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夜桜能「野守」「咲嘩」「恋重荷」

第27回奉納靖国神社 夜桜能 第三夜 2019年4月

2年ぶり、平成最後の夜桜能。昨夜から一転して暖かくなり、満開の桜と炎の抜群のシチュエーションで、人間国宝・野村萬、梅若実の至芸を堪能する。意外に若い人が多い靖国神社能楽堂。脇正面にあたるAブロック前の方のいい席で1万2000円。

いつものようにおごそかな火入れ式からスタート。松田公太さん、宮台 真司さんらがつとめる。火が目の前で迫力満点。
まず世阿弥の鬼神物「野守(のもり)」を、角当直隆(梅若会)の面・装束をつけない舞囃子で。山伏が大和・春日の里で番人・野守(角当)と出会い、水鏡(泉)をめぐって言葉をかわす。今回はその後、野守が鬼神の正体を現し、鏡(扇で表す)に天上から地獄までを映してみせたあと、大地を踏み破って去っていくくだりでした。おおらかだなあ。

続いてお楽しみ狂言「咲嘩(さっか)」。田舎者で連歌好きの主人(アド、野村万之丞)が京に住む伯父に宗匠(指導者)を頼もうと、太郎冠者(シテ、野村萬)を迎えに出す。名前も住居も聞き忘れ、呼ばわって歩くのをみて、いいカモだと「見乞の咲嘩」(見たものすべて奪う盗人、野村万蔵)がついてきちゃう。主人は体よく追い返せと言いつけるが、太郎冠者は頓珍漢を繰り返すばかり。それがかえって咲嘩をやり込める。
主人を真似る太郎冠者が、まるきり落語の与太郎で可笑しい。萬さんの口調は抑揚が豊かでいいなあ。お元気で何よりです。

休憩に温まる甘酒と、おにぎりで腹ごしらえ。最後は能で世阿弥の妄執物「恋重荷」だ。白河院の庭で菊を育てる荘司(シテ、梅若実)は、かいま見た女御(ツレ、松山隆之、75年生まれの実さんのお弟子)に恋をする。女御が荷を持って庭を巡ったら再び姿を見せる、というので張り切るが、荷が重すぎてかなわず(謡いどころのロンギ)、絶望して死んでしまう。女御がその躯に涙していると、動けなくなり、荘司の亡霊が登場してさんざん恨みごとを言う(立回り)。だが最後には、弔ってくれるなら守護神になろうと言って成仏する。
身分違い、かつ年齢の離れた無茶な恋心を弄ばれる、あんまりなお話だ。後シテの亡霊の面は、見るも恐ろしい。立回りがおとなしめなのは、体調ゆえか。しかし橋掛かりで杖を打ち捨てるシーンに、きっぱりと希望が宿る。けなげだなあ。昨秋、実襲名披露の間に十二指腸潰瘍に倒れ、かなり深刻だったそうですが、見事復活し、パリ公演をこなして萬さんとともに芸術文化勲章を受章。拝見できて良かったです!

 

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