文楽「新版歌祭文」「傾城反魂香」「傾城恋飛脚」「鳴響安宅新関」
第210回文楽公演 2020年2月
2020年初の文楽東京公演はお馴染みの演目が並んだ。まず第2部を鑑賞。歌舞伎とは違った、独特の愛嬌と音楽性を楽しむ。竹本津駒太夫改め六代目錣太夫の襲名披露ということで、開演前のロビーでご本人から、プログラムにサインを頂きました。80年ぶりの名跡復活なんですねえ。国立劇場小劇場で6400円。
近松半二「新版歌祭文」野崎村の段は、端場「あいたし小助」から。床が充実で、前は朗々と聞きやすい織太夫・清治、切は渋く緻密な咲太夫・燕三。人形は前半はコミカルなドタバタで、おみつ(蓑二郎)は祝言の支度でウキウキしたかと思うと、現れたお染(清五郎)に激しく嫉妬、一方の久松(玉助)はお染が気になって養父・久作(勘壽がどっしり)にメチャクチャな灸をすえちゃう。そんな子供っぽいおみつが後半で一転、髪をおろす決断が健気だ。悲劇なのに、段切れはツレの燕二郎が入って華やかな演奏となる。この作劇が鮮やかだなあ。
休憩後は襲名披露狂言の「傾城反魂香」土佐将監閑居の段。珍しく床での口上で、呂太夫さんがまさかの「おいど」エピソードで笑わせる。新・錣さんが生真面目な雰囲気だけに可笑しい。舞台は奥で、主役の錣太夫・宗助登場し、ツレで勘太郎ちゃんが加わる。名を求める実直な又平(勘十郎)のお話は、錣さんに重なる、というチョイスかな。2012年にキング住太夫さんで聴いているだけに、ちょっと物足りない気がしたものの、終盤になって又平が突如、早口言葉をしゃべっちゃうテンポの良さ、明るさがいい。妻のおとくは清十郎、土佐将監に玉也、奥方に文昇とベテランが並び、修理之介は玉勢。
1週おいて第3部も、前のほう中央のいい席で、6400円。「傾城恋飛脚」新口村の段は、奥を手堅く呂太夫、清介で。文楽だけでも4回目の鑑賞だけど、席が良かったせいか、格子越しの邂逅が運命を感じさせる秀逸なセットで、梅川(勘彌)のかいがいしさ、父孫右衛門(玉也)の悲哀が際立つ。ラストは能をベースにした「平沙の善知鳥血の涙、長き親子の別れには」の絶唱、激しい撥、凍てつく雪、そして孫右衛門は羽織を頭からかぶっちゃう。ドラマだなあ。忠兵衛は玉佳。
休憩後はお楽しみ「鳴響安宅新関」勧進帳の段。思えば文楽では2014年、キング住太夫引退興行のときに観て以来。今回は玉助さん初役の富樫に大注目。終盤、松羽目が持ち上がって、広々した海辺の松となってからの、「富樫の晴れやかさ」が印象的だ。大詰めで義経が笠をとって挨拶して、初めて富樫は義経と確信するけど見逃す、というのが正解だけど、場面転換ですでに「義経であっても」という気持ちが感じられる気がする。
もちろん、晴れやかさはそこに至るまでの、厳しいせめぎ合いがあってこそ。弁慶は極めつけ玉男がハードワーク。左の大活躍・玉佳、足の玉路も出遣いなので、動きの激しさが如実にわかる。床は太夫7人三味線7挺であふれんばかり。弁慶の藤太夫が大熱演、富樫の織太夫が朗々と歌い上げ、藤蔵、清志郎らが受けて立つ大合奏。充実してました。
劇場の前庭は梅が盛り。いい香りでした。
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