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2019喝采づくし

2019年のエンタメ総まとめ、ベストワンはなんといってもU2のTHE JOSHUA TREE TOUR! 夏のアイルランド旅行をきっかけに足を運んだんだけど、エンタメとしてすべてが高水準で、度肝を抜かれました。ごくシンプルなギターロックで、ここまで感動するとは。まだまだ知らない体験がある、と思いましたです。

オペラは新国立劇場芸術監督、大野和士の手腕が光った。東京文化会館との共同制作「トゥーランドット」はスケールが大きく、バックステージツアーまで満喫。ダブルビルの新制作「フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ」も洒落てました~ 来日の英国ロイヤルオペラ「ファウスト」はビターな演出とグリゴーロで魅せた。
ミュージカルではケリー・オハラ&渡辺謙主演、トニー賞リバイバル作品賞を得た「王様と私」が、古風ながらMETオペラでお馴染みバートレット・シャーの知的、美しい演出で、小国の苦悩が際立った。

伝統芸能は期せずして菊之助に注目。令和スタートの10連休にあたった團菊祭「め組の喧嘩」が、芸の継承と次世代の勢いを感じさせ、初夏らしい爽やかな気分。そして年末の新作「風の谷のナウシカ」は壮大なSFに荒唐無稽がはまって、歌舞伎という芸能の包容力を実感。歴史的な新作だったかも、という意味で2019ベストツーかな。ほかに舞踊「二人静」で、児太郎を見直しました。
文楽も咲太夫の人間国宝というニュースを祝いつつ、中堅の成長に注目。年末「一谷嫩軍記」で、いよいよ玉助さんが大役・直実を演じ、太夫も千歳、織、呂勢が頑張ってた。
能狂言は平成最後、満開の夜桜能という抜群のシチュエーションで人間国宝・野村萬、梅若実の至芸を堪能し、梅若能楽学院会館にもお邪魔しました。実さんは病から復活、パリ公演をこなして萬さんとともに芸術文化勲章を受章。
落語・講談は定番の喬太郎、兼好、三三、一之輔らのほか、「双蝶々」を対照的な談春、正蔵で味わった。また歌舞伎もよかった演目「め組の喧嘩」を、春陽さんで。古典はこういう「つながり」がたまりません。

演劇は不条理、ギリシャ劇等々相変わらず盛りだくさん。なかでも栗山民也演出「カリギュラ」は、難しかったけど、菅田将暉が不可解な衝動をみずみずしく演じて突出していた。相変わらず手応えある仕事ぶり。というわけでベストスリー。
先輩格では蓬莱竜太の新作「渦が森団地の眠れない子たち」で、小6役の藤原竜也が別格の存在感だった。愛されたいと願う人の弱さ、集団の息苦しさのなかにも、希望を感じさせる秀作。話題の野田秀樹「Q」は、いつにも増してイメージを飛翔させつつ、反戦のメッセージが強く心に響いて健在。松たか子が、凛として素晴らしかった。大好きな岩松了さんの「空ばかり見ていた」は、登場人物たちの、いずれも一方通行の思いが胸を締め付ける。森田剛、勝地涼が存分に色気を発揮。三谷幸喜も歌舞伎座進出などで、満足感が高かった。
再演では、ようやく観られたケラリーノ・サンドロヴィッチのお洒落で切ない「キネマの恋人」、長塚圭史のどろどろ「桜姫」が、印象は全く異なるけれど、それぞれ才気が際立ってた。

2020年は東京五輪、團十郎襲名と祝祭の年。また面白い舞台が楽しみだ!

神の子

コムレイドプロデュース「神の子」 2019年12月

観劇納めは作・演出赤堀雅秋。リアルなダメ人間たちの日常が、いつものように脱力系の笑いで描かれるんだけど、いい年したオトナの淡い恋が苦くて切ない。本多劇場の中ほど、やや下手寄りで8500円。休憩なしの2時間。

人生に何の展望もない池田(大森南朋)は、楽しみといえば警備員仲間の五十嵐(田中哲司)、土井さん(でんでん)と繰り出すパチンコぐらい。美咲(長澤まさみ)と出会って、柄にもなくゴミ拾いボランティアを始めるが、グループは怪しい新興宗教とつながっていて… 都市の孤独のよるべなさが、「美しく青く」の被災地とまた違った現代性を帯びる。

大森はだらしないキャラがはまって、「市ケ尾の坂」に続いていい感じ(個人的に、何故か当たり外れを感じる人)。クールな寅さんというべきか。長澤はコメディ味を封印し、影のあるギリギリの女を好演。涙も自然で、なかなか幅がある女優さんです。終始ヘラヘラした田中、思い込みの激しいでんでんは安定。2人と三角関係にあるスナックのママ、江口のりこが籐椅子シーンで驚かせる。キレるサラリーマン永岡佑と、同じく危ないフリーター赤堀に説得力があり、ボランティア仲間の石橋静河が見事なバレエを披露して、爽やか。珍しく田中がとちるハプニングがあったけど。

突然怒鳴りだすシーンが多いのは、閉塞感の現れなのかな。いつもながら随所に挟まる歌謡曲(青山テルマ!)と、雪が効果的。具象なんだけど削ぎ落としたセットは土岐研一。客席には秋元康さんらしき姿も。

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久保田利伸CONCERT TOUR

TOSHINOBU KUBOTA CONCERT TOUR 2019-2020 "Beautiful People"  2019年12月

大好きな久保田利伸の4年ぶり全国ツアーは、ごきげんなクリスマスイブ仕様。いきなりロビーで目に飛び込む、巨大なニューアルバムのジャケット写真(全裸!)も、会場スタッフもサンタ帽で、気分上々だ。スペシャルなアンコールまで嬉しい大サービス。
演出とかにコケオドシはなく、いつもの天才的なリズム感としなやかな声、そして人柄としか言いようのない、ショーの心地良さを満喫する。東京国際フォーラム、ホールA1Fで8900円。バックコーラス3人のソロパートを挟んで2時間半。

胸に染み入る「LIFE」などアルバム「Beautiful People」を中心に、みんな大好き定番バラードやファンキー大ヒットも加えた、安定の構成だ。MCはメンバー紹介など、いつにも増してきっちりと、落ち着いた雰囲気。57歳だもんなあ。でもジャケット写真を使った宣伝トラックのエピソードなどでは、お茶目に笑わせてくれます。
中盤でJUJUのジャズアルバムでデュエットしたスティングの名曲を、コーラスのYURIと披露してしっとり。アンコールではツリーをバックに、Nat King Coleで知られるスタンダードまで歌ってくれて、このへんも大人っぽかったな。ん~、ビュティホーピーポー!

聴衆も声を合わせて唄ったり、踊ったり、でもスローな曲では座ったり、余裕がある感じ。ステージは後方の壁と盆を動かす、シンプルで洒落たものでした。会場を出ると、丸の内はイルミネーション真っ盛り。いいクリスマスでした~
以下セットリストです。

1.Beautiful People ~Foreplay~
2.JAM fo' freedom
3.Club Happiness
4.So Beautiful
5.LIFE
6.雨音
7.Free Style
8.You Go Lady
9.Missing
10.Englishman in New York [Sting]
11.MAMA UDONGO~まぶたの中に…~
12.Make U Funky
13.2 Beatz
14.Bring me up!
15.FUN FUN CHANT
16.LOVE RAIN~恋の雨~
アンコール:
1.The Christmas Song
2.LA LA LA LOVE SONG
3.その人

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風の谷のナウシカ

新作歌舞伎 風の谷のナウシカ 夜の部 2019 年12月

2019年歌舞伎納めは宮崎駿原作の新作。菊之助が一昨年手掛けた「マハーバーラタ」が、友人の間で好評だったので、人気チケットにチャレンジした。SFの設定に、古典芸能の荒唐無稽さと、舞踊など独特の手法が意外にはまって、見ごたえ十分。存在自体が地球にとっては迷惑な、人間のいわば原罪を自覚し、受け入れ、不完全なまま生命を全うしようとするメッセージが、ストレートに伝わってくる。菊之助の慧眼と本気ぶりが頼もしい!
特に今回は、3日目になんと菊之助骨折というアクシデントがあり、翌日から復帰したものの、観劇した回ではジブリを象徴するはずの飛翔(宙乗り)を省くなど、急きょ演出を変更。でもナウシカの悲壮感がいやまして、物足りなさは感じなかった。新橋演舞場、正面前の方のいい席で1万7000円。休憩3回でたっぷり4時間。

原作7巻を、新作では江戸期以来かも、という昼夜通しで上演というのが、まず話題。もう35年前になる映画で、鮮烈に描いた2巻目までは、昼の部の序幕で終わってしまい、夜の部は4幕から7幕大詰まで。
設定が複雑だけど、隈取などでキャラをたたせる技法が効果的。トルメキア皇女クシャナ(凛とした七之助)、ドゥルク僧官チャルカ(錦之助)と、それぞれの屈託とモドリを描いていく忠臣蔵的構成もわかりやすかった。核戦争、温暖化、やまない紛争、人智を超えたAIと、壮大なファンタジーを吸収しちゃう歌舞伎という演劇の融通無礙に驚く。脚本コンビはジブリ映画の丹羽圭子と、新作歌舞伎を手掛ける戸部和久(戸部銀作の息子さん)、演出はG2。

ナウシカの世界観を描いた壁画の幕が開くと、おぞましい巨大な虫や毒の森が支配するディストピア。大国は互いに覇を競い、小国を巻き込んで不毛な戦闘を続けている。実は森は、人類が汚した大地を浄化する仕掛け。原発事故を経た今、この読み解きは重い。森を守っている虫と心を通わせ、人々を融和へ導こうとする少女ナウシカは、浄化後の地球と人類の運命を見極めるべく、運命の中核「墓所」へと旅する。菊之助のタイトロールは、アニメらしい健気さは乏しいものの、悩むヒロインであり、落ち着いて理知的だ。

4幕は白浪五人男風の名乗りとあらすじ解説に始まり、屋台崩しのスペクタクルへ。悠然と世界の崩壊を眺めるドゥルク皇兄ナムリス(巳之助)の虚無が、石川五右衛門ばりで実に格好いい。ナウシカが粘菌合流地点に身を投じる5幕目は、所作事となり長唄連中が登場。引き抜きや、道成寺の三連笠をメーヴェに見立てる仕掛けが面白い。相棒テトはまるっきり源九郎狐だし。
6幕目ではヴ王(貫禄の歌六)が国崩しの野心を語り、蛇踊り風の巨神兵の立ち回り。大詰の墓所では一転、マトリックスみたいな文字でいっぱいの洒落たセットで、ナウシカと墓の主の哲学的問答となり、ラストは巨神兵(尾上右近)と墓の主の精(歌昇)の闘いを、なんと勇壮な毛振りでみせて、痛快でした。
狂言回しの道化(種之助)がハキハキと語り、自己犠牲の兵士ユパ(松也)、やんちゃな王子アスベル(右近)の殺陣が格好いい。トルメキア参謀クロトワ(片岡亀蔵)は曲者ぶりがはまり役。庭の主の芝のぶは男声で新境地。子役のチククがずっと、小さい拳を握りしめているのが可愛かった。

短いだろう稽古期間で、ここまでまとまるのは菊五郎劇団の底力なのかな。難解な用語ではプロジェクションマッピングを駆使。映画でお馴染みの久石譲節は哀しげで、胡弓などの和楽器に合っていた。グッズは残念ながら売り切れが多かったです。ディレイ上演も注目されそうですね。

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タージマハルの衛兵

シリーズことぜんvol3  タージマハルの衛兵   2019 年12月

令和元年も年末にきて、重い舞台を観てしまった。オハイオ出身のインド系作家、ラジヴ・ジョセフによる2015年の2人芝居を、名翻訳家の3代目・小田島創志の訳、小川絵梨子演出で。エグ過ぎる設定と、弱い個人が突きつけられる究極の選択。目を背けたいんだけど、ぐいぐい引きづられる。新国立劇場小劇場の前のほう、やや下手寄りで5832円。休憩無しの1時間半。

舞台は1648年、インド・ムガル王朝の都市アグラ。建設に20年以上を費やした王家の霊廟タージマハルが、ついに完成の日を迎える。生真面目な若者フユーマーン(成河)は、共に警備につく幼馴染みバーブル(亀田佳明)のやんちゃぶりに気を揉んでいる。やがて皇帝シャー・ジャハーンの残酷きわまりない命令が、2人を追い込んでいく。
権力の理不尽に対する怒りというよりも、フユマーンの深い絶望が胸をつく。凡人の保身、狡さは、誰だって覚えがあること。やってしまってからの、圧倒的な喪失感がなんとも辛い。だからといって、どんな選択肢があったのか。歴史で繰り返される、人間性否定の罪深さ。

小柄な成河が醸し出す切なさは、期待通り。対する自由人、亀田も達者だ。「岸 リトラル」主演も凄まじかったけど、今回の方が存在感が強かった。文学座恐るべし。
凄惨なシーンがある一方で、荘厳なタージマハルの光景や妄想の発明品など、観る者の想像力に訴える手法も印象的だ。特に空をいく鳥の群れの、自由への憧れ。美術は二村周作。

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談春「明烏」「芝浜」

35周年記念立川談春独演会 阿吽ーー平成から令和へ   2019 年12月

年末らしい、楽しみな演目の独演会を、友人夫妻と。師匠、どこか力が抜けて、いい感じだ。2000人収容という昭和女子大人見記念講堂の中央、やや前のほうで4500円。

前座なしで師匠が登場し、1席目は「明烏」。メーン前の滑稽な噺なんだけど、人物がくっきりして聞き応えがある。町内一のワル2人組の、ダメ男ぶり、脱線ぶりが可笑しくてたまらない。

中入り後はマクラ無しで、ネタ出し(予告演目)の「芝浜」だ。相変わらず巧いんだけど、それだけでない。女房が嘘をついた理由とか、解釈は目立ち過ぎず、自然に泣けてくる。テーマは忘れるということ、なのかな。年の瀬、除夜の鐘にひととき耳を澄ます情感と、自堕落な人間が過去は過去として受け入れ、前を向いて生きていけることの幸せ。染みました~

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フローレス コンサート

ファン・ディエゴ・フローレス テノールコンサート  2019年12月

年の瀬に、楽しみにしていたフローレスのコンサートへ。METライブビューイングでお馴染み、1973年ペルー生まれの華麗なロッシーニ唄いだ。サンフランシスコ出身のクリストファー・フランクリン指揮、オケは若々しい東京21世紀管弦楽団。音響抜群のサントリーホール、上手寄り前の方で3万2000円。
フローレスといえば、MET「チェネレントラ」など、超絶技巧とアンコールのイメージが強い。期待通り、ハイCを軽々と決めてくれる。カウフマンや若手グリゴーロと比べると、迫力というより繊細な印象だ。2部構成で、まず得意のロッシーニに始まり、ドニゼッティからヴェルディ。休憩後はノリノリのレハール、マスネ、劇的なグノー、そして定番プッチーニと、幅広い名アリアを聞かせてくれました。
そしてアンコールはやおら椅子が持ち出され、なんとギターの弾き語りをたっぷりと。いやー、サービス精神も素晴らしいです。楽しかった!
以下セットリストです。

・ロッシーニ:オペラ《ラ・チェネレントラ》より 序曲
  Sinfonia from Rossini (Rossini)
・ロッシーニ:歌曲「さらば、ウィーンの人々よ」
  “Addio ai Viennesi” (Rossini)
・ロッシーニ:《老いの過ち》より「ボレロ(黙って嘆こう)」
  “Bolero(Mi lagnerò tacendo)”, from Peches de Vieillesse (Rossini)
・ドニゼッティ:オペラ《ドン・パスクワーレ》より 序曲
  Sinfonia from Don Pasquale (Donizetti)
・ドニゼッティ:オペラ《愛の妙薬》より「人知れぬ涙」
  “Una furtiva lagrima”, from L’elisir d’amore (Donizetti)
・ドニゼッティ:オペラ《ランメルモールのルチア》より
「わが祖先の墓よ……やがてこの世に別れを告げよう」
  “Tombe degli avi miei… Fra poco a me ricovero”, from Lucia di Lammermoor (Donizetti)
・ヴェルディ:オペラ《ルイーザ・ミラー》より 序曲
  Ouverture from Louisa Miller (Verdi)
・ヴェルディ:オペラ《第一次十字軍のロンバルディア人》より
「私の喜びで彼女を包みたい」
   “La mia letizia infondere” , from I Lombardi alla crociata (Verdi)
・ヴェルディ:オペラ《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》より
「あの人から遠く離れて…燃える心を…おお、なんたる恥辱」
  “Lunge da lei… De’miei bollenti spiriti… O mio rimorso” , from La traviata (Verdi)
・レハール:オペレッタ《微笑みの国》より「君はわが心のすべて」
  “Dein ist mein ganzes Herz”, from Das Land des Lächelns (Lehár)
・レハール:オペレッタ《パガニーニ》より「女性へのキスは喜んで」
  “Gern hab’ich die Frau’n geküsst”, from Paganini (Lehár)
・レハール:オペレッタ《ジュディッタ》より「友よ、人生は活きる価値がある」
  “Freunde, das Leben ist Lebenswert”, from Giuditta (Lehár)
・サンサーンス:オペラ《サムソンとデリラ》より バッカナール
  Orchestral Bacchanale from Samson and Delilah (Saint Saens)
・マスネ:オペラ《マノン》より「消え去れ、やさしい面影よ」
  “Ah fuyez, douce image” , from Manon (Massenet)
・グノー:オペラ《ファウスト》第3幕より「この清らかな住まい」
  “Salut! demeure chaste et pure”, from Faust (Bizet)
・マスカーニ:オペラ《カヴァッレリア・ルスティカーナ》より 間奏曲
  Intermezzo, from Cavalleria Rusticana (Mascagni)
・プッチーニ:オペラ《ラ・ボエーム》より「冷たい手を」 
“Che gelida manina”, from Labohéme (Puccini)

ENCORES~
・コンスエロ・ベラスケス:「ベサメ・ムーチョ」 ”Bésame mucho” / Consuelo Velázquez
・キリノ・メンドーサ・イ・コルテス:「シェリト・リンド(愛しい人)」 ”Cielito Lindo” / Quirino Mendoza y Cortés
・トマス・メンデス:「ククルクク・パロマ」”Cucurrucucú paloma” / Tomás Méndez
・アウグスティン・ララ:「グラナダ」 ”Granada” / Agustin Lara
・G.プッチーニ:オペラ《トゥーランドット》より「誰も寝てはならぬ」 “Nessun dorma”,from Turandot / Giacoo Puccini
・チャブーカ・グランダ:シナモンの花 ”La flor de la canela” / Chabuca Granda

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文楽「一谷嫩軍記」

第209回文楽公演  2019年12月

12月恒例、中堅を応援する公演に足を運ぶ。並木宗輔の遺作「一谷嫩軍記」で、いよいよ玉助さんが大役・直実とあって感慨深い。太夫は引き続き、奮起を期待。国立劇場小劇場、中央の前の方で6400円。休憩を挟んで4時間半。
「熊谷陣屋」は歌舞伎で数回、文楽でも2回観たことがあるけど、今回は「陣門の段」からの上演で、経緯がよくわかる。冒頭の直実が手傷を負った一子・小次郎(一輔)を救出するところで、敦盛と入れ替わるんですねえ。敦盛のフィアンセ玉織姫が、横恋慕した平山の手にかかっちゃう「須磨浦の段」をへて、「組内の段」。謡ガカリに始まる厳かさのなかに、直実が敦盛、実は身代わりの我が子を討つという、悲壮なシーンだ。小さい人形が遠方の人物を表すといった仕掛けも面白い。
「熊谷桜の段」で制札のフリがあり、いよいよクライマックス「熊谷陣屋の段」へ。二人の母、石屋、実は因縁ある平家の武将が登場し、ジェットコースターのように事態が展開していく。変転するそれぞれの運命が、まさに無常。玉助さん大活躍です。織太夫・燕三、靖太夫・錦糸のリレーで、さすがに安定し、人形も相模に勘彌、藤の局に蓑二郎、義経に玉佳となかなか見ごたえがあった。
伝承の敦盛塚や制札、青葉の笛が、須磨に現存しているというのも興味深いです。いつか見たいもんですね。ロビーでは勘十郎さんらが、台風19号被害への義援金を募ってました。

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Q

NODAMAP第23回公演「Q A Night At The Kabuki Inspired by A Night At The Opera」  2019年12月

映画で「ボヘミアン・ラプソディ」現象が起こる前に、クイーンメンバーからオファーを受けて、名盤「オペラ座の夜」にちなんで野田秀樹が作・演出。いつにも増して、野田さん一流の時空を超えたイメージの飛躍に目が回っちゃうけど、メッセージは意外にストレートで、心に響く秀作だ。
シベリア抑留の悲劇からは、人間性の否定に対する強い怒りが、そして「30年後に届く手紙」からは、切ない鎮魂の思いが鮮烈に立ち上る。終わらない争い、世界の分断のなんと罪深いことか。60代の野田さん、全く衰えてません。
東京芸術劇場プレイハウス、後ろ寄り上手で1万2000円。休憩を挟んでたっぷり3時間だけど、長く感じない。

全編にクイーンの楽曲を流しつつ、「見立て」などカブキの色彩が色濃い感じ。お馴染み「ロミオとジュリエット」の構図を、源平の争いに置き換えた。1幕では生き残った「それからの瑯壬生」(ろうみお、上川隆也)と「それからの愁里愛」(じゅりえ、松たか子)が、映画「ゴースト」よろしく若い瑯壬生(志尊淳)と愁里愛(広瀬すず)を見守り、なんとか悲劇を食い止めようとする。ポップなセット(いつもの堀尾幸男・美術、ひびのこづえ・衣装)に、歌舞伎の寺子屋や熊谷陣屋、俊寛を思わせるシーンが散りばめられる。
2幕になると、「届かない手紙」の紙飛行機が爆撃機に転じて、物語がぐっと深まる。若き日の恋人の望み通りに「名(家)」を捨て、無名戦士となった瑯壬生は、尼寺に行って(ハムレット!)従軍看護師となった愁里愛と束の間再会するものの、やがて国家に翻弄されていく。存在を「なかったこと」にしてしまう残酷さ、深い喪失感と絶望、それでも思い続ける、ということ。終幕に至って、クイーンの名曲の叙情が胸に染み入る。ドラマの合間には2019年を象徴する「ハカ」など、遊びもぎっちりでした~

俳優陣では松が凛として出色。マイムの仕草一つひとつが、高水準で美しい。頼朝役の橋本さとしのかつらが落ちちゃうアクシデントで、咄嗟にポーンとかつらを蹴飛ばす瞬発力! さすが舞台女優、進化してるなあ。
対する上川は、コメディーセンスと生真面目さの切り替えで包容力を発揮。個人的には殺陣の切れ味が、今回の発見でした。注目の初舞台、広瀬は声がよく伸びて、存在がキラキラしていて楽しみだ。志尊も健闘。金満・清盛と、おどおどした兵士の2役を演じた竹中直人が手練れぶりを見せつける。ほかに源の乳母で野田秀樹、平の母などで羽野晶紀、平の家臣で小松和重、巴御前などで伊勢佳世ら。

分厚いパンフレットも豪華で、なんと吉永小百合との往復書簡も収録。チケットは購入時に来場者の氏名を登録したうえ、「指定の公的な文書」で本人確認する厳重さだった。野田さん、本気です。人気公演のチケットでは、こういう煩雑さがデフォルトになっていくのかしらん。
劇場前の西口公園がきれいになって、屋外ステージもできてました~

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U2 THE JOSHUA TREE TOUR 2019

U2 THE JOSHUA TREE TOUR 2019   2019年12月

私的な2019年のテーマ「アイルランド」の仕上げは、13年ぶりのU2来日公演。素晴らしかった! すべてが高水準で、もしかすると清志郎復活コンサート以来の感動だったかも。さいたまスーパーアリーナ、下手寄りスタンドをだいぶ上がった400レベルだったけど、エネルギーがしっかり響いてきて大満足。ごくシンプルなロックバンドで、ここまでできるとは。S席1万9800円。企画・制作・招聘LIVE NATION JAPAN/H.I.P。

1987年リリースの名盤「ヨシュア・トゥリー」全曲再現を核とする強力なセットリストに、まず涙。ボノの魂を揺さぶるボーカル、格好いいバンドサウンド、平和と平等を訴える明快なメッセージ。
冒頭、「Sunday Bloody Sunday」でもう大興奮だ。アリーナに張り出したツリーの形のステージで、初期の代表曲を立て続けに。ボノがライブ直前、凶弾に倒れた「テツ・ナカムラ」への追悼を呼びかけて、マーティン・ルーサー・キング牧師を歌った「Pride」。巨大な会場はスマホのライトで埋まり、星空に変わった。感動~ 
メンバーがメーンステージに移って、真っ赤なスクリーンに4人のシルエットが浮かぶと、いよいよ「Where The Streets Have No Name」から怒涛のアルバム全曲再現。200 X 45フィート(61☓14 m!)の湾曲した巨大スクリーンに、アメリカ南西部のハイウェイを疾走する鮮やかな8K映像が投影されて、一気に飲み込まれる。アルバムジャケットを撮影したアントン・コービンによる映像には、ルーツミュージックへのリスペクトが溢れてた。
アンコールはアルバム以降の曲で、映像ではボノが展開する貧困撲滅キャンペーンや、世界中で活躍する女性をアピール。オノ・ヨーコ、草間彌生、紫式部、川久保玲らも登場し、リサーチが行き届いてます。日本語のメッセージ、そしてラストはなんと、スクリーンいっぱいの「日本」の文字。メンバーチェンジも活動休止もなく、第一線で音楽を作り続けてきたバンドの底力に圧倒されました。

アルバム30周年記念のツアーは、2017年にスタートし、世界各地を回っている。なんとダブリンでは7万8000人を動員、南米からインドまで。テロ対策なのか、持ち込み荷物の制限は厳しいけど、入ってしまえば飲食、スマホでの動画撮影は自由。拡散されればライブに足を運ぶ価値が上がる、という盤石の自信がみなぎります。アリーナで、専用入り口などの特典や寄付つきのスタンディング席が6万円、というのも話題でした~

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以下セットリストです。

01. Sunday Bloody Sunday
02. Gloria
03. New Year's Day
04. Bad
05. Pride (In the Name of Love)
---The Joshua Tree---
06. Where the Streets Have No Name
07. I Still Haven't Found What I'm Looking For
08. With or Without You
09. Bullet the Blue Sky
10. Running to Stand Still
11. Red Hill Mining Town
12. In God's Country
13. Trip Through Your Wires
14. One Tree Hill
15. Exit
16. Mothers of the Disappeared
17. Desire
---encore---
18. Elevation
19. Vertigo
20. Even Better Than the Real Thing
21. The Best Thing
22. Beautiful Day
23. Ultraviolet (Light My Way)
24. Love Is Bigger Than Anything in Its Way
25. One

 

スペードの女王

野村グループpresents マリインスキー・オペラ「スペードの女王」  2019年12月

3年ぶりのマリインスキー歌劇場、指揮はもちろん芸術総監督ワレリー・ゲルギエフだ。プーシキン原作の幻想的で屈折した悲劇を、美しいチャイコフスキー節(1890年初演)と確かな歌唱、スタイリッシュな演出で堂々と。東京文化会館大ホールの上手ウィングA席で3万6000円。休憩2回で4時間弱。

物語は18世紀末、エカテリーナ2世時代のサンクトペテルブルクを舞台に、士官ゲルマン(ウラディミール・ガルージン)の暗い情熱と破滅を描く。ゲルマンは可憐なリーザ(イリーナ・チュリロワ)が、かねて焦がれていた娘と知って、友人の婚約者なのに激しく言い寄っちゃう。一方で、カード賭博の必勝法「3枚の札」に取り憑かれ、その秘密を聞き出そうとリーザの祖母である伯爵夫人(アンナ・キクナーゼ)を脅し、なんと夫人はショック死! リーザはゲルマンの所業に絶望して運河に身を投げ、ゲルマンも賭けに負けて、夫人の亡霊とリーザに詫びながら息絶える。仮面舞踏会や幕間劇など、爛熟した宮廷文化と、人間の罪深さ、狂気が交錯して複雑だ。

歌手陣はチュリロワ(ソプラノ)が伸びやかで、第2場の女声デュエット「今はもう、夕べの刻」が美しく染みる。長椅子に横たわる姿も色っぽい。キクナーゼ(メゾ)はちょっと異様な存在感だ。老いてとぼとぼ歩きながら、華やかだった若い日々にとらわれていて哀切。期待したガルージン(テノール)は小柄だし、ベテランのせいか滑り出しは省力だったものの、徐々にエンジンをかけ、終幕「俺たちの人生とはなんだ?」などで熟達の表現を聴かせました。
初めて聴く演目で、カード賭博に馴染みがないせいもあり、ちょっと入り込みにくかったけど、アレクセイ・ステパニュク演出は重厚、かつ凝っていて目が離せない。冒頭と幕切れに、カードをもてあそぶ少年が登場して、運命を象徴。暗いステージに、荘厳な柱を自在に動かしてシーンを構築したり、白い彫刻たちが動き出しちゃう一方で、生きている人物が凍りついていたりして、現実感のなさが印象付けられる。
ロビーには財界人の姿も多く、オペラ公演らしかったです。

20191201-005

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