッドの三島景太。

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イキウメの金輪町コレクション

イキウメの金輪町コレクション 2021年2月

架空のベッドタウン「金輪町(こんりんちょう)」を舞台にしたオムニバスの3パターンのうち、「乙プログラム」を鑑賞。作・演出前川知大。お馴染みの俳優陣に文学座の松岡依都美、瀧内公美。東京芸術劇場シアターウエストの、ほぼ最前列上手寄りで6000円。休憩なしの1時間45分。
内容は仏教思想を思わせる4編。どれも体験済みなので、驚きは少なかったかな。「輪廻TM」は廃寺のホームレスが生まれ変わり体験マシーンを開発する。ゲイの男は見たのは果たして人か虫か。「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」はダークな天使2人組が、歴史の先行き(女性天皇)を優先して女の身投げを止め、魂の入れ替えで殺人をなかったことにしちゃう。おいおい。
ここまではテンポが良くて笑えるんだけど、あとの2編が実にイライラ。「許さない十字路」は名編「片鱗」の一部なんだけど、意味不明に「許さない」を繰り返す。観ている方がなんだか追い詰められちゃう。トドメは「賽の河原で踊りまくる『亡霊』 乙バージョン」。亡者たちがダンボールを積んでは壊される、ただそれだけで徒労感が深い。「考えるな」とアドバイスする、実は気のいい鬼に安井順平、反抗的な亡者に浜田信也。上手に座って大声で指示する奪衣婆の瀧内が、なかなか強靭。「共演NG」では華やかだったけど。イキウメ俳優4人が所属する吉住モータースのマネジメントなんですね。これから楽しみかも。

ホワイエには金輪町のジオラマと、どこかで見たセットのバス停。なぜかボウリング場が多い町だよね。前川さんの姿も。

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歌舞伎「於染久松色読販」「神田祭」

二月大歌舞伎  2021年2月

3部制の第三部が17世勘三郎33回忌追善だったけど、今回は第二部へ。40年来の黄金コンビ「ニザタマ」の姿の良さ、粋を堪能する。花道で頬を寄せ合う楽しげな雰囲気は、当世随一かなあ。2席ずつの間に1席空きぐらいの歌舞伎座、前の方やや上手寄りで1万5000円。休憩を挟んで2時間弱と、コンパクトながら大満足だ。

「於染久松色読販売(うきなのよみうり)」は質店・油屋の娘おそめと丁稚・久松の心中もので、早替りの「お染の七役」で知られるけど、この日は「土手のお六・鬼門の喜兵衛」と銘打ち、脇筋の悪党夫婦に焦点をあてる。陰惨だけど笑いもたっぷりで、文化文政時代、爛熟した庶民文化を描いた四世鶴屋南北の面目躍如であり、1975年「桜姫」であたりをとったニザタマの悪の美が際立つ。
序幕・柳島妙見の場は発端となる、押上・放性寺の門前を抜粋で。実直な嫁菜売・久作(中村吉之丞、吉右衛門の部屋子→先代吉之丞の芸養子)が油屋番頭・善六(片岡千次郎、上方歌舞伎塾出身)ともめて額に傷を負う。通りかかった薬種屋の旦那・清兵衛(河原崎権十郎)が止めに入り、久作に袷と膏薬代を渡す。脇の油屋太郎七・坂東彦三郎が堂々と主人らしく、宝刀の折紙を盗んだワルの千次郎と、言いくるめられて河豚を食べに行く丁稚九太の上村吉太朗(我當の部屋子)の三枚目ぶりが達者だ。
続く小梅莨屋の場が出色。セットは粗末で暗いお六の家。複雑な背景はすっ飛ばして、「馬の尻尾」姿の悪婆・お六の坂東玉三郎の退廃美、そして死骸に細工しちゃう喜兵衛・片岡仁左衛門の凄みと色気に目を奪われる。浮世絵そのものです。ストーリーも奇抜で、河豚にあたった男の早桶、久作の袷、さらに髪結(芝翫の次男・中村福之助がはきはき)の道具…を「あいよ、置いときな」と次々預かり、これが悪だくみの道具立てになっていく。
第二幕は照明が明るくなって、瓦町油屋の場。お六と喜兵衛が駕籠で死骸を持ち込み、久作は弟、昨日の傷が元で亡くなった、百両よこせと強請る。伝法でどこか投げやりな啖呵が痛快だ。居合わせた清兵衛が怪しみ、なんと死骸に灸をすえ始める。丁稚の長太(ニコニコ寺嶋眞秀)をまじえて、しのぶさんの躾がいい、手指消毒で笑わせる。そこへ死んだはずの久作が現れ、死骸も息を吹き返して九太と判明。夫婦はきまり悪げに退散、なんと駕籠をかついで花道を引っ込む。とんでもない悪党なのに、愛嬌たっぷりでバカバカしいのがいい。

休憩を挟んで「神田祭」は清元の舞踊で、江戸の華・鳶頭の遊びを芸者がなじる。他愛ない夫婦喧嘩と仲直りがチャーミング。
山王祭と並んで、祭礼の行列が江戸城内に入った天下祭だそうで、セットはスカッと広々した江戸の町並みに赤い提灯が下がり、下手後方の高台にお社とのぼりが見える。鳶頭の仁左衛門はほろ酔い加減、追っかけ五枚銀杏首抜きに、獅子文様の袴、片肌脱ぎの真っ赤な襦袢、牡丹の扇子と派手派手です。対する芸者の玉三郎は、黒紋付に波の裾模様、縁だけ赤い天紅の扇子が艷やか。
華やかな手踊り、クドキ、そして江戸の流行歌という投げ節、木遣り。威勢のいい若い衆をあしらい、二人仲良く町へ繰り出していく。浮世の憂さを忘れました!
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落語「小町」「親子酒」「擬宝珠」「ちりとてちん」「不動坊」

紀尾井らくご 小太郎の真打ち昇進を祝う会 昼の部 2021年2月

続けざまに落語。今度は柳家さん喬一門の小太郎、改め㐂三郎昇進で、めでたい会でした。
紀尾井小ホール中央で4000円。入り口で披露のパンフ(龍延寺住職が寄稿)が配られ、ご本人がチケット売り場に登場、前の方はご贔屓で埋まってました。たっぷり2時間半。ラルテ主催。

幕が開くとさん喬、喬太郎、小太郎が並んで頭を下げ、口上にはまだ早いということで親子鼎談。エレベーターに一緒に乗り込んで弟子入りを志願したとか、エピソードをいろいろと。喬太郎の「遠く(トーク)にありて」が滑ったところで、開口一番へ。
小きちが名乗りもせずに「小町」。「道灌」の前半部分なんですね。ご隠居が書画の雨乞い小町、深草少将を語り、ハチがボケる。右向いて左向いてで、どうしたことかと思ったらなんと初高座。いやー、初々しいはずです。

1席目は2ツ目の柳家やなぎが、きっちりと「親子酒」。女性の仕草あたり、ちょっと喬太郎さん似。一門ですね。
続いて喬太郎が、ようやく小きちを紹介してあげて、小太郎の妖怪好き、自分の怪獣好きには深入りせずに「擬宝珠」。世にもバカバカしい噺をテンポよく。安定の緩急自在ぶりです。
畳み掛けるようにさん喬が登場して「ちりとてちん」。お祝いにどうかと思うほど、こちらもバカバカしいんだけど、若いトリをたてる配慮かしら。こんな噺でも上品なのが、さすが。
仲入りを挟んで大神楽が登場。定番の獅子舞、傘、土瓶回しに加え、お祝いの数え歌、珍しい獅子の立ち回りで投げた扇子をくわえる芸までたっぷりと。ちょっとたどたどしい人もいたけど、まあ、めでたくていい。
トリは主役の小太郎。小柄で、勢いよく登場して、前の方に陣取ったご贔屓も一緒にピースし、「不動坊」へ。吉公が大家から、夫の講釈師不動坊を亡くしたお滝との縁談(借金付き)を勧められ、いい女だと思ってたので上機嫌。湯屋でそれを聞いた長屋の独り者連中が悔しがり、売れない噺家を雇って不動坊の幽霊に仕立て、脅かして縁談をつぶそうとする。ところがアルコールで火の玉を作るはずが「餡ころ」を買ってきたりして、ドタバタに。明るさが合ってるけど、ちょっと口調が乱暴かな。

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文楽「吉田屋」「寺子屋」

第215回文楽公演 第二部  2021年2月

3部制の東京公演で、第1部が鶴澤清治文化功労者顕彰記念(文楽初!)だったけど、今回は第2部へ。中央前寄りのいい席で6400円。3時間。

「曲輪文章(ぶんしょうは一文字)」吉田屋の段は、楽しい「餅搗き」に続いて、メーンの太夫は掛け合いで。渋い咲太夫、朗々と織太夫、藤太夫ら5枚に、燕三、ツレ燕二郎と豪華だ。藤太夫さん、力が余ってたな。
仁左衛門・玉三郎で2回、文楽でも今度が2回目の演目。この脳天気な感じが大好きだ。餅つき、太神楽という暮れの賑やかな郭風情もいいし、伊左衛門(玉男)の零落しても若旦那らしい洒脱さ、可愛さ、ド派手な夕霧(清十郎)のクドキの真情も楽しめる。吉田屋女房の蓑助さんは高齢のため、大事をとって休演で寂しかったけど。

短い休憩を挟み、打って変わって悲劇のご存知「菅原伝授手習鑑」四段目。寺入りの段に続けて、寺子屋の段。折り目正しい呂太夫・清介から、体当たりの藤太夫・清友というリレーで安定。
意外に文楽で観るのは2回目。松王丸の玉助が大熱演で、観ている方もぐっと力が入る。とにかく駕籠から出てきた瞬間の、見上げるような大きさからして圧倒的で、若々しい。「笑いましたか」、しどころの泣き落としで小さく拍手。源蔵(玉也)の苦悩、我が子を犠牲にする千代(蓑二郎)の悲嘆もきめ細かく、白装束になってのいろは送りの音楽性まで、重厚でした!

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落語「味噌豆」「華やかな憂鬱」「うどん屋」「稲川」

落語敎育委員会  2021年2月

楽しみな3人の落語会でまたまたなかのZERO小ホール、3700円。2時間弱。
いつもの注意アナがわりのコント。今回は三遊亭兼好が昇進改名という設定で、鬼の面で登場した師匠役・柳家喬太郎が散々暴れ「名前は非常事態宣言だ!三遊亭にはいい名前だ!」。なぜって「延長(圓朝)になる」というオチ。いやー、巧いな~

開口一番は三遊亭好二郎(兼好の弟子の2つ目)。九州での会で運転手をした苦労などを語ってから、節分にひっかけて「味噌豆」を爽やかに。味噌の自家製する仕込みの豆なんですね。ほくほく美味しそう。
続いて喬太郎登場。マクラの初天神への反応で「今日はマニアばっかりだよ!」と叫んだあたりから、飛ばす飛ばす。池袋の居酒屋、寄席の出待ち、AV女優さんとの記念撮影…などなどから水商売ネタで2014年に聴いた「華やかな憂鬱」(出世キャバクラ)。爆笑でした。

で、中入り後に兼好さんが喬太郎の「不適切な発言」をお詫びし、「え、これから?」と笑わせて「うどん屋」。初めて聴くけど、喬太郎さんの暴走で時間が押しちゃっているから、短縮バージョンで。屋台の鍋焼きうどん屋が酔っぱらいにからまれたりする、なんてことない噺なんだけど、冬の夜の凍てつく感じがいい。小さんの得意ネタだったんですね。いつもどおり軽妙。
そしてトリで三遊亭歌武蔵が、短く仕上げた兼好を褒め、新年の挨拶、大相撲の変則興行、北の富士さんの面白発言と通なマクラから「稲川」。これも初めて聴く人情噺。突き相撲で名をはせた横綱太刀山は「四十五日(一月半)」と言われた、むかし大坂の関取・稲川は江戸で贔屓もなく寂かったとき、乞食に蕎麦を奢られて喜んで食べた、実は乞食は魚河岸の旦那で意気に感じ、魚河岸中で贔屓になる。大正時代の力士がモデルなんですね。面白かったです!

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