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パレード

パレード  2021年1月

2019年「プラトーノフ」以来、ちょっと久々の森新太郎演出。ミュージカルだし、チラシに「冤罪」とあって、ハッピーエンドだろうと油断して足を運んだら、どうしてどうして、ずしんと重い、硬質の良作でした~ 
ポピュリズムと分断の恐怖。なぜ人は、自らの鬱屈を誰かのせいにし、攻撃せずにいられないのか。空席がもったいない東京芸術劇場プレイハウス、前の方やや上手寄りで1万5000円。休憩を挟んで約3時間。スタッフのコロナ感染による休演を乗り越えて、今みるべき舞台でした。ホリプロ主催。

1913年に南部アトランタで実際に起きた「レオ・フランク事件」を1998年、アルフレッド・ウーリー(「ドライビング・ミス・デイジー」)脚本、エジソン・ロバート・ブラウン作詞作曲、大御所ハロルド・プリンス演出でミュージカル化。日本では2017年以来の再演だ。翻訳は常田景子。
南軍戦没者追悼記念日の翌日、鉛筆工場で13歳の白人少女メアリーが、変わり果てた姿で見つかり、北部出身のユダヤ人工場長レオ(石丸幹二)が逮捕される。検事ヒュー・ドーシー(石川禅)が黒人従業員ジム・コンリー(坂元健児)、ニュート・リー(安崎求、老兵と2役)らの証言をでっち上げ、新聞社主の活動家トム・ワトソン(今井清隆)や記者グレイグ(武田真治)の扇動もあって、死刑判決に。無実を信じる妻ルシール(堀内敬子)の懸命の訴えで、スレイトン知事(岡本健一)が減刑を英断するが…

背景のタラの丘のような巨木のシルエットが、抑圧された南部の精神性、「奇妙な果実」の暗部を想起させる。さらに記念日のパレードに降り注ぐ、大量のカラフルな紙吹雪が、情報に踊らされた匿名の大衆の、熱狂と自己礼賛を強烈に印象づけて圧巻だ。まさに舞台ならではの力技。紙吹雪はずっと舞台上に降り積もっていて、雑然とした工場地下にも、明るい草地にも見えちゃう。回り舞台でパレードが暴徒に転じるのも効果的。シンプル、スタイリッシュな美術は二村周作。

あまりに乱暴な展開に思えるけど、決して昔話でないところが心底怖い。フェイクニュースや深刻な社会の分断は100年前と少しも変わらず、なによりラスト近く、減刑に怒った市民が武装して知事邸に押し寄せるシーンは、まさに議事堂襲撃の悲劇と瓜二つ。舞台いっぱいに振られる巨大な南軍旗に、息が詰まっちゃった。でも今回の選挙で、最後の最後でトリプルブルーを実現したのもまたジョージアなんだよね。

楽曲は、延々続く裁判シーンなど、ワーグナーばりにうねって胸に迫る。残酷なパレードの熱狂シーンが逆に明るい曲調だったり、陰影も濃い。バンドが舞台前方のオケピで演奏、音楽監督・指揮・ピアノは前嶋康明。
役者陣では一筋縄でいかない主人公を、石丸が達者に造形。決して英雄ではなく、イライラするほど実直。自分も差別感情をもっていて、南部に馴染めない。一方、二人の女性が示す明るさが救いだ。平凡な妻ルシールは悲劇のなかで劣等感を克服、明るく強靭に夫を支え、そして故郷南部で生きていく。セレブな知事の妻サリー(宝塚出身ですらりとした秋園美緒)は大詰めで、正義をなすよう夫の背中をドンと押す。歌唱では低音の今井、メアリーの母の未来優希(宝塚出身)が迫力だった。ほかに福井貴一、宮川浩、若手の内藤大希ら。

帰りにロビーで森さんをお見かけしました。いい仕事ぶりです! アフタートークは来場者限定の配信でした。
20210123-010

 

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