« 2020年10月 | トップページ | 2020年12月 »

幸福論

現代能楽集Ⅹ  幸福論 〜能「道成寺」「隅田川」より  2020年11月

能を同時代化するシリーズの第十弾。瀬戸山美咲、長田育恵の2本立てを瀬戸山が演出。劇評関係者が目立つシアタートラム、中段上手寄りで7500円。休憩を挟んで2時間半。

前半「道成寺」は瀬戸山作で、安珍・清姫伝説にちなむ。独立した広告マンの父(高橋和也)と高級コンサルタントの母(明星真由美)、医学生の息子(相葉裕樹)という何不自由なく見える家族が、それぞれ欺瞞と歪みを抱えており、やがて炎のなかに崩壊していく。世間体にとらわれた醜悪さがちょっとステロタイプかな。作家の瀬奈じゅんの啖呵が痛快で、地下アイドル清水くるみのダサさが愛らしい。

休憩後の後半、長田作「隅田川」は、母3人それぞれが抱える孤独と喪失感が胸に迫る秀作だ。
誠実な家裁調査官(瀬奈)は万引した少女(清水)の心を探る。耳を澄ませ、少女を悩ます水音に迫っていくさまが、印象的な照明(斎藤茂男)もあいまって緊迫感をはらむ。一方、独居の老人(鷲尾真知子)は駅前ロータリー拾った「何か」を葬ろうとし、運命の川岸で3人の運命が交錯していく。
足元おぼつかなく、ときに意識が混濁する老婆を突き動かすものを、鷲尾が切々と。対するヘルパー、明星は悪辣さが振り切れていて見事だ。一時は氣志團のマネージャーをしていて、シスカン所属の女優さんなんですねえ。
シンプルでスタイリッシュな美術は堀尾幸男。

20201129-012 20201129-013

迷子の時間

迷子の時間ー語る室2020ー  2020年11月

PARCO劇場オープニングシリーズで前川知大作・演出の「語る室」の再演。愛する人を失うのは苦しいけれど、「思い」は必ずどこかに存在しているという「真実」が、切なくもしみじみと温かい。2015年に池袋で初演を観たものの、新鮮な気持ちで鑑賞。一列目以外、ジャニーズファンでほぼ満席のPARCO劇場、下手寄り前方のいい席で1万2000円。休憩なしの2時間。

5年前の秋分の日、山道で幼稚園送迎バスから、運転手と3歳児が忽然と失踪した。子供を思い続ける母・美和子(貫地谷しほり)、その弟で、事件の手掛かりを失い、後悔を抱える交番警官・譲(亀梨和也)、運転手に対する中傷に耐えてきた兄・宗雄(忍成修吾)は、苦悶と諍いを乗り越えて、今は一緒にバーベキューをする仲だ。そこへ売れない霊媒師・佐久間(古屋隆太)、その連れで盗癖のある謎の青年ガルシア(松岡広大)、父の悲報をきき何故かヒッチハイクで実家へ向かう大輔(浅利陽介)、その妹で遺品の免許証から父の過去を知ろうとする真知子(生越千晴)が集まってくる…

前半は美和子ら3人の辛い5年間を物語り、後半では超現実な失踪の謎が解き明かされていく。未来からやってきたとか、過去へ迷い込んだとかを知ってから、シーンの繰り返しがあって、全く違って見えるのが面白い。終盤、7人がセットを冒頭のかたちに戻しながら、無言で楽しそうに戯れるシーンが、穏やかな日常の有り難さを感じさせて印象的(初演には無かったかも)。
時空が交錯する複雑な戯曲だけど、交番のワンセットを回転させ、背後の草むらやテーブルなどを駆使してテンポよくみせていく。精緻だなあ。鍵になる「ハロ現象」の霧やライティングが美しい。美術は乗峯雅寛(「リチャード二世」など)、照明は原田保(「アジアの女」など)。

亀梨が気のいい、ごく普通の青年を好演し、達者な出演陣全員がトーンを合わせるように、抑えた演技で透明感を醸す。浅利も怪演を封印して、戸籍を持たなかった父と自らの養子の出自に対する屈託を繊細に表現。「恐るべき子供たち」で観た松岡が、キレのいい動きでやんちゃぶりを発揮していいアクセントだ。「まほろば」の生越もピュアな造形が可愛い。狂言回しの古屋は、ひとり色鮮やかなガウン姿で、いちばん色気があったかな。
20201128-022 20201128-023

 

顔見世「蜘蛛の絲宿直噺」「身替座禅」

吉例顔見世大歌舞伎 第一部 第二部 2020年11月

人間国宝・藤十郎さんの悲報もあった11月。快晴の連休に歌舞伎座へ。引き続き感染対策で1幕ものの4部制で、飲食や掛け声禁止だけど、猿之助の衰えないキレと抜群のエンタメ力を楽しむ。リーフレット配布だった筋書、そして桟敷もひとりずつだけど復活してました。一部、二部それぞれ前の方中央のいい席で8000円。

一部「蜘蛛の絲宿直噺(およづめばなし)」は顔見世らしい派手さで、40分が本当にあっという間だ。源頼光の土蜘蛛退治を題材にした変化舞踊で、「市川猿之助五变化相勤め申し候」とうたい、早変わりが理屈抜きに見事。曲芸的スピードだけでなく、变化そのもののの落差もみせるところが頭脳派らしい。常磐津連中、長唄囃子連中と、演奏も分厚く。振付・藤間藤十郎。

そもそも頼光の臥せっているのが遊郭、という設定が面白い。女郎蜘蛛だもんなあ。冒頭は坂田金時(猿弥、赤っ面と張りのある声がぴったり)、碓井貞光(中村福之助、なかなか凛々しい)、それぞれの妻で安定コンビの八重菊(笑三郎)、桐の谷(笑也)が貞光を案じている。宿直の場なのに女房がいるのも、おおらか。セリフに魔物=コロナ退散の願いを散りばめていて、拍手が起きる。江戸の人々も同じような気持ちで観たのかも。
いよいよ濃茶をもって女童(猿之助)登場。さすがに可愛らしいとはいえないけど。続いて薬を飲ませるといって小姓・澤瀉(猿之助)が寝所に迫る。番頭新造(猿之助)は色っぽく、傾城・薄雲の文を持参。逃げる折いちいち糸を繰り出して、黒衣がっコンビネーションよく回収する。太鼓持(猿之助)に至って狐忠信ばりの軽業を披露。渡辺綱の鬼退治と、廓の達引を物語る。変化はいろんなパターンがあって、このへんが今回の工夫のようです。2017年の大怪我以来という欄間抜けも!
天井からでっかい蜘蛛が現れるうちに、前方のセットがはけて頼光(隼人)の寝所に。見舞いに来た絢爛豪華な薄雲(猿之助)が、やがての本性を表し、お約束のぶっかえり&立ち回り。ラストは盛大に千筋の糸を撒き散らし、天井からも下がって派手でした!

2時間のインターバルがあり、近所でランチしてから第二部「身替座禅」を1時間。狂言の極思習(ごくおもならい)「花子」をもとに、明治43(1910)年初演され、6世菊五郎が新古演劇十種のひとつにした。
大名・右京(菊五郎)は恋人・花子に会いたくてたまらず、持仏堂で座禅をすると偽り、太郎冠者(権十郎)に座禅衾(ざぜんぶすま)を被らせ、身替りにして屋敷を抜け出す。悪計はあえなく露見し、恐い奥方・玉の井(ゴツ過ぎの左團次)が座っているとも知らず、ほろ酔いで帰った右京は、常磐津連中、長唄囃子連中の掛け合いにのった仕方話で、のろけまくっちゃうから、さあ大変。
浮気男と嫉妬妻の、バカバカしくも愛情あるやり取りは菊五郎さんらしい。自粛の影響か、ノリは今ひとつだったかな。侍女の尾上右近、米吉が期待通り美しく、仕草も綺麗で贅沢でした。
20201123-007 20201123-015 20201123-209

 

三三「浮世根問」「三軒長屋」「柳田格之進」

柳家三三プレミアム独演会「三三協奏曲2020秋」~三三の奏でに聴き入る・浸る~  2020年11月

「たっぷり長講2席、あえてオンライン配信無し」との独演会。よみうり大手町ホールの前方、上手寄りで、市松とはいえ高めの6500円。中入りを挟み2時間強。主催は産経新聞社。
開口一番は柳亭左龍の弟子の柳亭左ん坊。ひょろっと現れて「浮世根間(ねどい)」。ハつあんが隠居に昼をご馳走になろうとおしゃべりし、嫁入りや極楽について根掘り葉掘り。手堅い。

三三は「左ん坊ユニークでしょ、師匠の左龍とは同期」「週末の大手町は閑散としてる、会場は大企業、ちょっと高いのは大人の事情、巨人2連勝の垂れ幕が気になるのは広島ファンの自分だけ?」と笑わせ、三平のものという三軒並んだラーメン屋の小咄を振って「三軒長屋」。談春さんで2回聴いていて、上下に分けたりしてた。きっぷの良い女将さん、呑めば喧嘩の鳶の面々、いつもながらのヨタ、色っぽいお妾と小間使い、質屋・伊勢勘、武張った剣術道場の先生、質屋から50両せしめる痛快な鳶の頭と、大勢の人物をくっきり演じ分けるのがさすが。テンポがよくて、若いもんたちが小間使いを冷やかす、喧嘩の刃物が壁を突き破っちゃう、それはヤカンじゃない私の頭だ等々、ギャグもたっぷりで楽しい。

中入り後は出囃子(金山はる社中)の「中(ちゅう)の舞」はトリ専用、一杯で頭を下げるようにテンポを調節する、たまに合わないと可笑しい、とさりげなくライブを強調して、じっくりと「柳田格之進」。志の輔で聴いたあと、談春が自分には理解できないと言ってたのが印象的だったけど、三三は端正に、お説教ぽさを抑制してた。特に正月の湯島天神の切り通し、雪の坂で立派な身なりの格之進が番頭に声をかけるシーン、格之進の「格」が目に浮かぶようでお見事。娘おきぬを苦海に沈めず拝領の刀を売る、としてラストにつなげるパターンでした。
終演後はロビーで全員に、演目が入った直筆サイン色紙を配る大サービスでした!

20201121-019 20201121-016

正蔵「鮑のし」「紋三郎稲荷」「藁人形」

噺小屋in池袋 霜月の独り看板《夜の部》林家正蔵「藁人形」正蔵ダークサイド  2020年11月

昨年5月「双蝶々」以来の、悪い奴を語る「ダークサイド」第2弾。ディスタンスが贅沢な東京芸術劇場シアターウエスト、最前列上手寄りで3900円。中入りを挟んで2時間弱。
幕開きは3番弟子の林家はな平が「最近はうっかりマスクのまま上がっちゃう」などと言いつつ、以前聴いたことがある「鮑のし」。女房の賢さは割とあっさりめで、わらびのし、松葉のしなど薀蓄が滑らかだ。
続いて正蔵が登場。「根岸の自宅は芸人の家なので、祖父の代からお稲荷さんがあって、お祭りにはお揚げを…」と風情ある導入から、「同じ化かすでも、狸に比べ狐は怖そう、北海道で遭遇したキタキツネは尾が美しかったけど、目は悪そうだった、伯山みたい」と笑わせて「紋三郎稲荷」。初めて聴く噺だ。
笠間稲荷の門前・常陸国笠間の侍が、狐の胴服(毛皮のコート)で江戸に向かう道中、しっぽをみて駕籠かきが「お使い姫」だと騒ぎ出す。松戸の本陣に泊まると主人がお稲荷さんの熱心な信者で、調子に乗った侍はナマズ鍋や鯉こくを所望、おひねりまでせしめちゃう。王子、伏見と各地の有名稲荷に言及する楽しさ、キツネが化かすのではなく、人間がキツネに化けて悪ノリするという逆転が楽しい。侍がすたこら逃げ出すのを見て、庭のお稲荷さんの狐が「人間のほうが騙すのが上手い」という落ちが、眼目の「藁人形」のテーマにつながる仕掛けだ。

というわけで、中入り後はマクラもそこそこに、たっぷりと「藁人形」。八代目が得意とした噺だそうです。
江戸時代には糠が重宝された、と説明して本編へ。神田の糠問屋の小町・お熊は、駆け落ちのすえ千住で人気の花魁になる。老いた願人坊主の西念は、お熊に「死んだ父親に似ている。身請けされて絵草紙屋をやるので、西念を引き取りたい」と言われてその気に。「いい居ぬきの物件をみつけたのに、手付がない」と嘆かれて、隠し持った20両を用立てちゃう。ところがお熊は一転、「そんな約束していない。西念を騙せるか仲間と賭けたのだ」と突き放す。長屋にこもってしまった西念を、甥が訪ねてきて…
甥に「鍋の中を絶対に見るな」と何度も念を押す西念。落ちぶれたとはいえ、かつて出入りで人を殺めたせいで、鳶を辞めたとあって、表情に凄みがあって怖い。金だけじゃなく、人恋しさ、温かい気持ちを裏切られた絶望と孤独。騙す側より、騙された側の恨みの深さにぞっとする。一方でそこは落語、繰り返すうちに笑いも漏れるところが、黒塚とは違う。なんと鍋の中では、油で藁人形を煮ていたのだけど、その呪いを甥が解きほぐすラスト、救いがあってじんとします。糠屋だけに釘じゃ効かないと、落ちはさらり。いい噺になっていて、ひょっとして正蔵さんの代表作かも。

Dsc_0724 Dsc_0726

萬斎「清水座頭」「止動方角」

うちで笑おう 野村萬斎「狂言でござる乃座in KYOTO 15th」  2020年11月

野村萬斎主催の狂言会・京都公演(金剛能楽堂)を配信で。2500円。約1時間半。
「清水座頭(きよみずざとう)」はほのぼの。清水の観世音に参籠(おこもり)している瞽女(萬斎)が、座頭(万作)とぶつかって言い争いになるが、お互いに盲目とわかって仲直り。楽しく酒を酌み交わし、夢のお告げで夫婦になる。
ほろ酔い気分の謡に風情がある。座頭が謡うのは、狂言謡特有だという「平家」。合戦のドサクサで「踵を取って頭につけ、顎を取って踵に附けたれば」というシュールな詞章だ。瞽女の謡う「地主(じしゅ)」は、縁結びの地主神社の名物・桜のことかな。告白に使った「錦木」も登場。こういうロマンチックな狂言もあるんですね。

休憩20分で萬斎の解説を挟んで、「止動方角(しどうほうがく)」。こちらは狂言の定番、庶民が権威をやり込めて痛快だ。
太郎冠者(萬斎)は、茶も持っていないのに流行りの茶比べ(聞茶で産地などをあてる遊び)に参加したい、見栄っ張りの主人(野村太一郎)の命で、裕福な叔父(深田博治)に茶や太刀、馬まで借りに行く。ところがこの馬(飯田豪)は後ろで咳をすると暴れる癖があり、叱られた太郎冠者のいたずらで主人は落馬。代わりに太郎冠者が馬に乗ることになり、悪ノリして主人の物まねをしたから大騒ぎ…
「武悪」「鬮罪人(くじざいにん)」と並び、怖い主人を描く「三主物」だそうです。目がギョロッとした「賢徳」面の馬も面白い。「止動方角」とは馬をしずめる呪文のこと。

20201115-015 20201115-028

 

 

「俊寛」「毛谷村」「文売り」「三社祭」

11月歌舞伎公演 2020年11月

吉さま、ニザさまの2大巨頭が並ぶ、国立劇場大劇場の歌舞伎へ。席は引き続き市松だけど、レストランなどはかなり平常営業になっていた。第一部はお馴染み近松作「平家女護島 俊寛」で、円熟・吉右衛門の哲学的な演技を堪能する。中央後ろ寄りで7000円。30分の休憩を挟み2時間半。

序幕は国立劇場が1967年に復活した「六波羅清盛館の場」で、俊寛の悲劇の背景がよくわかる。吉右衛門が清盛で登場、俊寛の妻・東屋(あずまや、菊之助)に一目惚れして側室になるよう命じる。憎々しいけど大物感はばっちり。東屋は激しく拒否、教経(家六)のアドバイスで自害しちゃう。従者の有王丸(きびきび歌昇)が乱入して、教経の従者・菊王丸(声のいい種之助)とやり合う爽やかなくだりがあり、教経が止めに入って有王丸に東屋の首を託す。非情な展開なんだけどテンポがよく、「常盤御前と一緒にするな」と言い放つ菊之助に、威厳があっていい。
休憩後は眼目の二幕目「鬼界ヶ島の場」。割にさらさらと運んで、必見は幕切れ、俊寛(吉右衛門)が遠ざかる赦免の船を、ひとり絶壁の先端で見送るシーンだ。亡き勘三郎さんで観たのが2010年。去っていく船に必死で叫ぶ勘三郎に比べ、吉右衛門は虚無の表情。妻の死を知らされ、圧倒的な孤独を自ら選びとった後の姿は、静謐で、だからこそ絶望と諦念が胸に迫って衝撃的だった。瀬尾(又五郎)に斬りかかる背景に、若い夫婦のための自己犠牲というより、妻の死があるというところで、「清盛館」の上演が生きる。
プログラムの解説を読むと、戦争の苦難をへた1946年に初代吉右衛門が演じ、幕切れの演出で、若く知的な歌舞伎ファンを開拓した演目であり、今また当代の工夫をリアルに観られるのは有り難い。瀬尾をやり込める丹左衛門の、きっぱりと上品な菊之助がまたいい。仲間の成経は錦之助、康頼は吉之丞と安定。千鳥の雀右衛門は可愛いけど、ころころ過ぎか。竹本葵太夫の浄瑠璃がいつになく聴きやすかったな。

1週間後に第二部へ。素朴で明るい「彦山権現誓助剣~毛谷村(けやむら)」だ。2009年に吉右衛門の歌舞伎で、また2012年に玉男&咲太夫の文楽で観た楽しい演目。気が優しくて力持ち、剣術の達人なのに騙されやすく、人間味あふれる主人公・六助で、先月の歌舞伎座に続いて仁左衛門の絶妙な軽み、可笑しみを楽しむ。
「豊前国彦山杉坂墓所の場」がつき、六助が微塵弾正(彌十郎)の母孝行(のフリ)にほだされて八百長を約束、また孤児・弥三松(梅枝の長男・小川大晴が超立派に初お目見得!実は六助の師匠の孫)を預かる経緯を見せる。
続けて眼目の「毛屋村六助住家の場」。弾正に額を割られてもニコニコしている気のいい六助に、笑いがもれる。旅の老婆お幸(悠然と東蔵、元気でなにより。実は師匠の後室)、虚無僧に化けた怪力・お園(孝太郎、実は師匠の娘)が現れ、六助が太鼓で弥三松をあやしながら、一方で斬りかかるお園に必死で経緯を説明したり、お園が一転、女らしい恥じらいをみせつつ臼を振り回しちゃったり、面白いシーンの連続だ。優しく牧歌的で、上方言葉がぴったり。孝太郎は女武道が合ってるなあ。
杣人(そまびと=きこり)斧右衛門(ほのぼの彦三郎)が母の死を嘆くのを聞くあたり、舞台中央に陣取る仁左衛門の姿の美しさに感心! ようやく弾正に騙されたこと、また弾正こそ憎い師匠の敵だと知って、ついに怒り爆発、庭石を踏み込んじゃう。メルヘンです。ラスト、お園が景季の箙(えびら)の梅にちなんで六助に梅の枝を贈ると、お幸が張り合って椿の枝を贈るのも微笑ましかった。

休憩を挟んでコンパクトに清元の舞踊2題。古風で艶やかな「文売り」は、梅に懸想文(恋文)を結んだ縁起物を売る女(梅枝)が、逢坂山の関での身の上話に、郭の痴話喧嘩を語りきかせる。梅枝は色気はまだイマイチな感じだけど、姿も声も端正で舞台に映える。詞章は近松「嫗山姥(こもちやまうば)」の遊女・八重桐にちなんでいるそうです。
続けて映像だけ観たことがある、中村屋ゆかりの軽妙な「三社祭」。浅草の観音信仰の始まりにちなんだ漁師ふたり(ころころ21歳の鷹之資、爽やか20歳の千之助)に、頭上の黒雲から善玉・悪玉がとりつく。面をつけての難しそうな時代物風「悪尽くし」、新内がかり、曲芸風「玉尽くし」などをハツラツと。若いおふたり、これからが楽しみです!
観劇のあと、第二部は孝太郎コロナ感染で休演になりました…

20201108-005 20201108-010 20201108-011 20201108-018 20201108-02520201114-023

万作「法師ケ母」「棒縛」「茸」

万作を観る会  2020年11月

年1回の人間国宝・野村万作主催の会に足を運んだ。初見の演目が珍しくて堪能。全席使った国立能楽堂の正面、やや後ろ寄りで1万円。休憩2回で2時間弱。

幕開けに素囃子「盤渉楽(ばんしきがく)」を10分。笛、小鼓、大鼓3人だけで笛の調子が高い。
狂言はまず「法師ケ母(ほうしがはは)」30分。酔って帰った夫(野村万作)が妻(中村修一)に悪態をつき、「暇をやる」と段熨斗目(だんのしめ、ボーダーの小袖)を与えて追い出したうえ、また呑みに行く。妻は子供が可愛そうと嘆く。後半は「ものに狂うも五臓ゆえ…」と謡になり、酔いが冷めて後悔した夫が、必死に妻を探す「カケリ」へ。巡り合った妻に「見目の悪きとは只酔狂のあまりなり 誠は見目もよいものを」。しょうもない夫! ご機嫌でヨタヨタ歩く万作さん、巧いです。地謡は野村裕基、高野和憲、野村萬斎、内藤連、飯田豪。

20分の休憩後は、酔っぱらいつながりで「棒縛」30分。棒に縛られた太郎冠者(声が通り、お茶目な野村遼太)と縄で縛られた次郎冠者(石田淡朗)が、主(飯田豪)の留守に盗み酒。あの手この手で酔っぱらい、いい気分で踊りだす。帰った主の姿が盃に映っても、ご陽気で…。ライブではかなり前に中村屋兄弟の歌舞伎舞踊で観た演目だ。狂言はシンプルにキレがよくて、楽しい。後見は高野和憲。
ラストは珍しい「茸(くさびら)」20分。この辺りの者(石田幸雄)が山伏(衣装も美しい萬斎)に、屋敷内に生えたキノコを退治してほしいと頼む。山伏はもったいぶって「ボロン」などと唱えるが、色とりどりの茸(裕基、中村修一、内藤連、飯田豪、石田淡朗ら)が「ホイホイ」と増殖、橋掛かりから傘を持った鬼茸(野村太一郎)まで現れて、山伏は逃げ出しちゃう。偉そうな山伏がどんどん自信をなくす様が、権威を笑いのめす狂言の真骨頂だ。面と傘をつけ、腰を落とし、つま先で器用に舞台いっぱい走り回るキノコたちが爆笑もの。さすが体幹が強いなあ。後見は野村遼太。いろんな狂言があって面白かった。
売店で能装束の縮緬マスクを購入。終わって外へ出たら虹。

124440533_10223933553228178_381208529430 124356228_10223933555668239_429870832700 124357339_10223933554188202_367876774238 20201107-013

 

 

柳家喬太郎「松竹梅」「小言幸兵衛」

文春落語オンライン 柳家喬太郎独演会Vol.09  2020年11月


5月から開催しているというライブストリームで、喬太郎さん。十分に笑わせてくれます。1週間のアーカイブ付きで1100円。20時から中入りを含め2時間。

まず結婚式司会のバイトで、新郎新婦が空手の「板割り」をしてびっくり、というマクラから「松竹梅」。軽い滑稽噺だけど、芸達者ぶりがたっぷりで楽しい。松竹梅とめでたい名前の職人3人が、お店の婚礼に呼ばれる。隠居から余興の「なった、なった、じゃになった」「何じゃになーられた」を習う。謡の調子で、との指示だけど、浪曲風、都々逸風、ついには納豆売り風に。本番ではオチの梅が忌み言葉を連発してしまう。松竹梅が「婆さん」を連呼しちゃうとか、テンポが早くて軽妙だ。
中入りがあって、青梅あたりに日帰り旅したいなあ、と語りつつ「小言幸兵衛」。大家の幸兵衛は毎朝長屋を見回って小言を言う。空き家を借りにきた威勢のいい豆腐屋を、女房にケチをつけて追い返し、次に訪れた腰の低い仕立て屋に対しては、息子がいると聞き、斜向かいの娘と心中するに違いないと妄想。最期に唱えるのが法華じゃ様にならない、宗旨替えしろと言い出す始末…。サーベルで「マグマ大使」とか、脱線は少なめだけど、小言を言われる側の戸惑いぶりが絶妙だ。妄想の心中シーンも近松ばりで上手いなあ。
2席の後に質問コーナーがあって、まず古典と現代感覚のズレを尋ねられ、幸兵衛の違和感、演じる難しさを真面目に。ラストは療養するファンを明るく励ましてました。面白かった~

20201105-006 20201105-023

 

 

« 2020年10月 | トップページ | 2020年12月 »