幸福論
現代能楽集Ⅹ 幸福論 〜能「道成寺」「隅田川」より 2020年11月
能を同時代化するシリーズの第十弾。瀬戸山美咲、長田育恵の2本立てを瀬戸山が演出。劇評関係者が目立つシアタートラム、中段上手寄りで7500円。休憩を挟んで2時間半。
前半「道成寺」は瀬戸山作で、安珍・清姫伝説にちなむ。独立した広告マンの父(高橋和也)と高級コンサルタントの母(明星真由美)、医学生の息子(相葉裕樹)という何不自由なく見える家族が、それぞれ欺瞞と歪みを抱えており、やがて炎のなかに崩壊していく。世間体にとらわれた醜悪さがちょっとステロタイプかな。作家の瀬奈じゅんの啖呵が痛快で、地下アイドル清水くるみのダサさが愛らしい。
休憩後の後半、長田作「隅田川」は、母3人それぞれが抱える孤独と喪失感が胸に迫る秀作だ。
誠実な家裁調査官(瀬奈)は万引した少女(清水)の心を探る。耳を澄ませ、少女を悩ます水音に迫っていくさまが、印象的な照明(斎藤茂男)もあいまって緊迫感をはらむ。一方、独居の老人(鷲尾真知子)は駅前ロータリー拾った「何か」を葬ろうとし、運命の川岸で3人の運命が交錯していく。
足元おぼつかなく、ときに意識が混濁する老婆を突き動かすものを、鷲尾が切々と。対するヘルパー、明星は悪辣さが振り切れていて見事だ。一時は氣志團のマネージャーをしていて、シスカン所属の女優さんなんですねえ。
シンプルでスタイリッシュな美術は堀尾幸男。