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終わりのない

終わりのない  2019年11月

前川知大の脚本・演出による、大風呂敷ど真ん中のSF。量子論やらAIを超える直感やら、旬のテーマで左脳が刺激されるだけではない。「今ここから、よりよく生きる」という、力強いメッセージが胸に残る。世田谷パブリックシアター中央あたりで7500円、休憩なしの2時間。世田谷文化財団とエッチビイ(劇団イキウメの制作部)主催。
高3で引きこもりの悠理(山田裕貴)は、プロダイバーの父(仲村トオル)、物理学者の母(村岡希美)、幼馴染の春喜(大窪人衛)、りさ(清水葉月)とキャンプにやってくる。湖で溺れかけ、目覚めるとなんと32世紀、地球を捨てた人類(安井順平、盛隆二ら)とAI(浜田信也)が、住処を求めて旅する宇宙船の中。さらに人類(森下創)が原始人に囲まれ、なんとか生きのびている惑星へ。果たして悠理は、21世紀に帰りつけるのか。
悠理はまあ、さえない奴だ。両親や友人に対するコンプレックス、かつて恋人・杏(奈緒)を深く傷つけたことへの後悔にとらわれている。けれど時空を超えて「ありえたかもしれない平行世界」を体験。どんなにさえなくても、かけがえのない「今」を希求するようになる。「俺を救えるのは俺だけ」。大きな人類の物語であり、同時にひとりの青年の成長談でもある。ちょっと消化不良のところは、再演で磨かれていくのかな。
山田は少し暗くて、頼りない造形で健闘してました。暑苦しい仲村、知性と愛情で受け止める村岡がいいバランスだ。清水も伸び伸びし、もちろん、劇団の面々は超安定。全体に抑制気味ながら、AIなのに徐々に人間らしくなっちゃう浜田が特にはまってた。
戯曲は意外にも、紀元前8世紀に英雄がたどる故郷への苦難の旅を描いたホメロス「オデュッセイア」に着想を得ている。プログラムによると、「オデュッセイア」を題材に、人間の意識の目覚めを読み解いた米心理学者ジュリアン・ジェインズの著作「神々の沈黙」をヒントにしたとか。いろいろ研究してます。個人的には今さらながら、トロイ戦争やオレスティアとの繋がりを確認。ギリシャ悲劇は苦手意識が抜けないけど、「リング」などファンタジーやゲームに通じる物語の原型があるなあ、と再認識しました~

終演後、新しいビルが続々で、変わりゆく渋谷の街を散歩しました。

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