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死と乙女

シス・カンパニー公演 死と乙女  2019年10月

チリのアリエル・ドーフマンによる1991年初演作を、「スカイライト」の渡辺千鶴訳、安定の小川絵梨子演出で。理性の不確かさを突きつける三人芝居で、ひりひりと観る側に緊張を強いる。ほぼ1年半ぶりに観る宮沢りえが、狂気を漂わせて圧巻だ。贅沢な小空間のシアタートラム、下手寄り中段で8000円。暗転を挟みながら休憩無しの1時間半。
独裁政権崩壊直後、電話もない静かな岬の一軒家。パンクで立ち往生した弁護士ジェラルド(堤真一)が、通りかかった医師ロベルト(段田安則)の車に送られて帰宅する。妻ポーリーナ(宮沢)はロベルトの声から、反政府活動をしていた十数年前、自分を残酷に拷問した人物だと確信、銃で監禁して「自白」を迫る。
ベースは1973~90年のピノチェト独裁政権下で、4万人が政治犯としてとらわれ、左派市民3000人が殺害もしくは行方不明となった現代史。しかし抑圧による人間性の破壊というテーマにとどまらず、人はいかにして加害者になるか、という普遍的な問いを放つ。
真相は最後まではっきりとは語られないけれど、ロベルトがなんとか解放されようと、いかにして一線を超えたか、を告白するシーンは、真に迫って背筋が寒くなる。対するポーリーナも、復讐の深みにはまって暴力的。そして何より、ロベルトを解放しようとするジェラルドこそ、独裁時代の人権侵害調査という大役を得た立場を守ろうとする偽善の気配が漂っていて、残酷だ。
露悪的なセリフを連発するポーリーナ役が成立するのは、宮沢の透明感、凛としたたたずまいあってこそだ。車のライトやベランダを使った陰影の濃いセット(美術は松井るみ)と、幕切れに至るシューベルトの端正さが効果的。
台風の余波で開始時間が遅れたけど、さすが、それほど空席はなかったです。

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