キネマと恋人
世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#009 キネマと恋人 2019年6月
台本・演出ケラリーノ・サンドロヴィッチ。評判通り、お洒落でキュンと切なくて、緻密な舞台に引き込まれた。ウディ・アレン「カイロの紫のバラ」を1936年の日本に移した大人のファンタジックコメディで、2016年初演時のキャスト、スタッフが集結。当時は200席のシアタートラムで、全くチケットがとれず悔しかった。今回はキャパ3倍の世田谷パブリックシアターとなり、やや下手寄り前の方のいい席で7800円。休憩を挟んで3時間半弱とさすがに長尺だけど、疲れません。
設定は不況の余波と軍国主義が影を落とす、片田舎の「梟島」。「ごめんちゃい」とか「夢みたいだり」とか、架空の訛りがまずチャーミングで、笑いもたっぷり。
一方で、随所に挟まるダンスや、アンサンブルが装置を出し入れするときの、体を斜めにするような動きは実にクール。可動パネルで映像とリアルを見事にコラージュしたり、木枠だけで部屋を表現したりするのも格好いい。なにしろ映像・上田大樹、振付・小野寺修二、美術・二村周作と手練揃いだもんなあ。
物語の骨格は映画のままで、エンタメ好きが夢の世界に浸る喜びにあふれてる。辛い日常を映画で紛らわす人妻ハルコ(緒川たまき)が、スクリーンから抜け出たお気に入りの登場人物・寅造(妻夫木聡)から熱烈に口説かれ、さらに寅造を演じる俳優・高木(妻夫木が2役)とも恋に落ちちゃう。まさに映画のような展開に、高木との駆け落ちを決意するものの、結局置いてけぼりにあう。
独自に膨らました要素もかなりあって、ドライに突き放すウディ・アレン節より、ずっと温かみを感じる。
例えば寅造はヒーローでなく、おちゃらけた脇役。娯楽性や喜劇への賛歌が微笑ましい。緒川のウクレレで妻夫木が熱唱する「私の青空」の、なんと愛らしいこと! またハルコの妹ミチル(ともさかりえ)は、ロケにきたスター嵐山進(橋本淳)に遊ばれちゃう。無残な現実を突きつけられつつも、姉妹は河原で並んで語り合い、なんとか乗り越えていく。なけなしの強さが胸にしみる名場面だ。
妻夫木はピュアでちょっと頼りなく、緒川は古風なビジュアルと大胆さという、それぞれの個性が役にぴったり。同時に2人とも、丁寧な作り込みも忘れてません。妻夫木の大衆的な時代劇の空気とか、緒川の、猫背でくねった姿勢とか。大好きなともさかが、新しい魅力を見せる。ちょっとタガが外れた子持ち女で、はすっぱなんだけど持ち前の可憐さも。
ワキもみな数役をこなして充実。特に脚本家や映画館の売り子の村岡希美が、いい抑え役だ。ハルコのDV夫に三上市朗、高慢な嵐山に橋本淳、マネージャーに佐藤誓ら。カーテンコールで妻夫木が、高木から早変わりで寅造になる大サービス。よかったです!
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