ドクター・ホフマンのサナトリウム
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「ドクター・ホフマンのサナトリウム~カフカ第4の長編~」 2019年11月
カフカファンを自任するケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出による、めくるめく脳内迷宮を楽しむ。「カフカ第4の長編小説が存在した」という架空の設定で、原稿でひと稼ぎしようとする男が不条理な小説世界、さらにはカフカが生きた過去に迷い込んじゃう。
タフな戯曲だと思うけど、オシャレな演出と、大好きな多部未華子はじめ豪華キャストの確かな演技で、余韻が深い。演劇好きが集まった感じのKAATホール、2階で9500円。休憩を挟んで3時間半。
晩年のフランツ・カフカと交流があった老女(麻実れい)がもっていた遺稿を、孫息子(渡辺いっけい)が見つけて出版社に買い取らせようと奔走。ひとクセある友人(大倉孝二)とともに、なぜかカフカが療養していた1920年代のサナトリウムにタイムスリップする。その小説のなかでは、うら若い女性(多部)が婚約者(瀬戸康史)戦死の知らせを受け、真偽を確かめようと戦地に向かう。
物語はとても入り組んでいる。けれどストーリーを追うというより、登場人物の美しい身のこなしなどからにじむ、生きることの不穏や孤独を味わう舞台だ。お馴染みプロジェクションマッピングと、シンプルな椅子などを動かしながら展開していく、精緻な構成に引き込まれる。ケラさんらしい、登場人物のパンダメークが虚構感を強める。映像は上田大樹、美術は松井るみ、小野寺修二が振付という、鉄壁の布陣です。
多部の健気さが際立ち、渡辺のこすっからさも説得力がある。もちろん、脇を固める犬山イヌコ、村川絵梨、緒川たまきらも安定。瀬戸がなんだか渋くなってきて、いいなあ。バイオリンなどの楽団が、演奏しながら演技にもからむスタイル。
実際にはプラハ生まれのユダヤ人カフカは、作家としては無名のまま40歳で病死。長編は3作とも未完で、没後に友人の編集者が発表したそうです。それがいまや、ジョイス、プルーストらと並び20世紀を代表する作家と言われていて、確かに物語にしてみたくなる存在だな。
プログラムがまた凝っていた。「フェイク」がテーマだけに、プログラムは見開きごとに袋とじになっていて、虚と実が交錯する作り。うなります。
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