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三三「橋場の雪」「短命」「大工調べ」

柳家三三独演会「八面六臂」令和二年・冬 第二夜  2021年1月

ちょっと慣れない感じの道楽亭出張寄席は、なかのZERO小ホール、整理番号方式で中央あたりに。3600円。
前座なし、ゲストなしでいきなり三三さんが続けて2席という贅沢さ。「橋場の雪」から「短命」への流れが、艶っぽくていい。1席目は若旦那が「天狗裁き」のくすぐりを交えつつ、女房に夢の話をする。橋場の渡しに降りしきる雪景色が、季節らしくて美しい。小僧が船を漕いで、傘を差し掛けてくれた女の家へ…というので女房が怒り出す。大旦那が真似する「夢の酒」「夢の悋気」がバリエーションなのかな。
仲入りで袴に着替えて、お馴染み「大工調べ」。啖呵はもちろん流麗なんだけど、どうだ感に陥らず、やり込められる因業大家のなんか可愛いのがいい。楽しかった!

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パレード

パレード  2021年1月

2019年「プラトーノフ」以来、ちょっと久々の森新太郎演出。ミュージカルだし、チラシに「冤罪」とあって、ハッピーエンドだろうと油断して足を運んだら、どうしてどうして、ずしんと重い、硬質の良作でした~ 
ポピュリズムと分断の恐怖。なぜ人は、自らの鬱屈を誰かのせいにし、攻撃せずにいられないのか。空席がもったいない東京芸術劇場プレイハウス、前の方やや上手寄りで1万5000円。休憩を挟んで約3時間。スタッフのコロナ感染による休演を乗り越えて、今みるべき舞台でした。ホリプロ主催。

1913年に南部アトランタで実際に起きた「レオ・フランク事件」を1998年、アルフレッド・ウーリー(「ドライビング・ミス・デイジー」)脚本、エジソン・ロバート・ブラウン作詞作曲、大御所ハロルド・プリンス演出でミュージカル化。日本では2017年以来の再演だ。翻訳は常田景子。
南軍戦没者追悼記念日の翌日、鉛筆工場で13歳の白人少女メアリーが、変わり果てた姿で見つかり、北部出身のユダヤ人工場長レオ(石丸幹二)が逮捕される。検事ヒュー・ドーシー(石川禅)が黒人従業員ジム・コンリー(坂元健児)、ニュート・リー(安崎求、老兵と2役)らの証言をでっち上げ、新聞社主の活動家トム・ワトソン(今井清隆)や記者グレイグ(武田真治)の扇動もあって、死刑判決に。無実を信じる妻ルシール(堀内敬子)の懸命の訴えで、スレイトン知事(岡本健一)が減刑を英断するが…

背景のタラの丘のような巨木のシルエットが、抑圧された南部の精神性、「奇妙な果実」の暗部を想起させる。さらに記念日のパレードに降り注ぐ、大量のカラフルな紙吹雪が、情報に踊らされた匿名の大衆の、熱狂と自己礼賛を強烈に印象づけて圧巻だ。まさに舞台ならではの力技。紙吹雪はずっと舞台上に降り積もっていて、雑然とした工場地下にも、明るい草地にも見えちゃう。回り舞台でパレードが暴徒に転じるのも効果的。シンプル、スタイリッシュな美術は二村周作。

あまりに乱暴な展開に思えるけど、決して昔話でないところが心底怖い。フェイクニュースや深刻な社会の分断は100年前と少しも変わらず、なによりラスト近く、減刑に怒った市民が武装して知事邸に押し寄せるシーンは、まさに議事堂襲撃の悲劇と瓜二つ。舞台いっぱいに振られる巨大な南軍旗に、息が詰まっちゃった。でも今回の選挙で、最後の最後でトリプルブルーを実現したのもまたジョージアなんだよね。

楽曲は、延々続く裁判シーンなど、ワーグナーばりにうねって胸に迫る。残酷なパレードの熱狂シーンが逆に明るい曲調だったり、陰影も濃い。バンドが舞台前方のオケピで演奏、音楽監督・指揮・ピアノは前嶋康明。
役者陣では一筋縄でいかない主人公を、石丸が達者に造形。決して英雄ではなく、イライラするほど実直。自分も差別感情をもっていて、南部に馴染めない。一方、二人の女性が示す明るさが救いだ。平凡な妻ルシールは悲劇のなかで劣等感を克服、明るく強靭に夫を支え、そして故郷南部で生きていく。セレブな知事の妻サリー(宝塚出身ですらりとした秋園美緒)は大詰めで、正義をなすよう夫の背中をドンと押す。歌唱では低音の今井、メアリーの母の未来優希(宝塚出身)が迫力だった。ほかに福井貴一、宮川浩、若手の内藤大希ら。

帰りにロビーで森さんをお見かけしました。いい仕事ぶりです! アフタートークは来場者限定の配信でした。
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She Loves Me

WOWOW「おうちブロードウェイ」 She Loves Me 2021年1月

番外編で「松竹ブロードウェイシネマ」シリーズで上映された「シー・ラヴズ・ミー」を録画で鑑賞。メグ・ライアン&トム・ハンクス「ユー・ガット・メール」など3回も映画化されたとあって、王道ラブコメぶりが文句なく楽しい。オールドファッションな舞台セットも素敵。

1937年のハンガリー人Miklos Laszioによる戯曲をミュージカル化し、1963年にブロードウェイ初演。映像は2016年リヴァイヴァル公演のものだ。脚本ジョー・マスタロフ、作曲ジェリー・ボック、作詞シェルドン・ハーニック、演出スコット・エリス。

ブタペストの香水点で働くジョージ(ザカリー・リーヴァイ)とアマリア(ローラ・ベナンティ)はふとした切っ掛けで犬猿の仲に。しかし実は匿名の文通相手で、知的なやり取りをして惹かれ合っていた。カフェでの待ち合わせ、アイスを持参してのお見舞いと、両思いなのになかなか告白できないシーンが、じれったくも可愛い。

ベナンティがVanilla Ice Creamなどで、超絶技巧のソプラノを存分に披露。映画でも活躍しているというリーヴァイは、笑いから切なさまで表現が豊かだ。おバカな同僚のジェーン・クラコウスキーはA Trip To Libraryなどダンスもキレキレ。テレビドラマでも実績があるんですね。ほかに浮気者の同僚にギャヴィン・クリール、老店主にバイロン・ジェニングス。

談春「権助魚」「粗忽の使者」「あたま山」「妾馬」

春談春 お友達と共に 2021年1月

日替わりで実力派のゲストを迎えた、充実の5日連続公演の楽日、夜の部に足を運んだ。この日の「お友達」花緑と、トークもありの大サービス。受け継ぐ思いを語り合い、なんだか角が取れてきた感じ。緊急事態下だけど少し空席がある程度の、改装を控えた紀伊國屋ホール、中央あたりで5000円。仲入りを挟んでたっぷり3時間、贅沢でした。

開口一番は元気なこはる。久々だなと思ったら、「真打ち昇進を目指して」2020年は活動を休止していた、コロナより先に自粛していた、と笑わせて「権助魚」。権助が奥様に1円貰って、旦那の新しいお妾を探ると約束するが、旦那から2円貰って寝返り、「知人に会って、隅田川で網打ちをして遊んで、湯河原へ」と説明するため、魚屋で「網打ち魚」を買うが、これがニシンだの目刺しだの蒲鉾だの…という楽しい噺。もう入門14年目だそうで、満を持しての活動再開、よかったです。
続いて談春。仲入り前のステージは撮影OK、年末に肺炎で入院した志の輔はコロナではなく回復した、今回は「お友達」同士で「友達だった?」と話しているらしい、花緑とは喧嘩したことない、2日国立演芸場で一緒で嬉しかった…などと話して、「赤井御門守」について説明して「粗忽の使者」。相変わらずテンポが良くて爆笑です。
続いて花緑。「笑って免疫向上を」とコロナ対策をとうとうと語り始め、なんと袖から談春がマイクで止めちゃう。仕方なく、こんな時だから明るく春の噺で、と前にも聴いたシュールな「あたま山」。相変わらず人物の演じ分けがくっきりし、とぼけた感じが絶品だ。「長屋の花見」「花見の仇討ち」「愛宕山」、さらには池になって「野ざらし」、前座が演目間違っちゃうよ、と大サービス。終わって撮影用に、めくりの横でポーズとってくれました。

仲入り後は談春が出てきて、マクラ無しで「妾馬」。いきなり八五郎が大家に羽織を着せられたシーンからテンポよく。経緯を聞かされ、赤井御門守の屋敷に行く途中、老母に叱られるところで泣かされる。笑いたっぷりなんだけど、大詰めでは遊び人・八五郎の駄目加減と後悔を掘り下げていて、問答無用で泣かせる志の輔バージョン(出世せず)よりもドラマチックな印象。いいなあ。オチは1席目につなげてました。
そのまま座布団を出して花緑とトーク。談春が小さんに落語会ゲストを頼みに行って、懐に飛び込んだ、噺をじっくり教わった、談志も稽古が長く、いろいろな噺家のバージョンをみせて100年さかのぼる、前に噺をとっかえっこして談春は花緑から「唖の釣り」を教わった、一度聴いたら覚えちゃうのでびっくりした…等々。小さんが大事にしたという紀伊國屋で13年ぶりの会とあって、感慨深い感じでした。手締めで幕。

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鈴本「新版三十石」「つる」「初天神」「洒落将棋」

令和三年正月初席・吉例落語協会初顔見世特別講演「新春爆笑特別興行」第三部 2021年1月

初笑いで、けっこう入っている上野鈴本演芸場へ。人気者・ベテランの豪華メンバー、めでたい色物も楽しい。中央あたりで3500円。短い仲入りを挟み、3時間半たっぷり。

三増紋之助の干支の牛が登場する曲独楽に始まり、柳家小平太「代脈」、柳亭燕路「狸の札(狸の恩返し)」、笑組の漫才と古風なリレー。お楽しみ宝井琴調の講談「堀部安兵衛と浅野内匠頭の出会い」はなんとも豪快で格好いい。古今亭志ん橋(志ん朝門下)の「親子三人馬鹿」は与太郎家族が竿で星を落とそうとするという場面がファンタジー。ギター・ペペ桜井&リコーダー・のだゆきの「春の海」でびっくりし、桃月庵白酒は「新版三十石」がさすがの安定感。ひどい訛りの浪曲師が「石松三十石舟」を語る。志ん生「夕立勘五郎」を師匠・五街道雲助がアレンジしたそうです。白酒には熱心なファンがいますね。柳家小里ん(小さん門下)「親子酒」、粋な柳家小菊の粋曲を挟み、お待ちかね柳家権太楼が「つる」。いつもながらチャーミングだなあ。

仲入り後は太神楽社中の初春らしい寿獅子があり、春風亭一朝がお馴染み「初天神」を短めに。この噺にしては上品かな。続いて江戸家小猫が鷹だのヌーだのシマウマだの、いつものマニアな鳴き真似を朗らかに。そしていよいよ柳家喬太郎。なんと「つる」のウルトラマンジャックバージョンで大爆笑。紙切り林家正楽の見事な獅子舞やヌーを挟んで、トリは柳家三三が、都知事要請で「初天神」は禁演になっている、世の中何があるかわからない、まさか寄席でウルトラマンとは、などと笑わせて「洒落将棋」。「浮世床」の煙管と鬢付の悪戯部分で、圓生バージョンらしいです。バカバカしくも、夢中で悪戯に気づかない2人のリズムが絶妙。面白かったです!

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