歌舞伎「菊一座令和仇討」
令和2年初春歌舞伎公演 通し狂言 菊一座令和仇討 2020年1月
穏やかな初春は、昨年に続き底抜けに楽しい菊五郎さん一座の初日へ。江戸の爛熟を体現する南北の「幻」の「御国入蘇我中村」(文政8・1825年)をアレンジし、蘇我物に人気キャラが入り乱れる「ないまぜ」、実は実はの奇想天外、おふざけも満載で、休憩3回を挟み3時間半があっという間だ。御大・菊五郎の出番は少なめ、菊之助、松緑がメーンで、2人の振り切れっぷりと色気が素敵。知人のおかげで国立劇場大劇場「とちり」、中央のいい席で1万2800円。
10時着で20分ほど並び、枡を受け取ってロビー2階から菊五郎さんらの鏡開きを観る。菊之助さんがいったん壇を降りて、昨年末の怪我休演を詫びてました。会津末廣の振る舞い酒を頂き、開幕前からすっかりご機嫌で、大神楽や吉徳の羽子板をゆっくり見物。いいなあ。
本編では1階も掛け声が多くてうきうき。ストーリーはいちおう源頼朝の時代の執権・大江広元家の跡目争いと、お家の重宝「陰陽の判」の詮議だ。まず紅白梅が咲く瀬戸明神、頼家(松緑の息子・左近、もう中学生)と大江家嫡男(明朗な萬太郎)の御前。国立劇場では8年ぶりの両花道から家臣の笹野権三(松緑、近松世話物の槍の権三、めっぽう腕が立つ荒事キャラ)、白井権八(菊之助、南北の浮世柄比翼稲妻ですね、白塗りの美少年)が颯爽と登場し、大切な鶴を救う。2人が薄気味悪い飛石山古寺へ化け物退治に赴くと、かぶりものが登場して笑わせる。実は本当の化け物は恋する女、という趣向で、あれよあれよと互いの妹、おさい(梅枝)、八重梅(右近)と微笑ましい祝言。シチュエーションのミスマッチが南北らしいなあ。続く六浦川堤で御家横領を企む互いの養父を成敗、はからずも仇同士と斬りあうのを、男伊達の幡随院長兵衛(菊五郎)が悠然と止めに入り、重宝詮議を促す。
休憩で獅子舞を見物し、簡単にお弁当をつまんで、コミカルな福寿湯の場へ。江戸らしく芝居や寄席を宣伝する貼り紙が楽しく、のれんで五輪マークをかたどるやら、悪者・志摩五郎(安定の彦三郎)が女湯に侵入しちゃうやら、板の間稼ぎ(湯屋泥棒)やらと大騒ぎ。三日月おせん(貫禄の時蔵、南北発明の悪婆ですね)が痛快な伝法を披露し、手下・出羽長(威勢いい坂東亀蔵)と重宝を盗みだす。続く鈴ヶ森で、権八があわや処刑というところで逃走、だんまりとなり、重宝はおせんの亭主で謎の医者・寺西閑心(菊五郎)の手に渡る。
短い休憩でコーヒーを飲み、世話にくだけた下谷閑心宅の場。傷を治そうと訪れた権八を、女衒(片岡亀蔵)がこともあろうに美女と見間違え、鮮やかに遊女へと早変わりして大拍手。「三人吉三」に通じる歌舞伎ならではの倒錯ですねえ。舞台が回って三浦屋寮では、花魁小紫(権八の恋人の名)となった権八が客から重宝を取り返すものの、これが罠。閑心宅に戻って権三と再会し、同じ金毘羅権現のお守りを見せ合うところで、怒涛のご都合主義に突入する。武将に変じた閑心は、実は天下を狙う範頼(頼朝の異母弟)。2人は暗殺された重臣の遺児兄弟で、姉と判明したおせんの犠牲に辛くも救われる。
休憩後の大詰め三島宿は、時代に立ち戻り、満開の桜、赤い橋がすかっと鮮やか。2人のきびきびした立ち廻りの後、スケール大きい国崩しの範頼、幕府の大物たちが両花道から華やかに勢揃いし、お約束、戦場での再会を約して大団円となりました。ベテラン河原崎権十郎、市川團蔵らも加わって高らかに「ワンチーム」を宣言、手ぬぐい投げに桜吹雪、富士山、巨大な日の出と、大満足でした~
ロビーには菊五郎一家や三味線家元さんの姿も。
« 2019喝采づくし | トップページ | クイーン+アダム・ランバート »
「歌舞伎」カテゴリの記事
- 歌舞伎「彦山権現誓助剣」(2025.01.05)
- 浅草歌舞伎「春調娘七種」「絵本太功記」「棒しばり」(2025.01.03)
- 狐花(2024.08.16)
- 裏表太閤記(2024.07.14)
- 「松竹梅湯島掛額」「教草吉原雀」(2024.04.06)
コメント