殺意 ストリップショウ
殺意 ストリップショウ 2020年7月
1950年発表、三好十郎の一筋縄でいかない「詩劇」を、栗山民也が演出。膨大なセリフで、思想や知識人の欺瞞、人間の本性の滑稽さをえぐり出す物語は、コロナ禍のどうしようもない迷走と響き合って辛辣だ。
それでいて決して観念的でなく、休憩なし2時間を飽きさせない。1987年生まれの鈴木杏が一人芝居を演じきり、類まれなピュアさを発揮して圧巻。シアタートラムの上手サイド、1席おきの配置で6000円。
高級ナイトクラブのワンセットで、最後のステージを終えたダンサア美沙が、客に身の上話を語っていく。いわく2・26事件の直後、九州から上京。病床の兄が尊敬する「進歩的思想家」山田教授の家で手伝いをしながら、夜学に通い、また劇団で女優を務める。ところが日本が戦争に突入すると、教授は一転して軍国主義に迎合。美沙はなお教授を信じて軍需工場で働き、思いを寄せた教授の弟は出征、戦死してしまう。
そして戦後、ダンサア兼娼婦に身を落とした美沙は、再び左翼に転じて指導者然としている教授に遭遇し、あまりの裏切りに強い殺意を抱く。しかし懐剣を握ってつけ狙ううちに、その恥ずべき秘密を知ることになり…
三好戯曲体験は、長塚圭史演出の2011年「浮標」2013年「冒した者」に続き3回目。相変わらず長くて深いけれど、今回は杏ちゃんの個性にすっかり引き込まれた。
ずっと露出の多いステージ衣装姿で、特に後半、赤毛のかつらを投げ捨ててからは床を這いずり、暗い憎悪とエグいセリフが満載になる。それなのに色気というより健康的で、むしろ子供っぽいほど。だから人の下劣さ、愚かさを見極めて笑い飛ばすラストが、何の救いもないんだけど妙に清々しい印象を残す。普遍的な怒りと無常感。2018年「修道女たち」でも感じた才能が、一段と進化してます。ますます楽しみだなあ。
セットは後方に大きな古い鏡、前方に一人がけソファが一つ。美術はお馴染み二村周作。舞台ならではのリアルな感興に浸りました~
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