あなたの目
シス・カンパニー公演 あなたの目 2020年9月
「アマデウス」のピーター・シェーファーの、なんと1962年初演の戯曲を、寺十吾の上演台本・演出で。夫婦の機微に心温まる、小粋な大人のコメディだ。俳優3人が実に達者で期待通り。新国立劇場小劇場の最前列下手寄りで6500円。休憩無しの1時間半。
一流会計士チャールズ(野間口徹)の事務所に、謎の白いコートの男(八嶋智人)が現れる。彼は妻の浮気調査を依頼した探偵ジュリアン。そこへ突然、当の若い妻ベリンダ(小林聡美)が訪ねてくる。暇を持て余してひとりロンドンを歩き回るベリンダと、尾行するジュリアンが何故か心を通わせている、とわかって、チャールズは大混乱…。
原題はThe Public Eye。権威主義の夫と、ヒッピー気質が抜けない妻の喧嘩は、当事者にとっては深刻で抜き差しならないけど、第三者の探偵から見れば互いの愛情ゆえ。夫は妻の美術などをみる感性を認めているのだから、素直になって、同じ方向を見ればいい。邦題を「あなた」として、見る側の観客を巻き込む。
チャールズの事務所のワンセット(美術は堀尾幸男)を、小柄でおせっかいな八嶋が縦横無尽に動き回って痛快だ。ポケットのマカロンをむしゃむしゃかじり、カバンからヨーグルトの瓶を取り出して平らげ、もう笑いが止まりません。才気光る小林もぴったり。18歳でウエイトレスをしていて、というには落ち着いているのは否めないけど。「第三の男」のキャロル・リードによる映画化「フォロー・ミー」(72年)では、ミア・ファローが演じたんですねえ。もちろん、野間口のコメディセンスも盤石。スノッブなはずが後半、どんどん崩れていくのが可笑しい。
冒頭でジュリアンの「正体」を明かしちゃうのは、ト書きなのか独自演出か。もしかしたらラストでもいいかな… 無性にロンドンに行きたくなる一作。
感染対策では市松模様の座席の背に、連絡先の紙を貼って申告させるスタイルでした。