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月光露針路日本 風雲児たち

六月大歌舞伎 夜の部  2019年6月

雨まじりの歌舞伎座。あえて昼の重厚な古典ではなく、幸四郎が座頭を務める夜の新作を鑑賞した。三谷かぶき「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)風雲児たち」。みなもと太郎の漫画を原作に、三谷幸喜が作・演出。天明2(1782)年、嵐でロシアに漂着し、十年かけて帰国を果たした船頭・大黒屋光太夫の苦難を描く。
笑いたっぷりなんだけど、運命に抗う普通人の気概、それでも叶わないこともあるという過酷が、終盤で思いがけず胸に迫ってきて、「俊寛」さえ思わせる。三谷作品の経験がある座頭・幸四郎、猿之助、愛之助がイキイキと舞台を牽引。特に愛之助は昼が封印切の八右衛門で、大活躍だ。染五郎、種之助(歌昇の弟)ら若手も見せ場があり、そのチャレンジする姿勢と熱気が気持ちいい。花道手前の良席で1万8000円。休憩2回を挟んで3時間半強と展開もスピーディー。

プロローグで、眼鏡にスーツ、やたら格好つけた「教授風の男」(松也)が花道から現れ、家康の一本帆柱などを解説。歌も客席いじりも堂に入ったコメディアンぶり。贅沢な配役だ。続いて1幕は嵐の後、あてどなく漂流する神昌丸の甲板。不平ばかり言う庄蔵(猿之助)、2枚目だけど沢庵を独り占めしちゃう新蔵(愛之助)がさすがに目立つけど、徐々に17人のキャラが明らかに。三谷群像劇らしい。そのなかでリーダー光太夫(幸四郎)は、皆を励まそうと御籤を始めるが、逆効果になっちゃって頼りない。
やがて先住民が幅を利かすアリューシャン列島のアムチトカ島に漂着。帰国のすべを求め、2幕にかけて厳寒のカムチャッカ半島、オホーツク、ヤクーツクと西へ西へ移動していく。数年に及ぶ過酷な流浪生活で、仲間は次々に命を落とす。なかでも懸命に炊事役を務めてきた与惣松(種之助)の最期が切ない。
それでも光太夫は「生き残るのは、必ず生きて帰ると強い意志を持つ者だ」と喝破し、役人とも交渉。どんどんリーダーらしく、頼もしくなっていくのが、しっかりと長大な物語の軸になっている。要領の悪かった若者・磯吉(染五郎)は通訳を務めて成長し、年増の恋人アグリッピーナ(白鸚の部屋子・高麗蔵)を振り切って光太夫につき従う。りりしい! 
盛り上がるのはイルクーツクを目指し、犬ぞりで雪原をひた駆けるシーン。犬たちはまるでMAN WITH A MISSIONで、けっこうリアル。庄蔵が振り落とされたりしてスペクタクルだ。

3幕のイルクーツクに至ってようやく、ロシア政府から宿舎を与えられ、光太夫は有力者と懇意にして小金を受けとるようになる。暮らしは安定したものの、長老・久右衛門(彌十郎)は反発し、洋装がすっかり板についた新蔵といえば、長身のマリアンナ(彌十郎の長男・新悟)と付き合い始めちゃう。もう帰国はあきらめるのか?
…と思わせたところでキーマン、博物学者のキリル・ラックスマン(八嶋智人)登場。舞台を所狭しと動き回ってハキハキしゃべり、さすがの存在感だ。ロシア政府は日本の情報が欲しい、逆にロシア情報は流出させたくないから、ロシアにとどまって日本語教師になれと勧めるが、光太夫の決意が揺るぎないことを知り、首都サンクトペテルブルクへ連れて行く。
豪華絢爛の宮殿シーンへの転換が鮮やか。まるっきり宝塚です。秘書官で猿翁一門の最古参、90歳近い寿猿と、女官で上方の大ベテラン、やはり80代の竹三郎、さらにはポチョムキン公爵の白鸚が堂々と。そして待ってました、猿之助の女帝エカテリーナのお出まし! 蜷川仕込みのキンキラキンドレス、そして衣装に負けない貫禄だ。この人、ずっと何かしら小技を見せるけど、やっぱり女傑がいちばんお似合い。謁見した光太夫に共感して、帰国を許す。
とはいえ単純なハッピーエンドでは終わりません。庄蔵(素早い衣装替え!)と新蔵は洗礼を受けてしまい、帰国を断念。しかし望郷の思いに変わりはない。想像を絶する苦難をともにしてきた光太夫と2人との、苛烈な別れに涙。竹本が入り、3人がディスカッションして作り上げたという歌舞伎らしいシーンでした~

エピローグはエカテリーナ号の船上。ずっと素っ頓狂な言動で場をなごませてきた小市(左團次の長男・男女蔵)までが、日本を目前にして力尽き、ついに一行は光太夫と磯吉2人きりになっちゃう。幕切れに忽然と姿を現す富士山。その晴れ晴れした姿の、なんと切ないことか。野田秀樹、いのうえひでのりなどでお馴染み、堀尾幸男の美術が冴えてました。歌舞伎俳優がマイクをつけてたのが不思議だったけど、あまり使っていなかったような… とにかく面白かったです!
受付には紀香さまの姿も。綺麗です。
20190615-019 20190615-014 20190615-001 20190615-023

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