オレステイア
オレステイア 2019年6月
アイスキュロスのギリシャ悲劇をベースにした、オリヴィエ賞の最年少(29歳!)最優秀演出家賞受賞者ロバート・アイクの戯曲を、「炎アンサンディ」の俊英・上村聡史が演出。知的で非常に凝った舞台だけど、もともと250席ほどの劇場で初演されたせいか、空間的・時間的にまのびした感は否めないかな。知人のエコノミストら演劇好きが集まった感じの新国立劇場中劇場、前の方で7776円。休憩を挟んで4時間半。
物語はトラウマのあまり記憶を失った殺人犯オレステス(生田斗真)への裁判で、精神科医(ナイロン100℃の松永玲子)がインタビューする、というかたちで進む。オレステスの回想による検証で、父アガメムノン(横田栄司)が国家のために娘イビゲネイア(趣里)を生贄にし、母クリュタイメストラ(神野三鈴)と不倫相手のアイギストス(横田の2役)に復讐される。その母を討ったのは、と問われ、オレステスは「姉さん=エレクトラだ」と主張する。
コロスを排し、大胆に映像を使ったのが面白い。後方スクリーンに象徴的な「証拠品」を映し出したり、人物と重ねたり。母殺しに導く運命の女エレクトラ(宝塚出身の音月桂)が実在せず、強いストレスを受けたオレステスの分裂した人格だ、というユニークな謎解き。オレステスを糾弾する復讐の女神(文学座の倉野章子)も妄想の趣だ。
15年ロンドン・アルメイダ劇場初演とあって、現代的な解釈が刺激的。サフランなどドレスの鮮やかな色分けや、血染めのカーテン、啓示につながる「くしゃみ」など仕掛けもたっぷりだ。とはいえ観客を巻き込んだ法廷劇の末に、男性尊重で無罪となる結末は、割り切れなさが残るかなあ。古典は愛憎劇の基本なんだろうけど、やっぱりギリシャ悲劇は難しい… 翻訳は平川大作、美術は「キネマと恋人」などなどの二村周作、映像は栗山聡之。
タイトロールの生田は、少年時代を含めて不安定さ、苦悩を熱演。神野の説得力、趣里ちゃんのリズムが際立つ。