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風の谷のナウシカ

新作歌舞伎 風の谷のナウシカ 夜の部 2019 年12月

2019年歌舞伎納めは宮崎駿原作の新作。菊之助が一昨年手掛けた「マハーバーラタ」が、友人の間で好評だったので、人気チケットにチャレンジした。SFの設定に、古典芸能の荒唐無稽さと、舞踊など独特の手法が意外にはまって、見ごたえ十分。存在自体が地球にとっては迷惑な、人間のいわば原罪を自覚し、受け入れ、不完全なまま生命を全うしようとするメッセージが、ストレートに伝わってくる。菊之助の慧眼と本気ぶりが頼もしい!
特に今回は、3日目になんと菊之助骨折というアクシデントがあり、翌日から復帰したものの、観劇した回ではジブリを象徴するはずの飛翔(宙乗り)を省くなど、急きょ演出を変更。でもナウシカの悲壮感がいやまして、物足りなさは感じなかった。新橋演舞場、正面前の方のいい席で1万7000円。休憩3回でたっぷり4時間。

原作7巻を、新作では江戸期以来かも、という昼夜通しで上演というのが、まず話題。もう35年前になる映画で、鮮烈に描いた2巻目までは、昼の部の序幕で終わってしまい、夜の部は4幕から7幕大詰まで。
設定が複雑だけど、隈取などでキャラをたたせる技法が効果的。トルメキア皇女クシャナ(凛とした七之助)、ドゥルク僧官チャルカ(錦之助)と、それぞれの屈託とモドリを描いていく忠臣蔵的構成もわかりやすかった。核戦争、温暖化、やまない紛争、人智を超えたAIと、壮大なファンタジーを吸収しちゃう歌舞伎という演劇の融通無礙に驚く。脚本コンビはジブリ映画の丹羽圭子と、新作歌舞伎を手掛ける戸部和久(戸部銀作の息子さん)、演出はG2。

ナウシカの世界観を描いた壁画の幕が開くと、おぞましい巨大な虫や毒の森が支配するディストピア。大国は互いに覇を競い、小国を巻き込んで不毛な戦闘を続けている。実は森は、人類が汚した大地を浄化する仕掛け。原発事故を経た今、この読み解きは重い。森を守っている虫と心を通わせ、人々を融和へ導こうとする少女ナウシカは、浄化後の地球と人類の運命を見極めるべく、運命の中核「墓所」へと旅する。菊之助のタイトロールは、アニメらしい健気さは乏しいものの、悩むヒロインであり、落ち着いて理知的だ。

4幕は白浪五人男風の名乗りとあらすじ解説に始まり、屋台崩しのスペクタクルへ。悠然と世界の崩壊を眺めるドゥルク皇兄ナムリス(巳之助)の虚無が、石川五右衛門ばりで実に格好いい。ナウシカが粘菌合流地点に身を投じる5幕目は、所作事となり長唄連中が登場。引き抜きや、道成寺の三連笠をメーヴェに見立てる仕掛けが面白い。相棒テトはまるっきり源九郎狐だし。
6幕目ではヴ王(貫禄の歌六)が国崩しの野心を語り、蛇踊り風の巨神兵の立ち回り。大詰の墓所では一転、マトリックスみたいな文字でいっぱいの洒落たセットで、ナウシカと墓の主の哲学的問答となり、ラストは巨神兵(尾上右近)と墓の主の精(歌昇)の闘いを、なんと勇壮な毛振りでみせて、痛快でした。
狂言回しの道化(種之助)がハキハキと語り、自己犠牲の兵士ユパ(松也)、やんちゃな王子アスベル(右近)の殺陣が格好いい。トルメキア参謀クロトワ(片岡亀蔵)は曲者ぶりがはまり役。庭の主の芝のぶは男声で新境地。子役のチククがずっと、小さい拳を握りしめているのが可愛かった。

短いだろう稽古期間で、ここまでまとまるのは菊五郎劇団の底力なのかな。難解な用語ではプロジェクションマッピングを駆使。映画でお馴染みの久石譲節は哀しげで、胡弓などの和楽器に合っていた。グッズは残念ながら売り切れが多かったです。ディレイ上演も注目されそうですね。

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