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桜姫

阿佐ヶ谷スパイダース「桜姫~燃焦旋律隊殺焼跡 もえてこがれてばんどごろし~」  2019年9月

四代目鶴屋南北「桜姫東文章」をベースに、長塚圭史が作・演出した、劇団公演第2弾の千秋楽。血糊だの痣だのグロテスクで荒唐無稽だけど、ボロボロになっても「生きたい」という人間の欲が鮮烈で、どこか痛快だ。すべて生音の効果音と、荻野清子の音楽がファンタジックで効果的。ファンが集結している感じの吉祥寺シアター、下手後ろ寄りで5500円。休憩を挟み3時間弱。

清純な孤児・吉田(藤間爽子)が、悪党.・権助(伊達暁)への歪んだ愛ゆえに女郎にまで転落、また、かつて少年・白菊との心中でひとり生き残ってしまった篤志家の清玄(中村まこと)が、少年の転生と思い込んで、桜姫にさらに歪んだ愛を寄せる。悲惨と倒錯と混乱という大枠は原作をなぞっているけど、もちろん、それだけでは終わりません。
まず時代を戦後復興期とし、権助の救いようのない悪に、従軍の傷をにじませたのが巧い。ラストも南北流の因果応報ではなく、吉田に捨てられた入間(大久保祥太郎)が突然暴走して、びっくり。また吉田が常に女隊長(ちすん)率いる楽隊を幻視している、という設定で、俳優たちがピアニカやウクレレで劇伴を奏でる。この楽隊が、愚かでヤケッパチな男女の所業を民話的に彩っていて、引き込まれる。

俳優陣ではタイトロールの爽子が、小柄ながら独特の透明感と色気で舞台を牽引。日本舞踊家・藤間紫(猿翁の奥さん、東蔵さんの姉)のお孫さんなんですねえ。さすが~ 清玄を陥れるチンピラ三月に中山祐一朗、その愛人・長浦に村岡希美と、悪人ぶりが盤石。長塚も開演前に客席案内をしていたかと思うと、ドブ川の頭と見世物小屋座長で登場。

2009年に、亡き勘三郎の依頼で長塚が書き下ろした「南米版・桜姫」(串田和美演出)を観たんだけど、実は当初は今回の戯曲を構想していたとのこと。そのせいか、コクーン歌舞伎でお馴染み、舞台後方の大道具搬入口を開ける演出も。床の穴なども駆使し、立体的で緻密でした。

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